第10話 狂乱
物語は狂い始める。戴冠が終わり、叛逆の騎士によって魔聖は摘み取られるはずだった。獅子の冠は、それを
パーシヴァルはコトハとモルドレッドを《《とある廃墟》》に運びこんだ。廃墟と呼ぶには荘厳な、厳格な建物、柱がいくつも並び円卓が鎮座する。そう。ラウンドテーブル・キャメロット、そのなれの果てだった。
「いてて……」
「容赦ないなぁパーシヴァル姐さんは」
「誰が姐ですか、いい加減にしなさいモルドレッド」
赤髪の騎士乙女は怒る。金髪碧眼のニューフェイスはこともなげに。
「さっさと戴冠の儀を済ませよう、ナハトも近い、一刻を争うんだ」
「それにはコトハの意思が重要だ」
「不必要だ」
「あんだと」
コトハが食って掛かる。モルドレッドは呆れたように。
「魔聖を摘み取る最大限のチャンスを一人の我儘で通せと言うんですか、パーシヴァル」
「マーリンにその意思がない以上、それは仕方のない事です」
「俺はコトハだ、マーリンじゃない」
「こんな素人、相手にするだけ無駄だ、戴冠の儀と円卓の再結成を急がなくては」
「円卓の再結成? おいおいって事はまた
モルドレッドが盛大に溜め息を吐いた。魂まで吐き出しそうな勢いに、目を丸くするコトハ。
「そんなに悪い提案か?」
「マーリンは
「なんだよ、それ、俺だって戦える」
「それが異常自体だと言っている。ネメアの意思は王の選択以外の権能を持たないはずなのに」
「モルドレッド、そこまでにしなさい。コトハ、あなた本気でヴァルプルギス・ナハトを潰すつもりなんですか?」
「ん? ああ」
堂々巡りの論争を遮るように、ラウンドテーブル・キャメロットの扉が開かれる。
そこに現れたのは――
「ランスロット!?」
散り散りになった
「星の円卓の行く末は我が妃ギネヴィアが決める」
虚ろな瞳、現実を現実と捉えようとしない空っぽの視線、それだけで彼が異常な事態に巻き込まれているのは明白だった。そこにもう一つの声。
「最高傑作第二弾〜!」
「
「此処に来たのは愚策だったねパーシヴァル、先のグエルベリーの魔女戦で、この座標は割れてるんだ」
「迂闊だった……戴冠の儀の前に叩きに来たか……!」
モルドレッドが冷や汗をかく。意外そうに見つめるコトハ。
「なんでもいい、試し打ちだ」
――獅子の冠、暴虐の化身、喰らい尽くす牙と悉くを切り裂く爪、何よりもどんな刃も通さない毛皮、王の冠に相応しい鬣、しかし、それを英雄には譲らない。これは獅子に与えられた栄冠だ。試練の消化ではない。絞め落とされる事もない。世界に英雄はいない。そう、英雄は獅子自身。最高位の魔術師に獅子が宿り、世界は一変する。そうそれは最高峰の異能の頂点、弱点のない生命体の燃料は攻撃へと転化する。爆発へと点火する。全てを収め天下を取る。世界を統べる王となる
黄金の鬣を纏って、コトハは降臨する。ランスロットは動じない。オルアンは多少驚いた様子で。
「アーサー以外にもステラ・マギアを使う者が居たなんて」
そんな事より、コトハは目の前のランスロットという男に見覚えがあった。それは家の仏壇にある写真――
「星の座・
激突する。聖剣と王の爪、火花が散る。空間が軋む。世界がたわむ。ラウンドテーブル・キャメロットが揺れる。パーシヴァルとモルドレッドは息を呑む。
「我が裁決聖斬は邪悪を切り裂き、聖なる者を無に帰す。お前の判定は――」
「てめぇの判決なんて受けやしねぇ!」
剣と爪、爪が勝った。二撃目を加えようとするコトハ、何故か破顔するランスロット。その笑顔に――
「兄貴?」
コトハは兄弟の面影を確かに見た。
幼い頃に死んだはずの兄、その面影。写真でしか見た事ないような間柄。それでも家族の情が出た。
「正解、正解、大正解ー! この依代は神野コトハの兄の死体をベースに設計してみましたー! ランスロットの影響が大きくて、一目では判断出来ないけど、中々の完成度でしょ?」
オルアンが嘲笑う。弄ぶ。憤怒にコトハとパーシヴァルが駆け出す。
「死者を――」
「仲間を――」
「「侮辱するな!!」」
死体は脆く崩れ去る。終わってみればあっさりとした決着、しかし、心には確かに傷が残った。
「アンチノミー……あなたもしや」
「うん、他の円卓の死体も持ってるよ」
モルドレッドの問いに淡々と答えるオルアン。
「これから僕の事はグエルベリーの魔女と呼んで欲しいかな、そろそろサバトも近い事だしね」
「……返して貰うぞ、我が同胞の魂」
「サバトまでは遊んであげるよ、楽しみにしてなよ」
オルアンの姿は見えなくなった。まるで瞬間移動だ。
一瞬の戦闘。それが残した、心の傷痕はコトハとパーシヴァルに大きなダメージを与えたのだった。
――ステラ・マギアは覚醒した。グエルベリーの魔女を倒す可能性は産まれた。しかしかつての星の円卓は敵に回った。サバトは近い。世界は廻る。疑似人格・二律背反の企みは止まらない。邪知暴虐の策略はコトハ達を蹂躙する。戴冠の儀は執り行われない。嗚呼、残念だ。次代の王は現れない。世界は救われない。これを選んだのは神野コトハ、君自身だという事を忘れてはいけない。それは決して消えない罪なのだから。世界は巡る。王不在の世界はどこまでも祈りを待っている。
ステラ・マギアの亡霊 亜未田久志 @abky-6102
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