第8話 グエルベリーの魔女


 星の瞬きは一瞬だ。世界は無慈悲に過ぎて行く。これは終わった物語。冷酷に冷徹に冷静に、魔女は星を狩り取った。希望論は死に絶える。星を犠牲に。世界は廻る。何事も無かったかのように。世界は巡る。悲劇を無視するように。全ては夢現の星物語。星の座が紡ぐ物語に、終止符を打つのは銀の河。生贄の女神――


「グエルベリーの魔女によって星の円卓ゾディアック・オブ・ラウンズは甚大な被害を受けた。半壊状態と言っていい」

「アーサー、グエルベリーの魔女の。トドメを刺しましょう」

「そうはいかないよパーシヴァル。彼女は自己補完バックアップ破綻矛盾パラドックスを抱えている。まだ脅威は去っていない」


 そこで青髪の大男が口を挟む。


「アーサー、円卓を全員集めた理由はなんだ?」


 ランスロット、星の座ゾディアック天秤剣聖リブラパラディン

 残るメンバーもアーサーに怪訝な顔を向ける。

 緑髪の少年、ガラハッド、星の座・水瓶重盾アクエリアスウォール

 ピンク髪の少女、ガレス、星の座・乙女戦鞭ヴィルゴウィップ

 黒髪の青年、トリスタン、星の座・大蟹巨斧キャンサーアクス

 金髪の中性的な人物、ガウェイン、星の座・大蠍毒尾スコーピオンテイル

 他の星の円卓のメンバーはグエルベリーの魔女に殺された。

 そして、アーサー、銀の河ギャラクシア生贄女神アンドロメダ

 彼女もまた、右腕を失っていた。

 この場所は星の円卓が本拠地。「ラウンドテーブル・キャメロット」

 そこの空席、モルドレッドの位置に縛り付けられた女型の魔聖。グエルベリーの魔女。


「星の円卓、総がかりで私の手足をもぐ程度か、嗤わせる」

「減らず口を……!」

「ランスロット」

「ちぃ……!」


 グエルベリーの魔女はなおも笑う。


「それに自己補完=破綻矛盾も逃がしたままだ! 何度でも私は蘇るぞ!」

「やっぱりここで殺した方が……」

 ガレスが進言する。

 アーサーは思案する。


「グエルベリーの魔女、貴女は何故、魔聖を生み出せるのですか?」

「お前が星之刻印ステラサインを選び出すのと同じだよ、星に選ばれたのだ。それとも仕組みが知りたいか? ならば我が胎を抉り出して見ろ、分かるかもしれないぞ生贄処女おとめめ」

「あら、はしたない」

「気に障る!」


 グエルベリーの魔女とアーサーは相いれない。相互理解は不可能と思われた。


「そもそも魔聖と人間、会話してるだけで吐き気が出る」

「それもそうですね、我が左腕と共に終わりにしましょう」

「アーサー様! これ以上、生贄女神を使うのは!」

「それでしかこの魔聖は滅せません、止めないでください」


 アーサーは一呼吸置く、少女の胸が上下する。


「――生贄の女神は星の海と成りて、その松明の輝きを未来永劫の物とした。この光は世界の終わりまで失われる事は無い、嗚呼、神よ、どうか世界を救いたまえ、それならば、この腕差し出しましょう――星之刻印ステラサイン聖剣慟哭エクスカリバー・ロア


 辺りが宇宙へ変わる、真空状態、そこに現れる、極大の重力場ブラックホール

漆黒は輝きを飲み込み最後の黎明を魅せる。幻想は摘み取られ、現実には両腕を失った少女だけが残る。孤独な星の王。全てを失い、なおも足掻く苦痛の象徴。

 星の円卓の面々が別位相から帰還する。アーサーの技が発動する時は皆、別移送に逃げるのが鉄則だった。


「相変わらずおっかねぇ、塵一つ残ってねぇぜ」

「魔聖は塵にもなりませんよ、幻想なのですから」


 円卓の面々はそんな事を話し合う。パーシヴァルだけはアーサーの下へ向かい。


「腕は……」

「もう使い物になりませんね、切り落としてしまいましょう」

「……」


 ぽとり、腕を落とすアーサー。あっさりとした仕草だった。残るは両足のみ。

 最大の脅威、グエルベリーの魔女はこうした犠牲の上で祓われた、かに思われた。


「バックアップの出番かにゃーん?」

「!?」


 此処、ラウンドテーブル・キャメロットの存在を知るのは星の円卓のメンバーだけであるはずだった。なのに、ソレは来た。


「母上を此処で殺したのは、悪手だったね。母上が殺された瞬間に、その場所に転送されるように定められていたんだ」

「自己補完=破綻矛盾……!」

「それ長いから、バアパラって呼んで?」

「貴方も此処で倒します、この脚と引き換えて――」

「やってみなよ、楽しみだなぁ」


 ニヤニヤと嗤うグエルベリーの魔女と瓜二つの女。聖剣慟哭が唱えられ響き渡る。右脚の力が失われる。それと同時に宇宙が生まれ、消えていった。しかし――


「それだけ?」


 バアパラはそこに居た。そしてアーサーの姿が掻き消えて行く。


「何を――」

「全ての魔聖はグエルベリーの魔女から産まれた。希望論級アポカリプスクラスは人間の破滅願望から産まれた。ならば魔聖を生み出したのは他ならぬ人間だ。人間が人間を滅ぼそうとしている。なんて矛盾パラドックス! それの具現こそが僕! 新たなグエルベリーの魔女! その力は! 『反転』!」

「まさか!? 聖剣慟哭を跳ね返した!?」

「さあショータイムはここからだ!! 矛盾解析パラドックスメタ聖剣慟哭反唱エクスカリバー・アンチ・ロア!!」


 そこに生まれたのは白い光、斥力場の塊ホワイトホール、星の円卓達が吹き飛ばされていく。それに抗うように掻き消えるアーサーが唱える。


「聖剣慟哭……!」


 引力の塊と斥力の塊がぶつかり合う。円卓の面々を引き留める。

 星の円卓が攻撃に移る。


裁決聖斬ジャッジメント・アロンダイト!」

猛毒聖断ポイズン・ガラティーン!」


 ランスロットとガウェインが星之刻印を放つ。しかし。


「矛盾解析――」


 二つの攻撃を飲み込み、吐き出すバアパラ。星の円卓がそれを避ける。

 これでは千日手だ。消耗戦になれば、星の円卓が詰むだろう。相手は無限の幻想。放たれる力が底知れない以上。一撃で決めなくてはならない。

 ほとんど存在が消えかかっているアーサーが皆に声をかける。


「私がもう一度聖剣慟哭を撃ちます……」

「それじゃ貴女の身体が!」

「構わない……だからお願い、皆、

「ヤツの解析を上回れと?」

「許容量を超えさせる。あの子にも限界があるはず、全員に命じます。星之刻印の発動を!」


 星の円卓が全員、星之刻印を唱える。


『星之刻印・大合唱ビッグバン・コーラス!!』


 騎士達の一撃がバアパラを囲む。彼女は猟奇的な笑みを浮かべる。しかし、そこに見える冷や汗を、アーサーは見逃さなかった。


「――矛盾解析」

「星之刻印・大海障壁ポセイドンウォール


 ガラハッドが反転する攻撃を受け止める。その刹那だった。

 唱える。


大星之刻印ステラ・マギア全てを捧げる銀河の剣リヴァース・ジ・エンド――後は頼みましたよ、

「馬鹿な、『反転』が効か――」


 アーサーとバアパラは消え去った。この次元ではないどこかへと。


 ――これが私の語れる、星の円卓が辿った最後の軌跡。その後、私という旗印を失った彼らはバラバラになり、残るパーシヴァルのみが、マーリンを探し、魔聖を摘み取る旅へと出ました。そして今。極東の地にて神野コトハ。は見つかりました。後は王冠を被る者の帰還を待つのみです。

 楽しみですね――

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