第6話 希望論


 ――星の座が組みし物語には破綻がある。ゆえに彼ら幻想はすがり付く、凝り固まった現実とやらに組み込まれるために。嗚呼、世界よ。どうしてこうもかのように残酷なのか。彼らに希望などないというのに。雷霆の神が記した約定によって幻想は破綻する。破綻によって破綻する。全てを壊す、その日まで。


 レプティリアンを倒した帰路、コトハとパーシヴァルは道を同じくしていた。


「着いてくんな、鬱陶しい」

「まあ、そう言うな、レプティリアンは多分、全滅してないんだから」

「は?」


 あれで全部ではなかったのか? そんな疑問がコトハをよぎる。パーシヴァルは飄々とした様子で語る。


陰謀論級フィクサークラスってのは幻想級イマジナリークラスと違って数の多さが売りなのさ」

「なんだそのなんとかクラスって」

星の円卓ゾディアック・オブ・ラウンズが分けた魔聖の区別さ、分類とも言うね」

「何が違うんだ」

「陰謀論級は数が多く、人間社会に溶け込んでいる事が多い。幻想級は人里離れたところに現れる事が多い、数はそれほど多くない。ウェアウルフにとっては決戦だったんだろうね」

「それ、他にもいるのか?」

「残るは一つ、一番、厄介なのが」

「もったいぶるな」


 パーシヴァルはこほんと一息吐いて、語り始める。


希望論級アポカリプスクラスだよ」

「なんか今、矛盾を感じた気がする」

「希望論と書いてアポカリプスだからね、君は勘が良い」

「希望論が黙示録……? どういう事だ」

「それを説明するには、そもそも希望とは何か、から説明する必要がある」

「長い話は嫌いだ」

「あはは、じゃあ簡潔に、君に破滅願望はあるかな?」

「何だ唐突に……いや待て、


 赤髪の騎士乙女は微笑んでみせた。指をパチリと鳴らす。コトハを指さして。


「君の想像通りだ。人々の破滅願望から産まれた魔聖『恐怖の大王』なんかが代表格かな」

「恐怖の大王?」

「君達の世代じゃ知らないかな、ノストラダムスの大予言」

「お前同い年じゃないのかよ」


 そんなツッコミを入れながら進んでいたらいつの間にか家に着いていた。コトハは頭を掻きつつ。


「んじゃこれで」

「さて、実は私は交換留学生でホームステイしている事になっている。それに君の親戚だ」

「…………………………おいまさか」

「そのまさかだ」


 ピンポーン♪ コトハの家のチャイムを鳴らすパーシヴァル。


『はーい?』

「どうも、今日からお世話になります。日比野パーシヴァルと申します」

『あらー、待ってたわよ~! 入って入って!』

「おふくろ……」

『あらコトハも居たの。あんたも早くあがんなさい』


 インターホンが切れる。コトハは溜め息を吐く。


「ふざけやがって……」

「言ったろ? 一日中、君を守るって」

「言われてねーよ……」


 コトハは肩を落として、パーシヴァルと共に家の中に入って行った。


「いらっしゃーい! 海外のおうちと比べると狭いかもだけどゆっくりしていってね!」


 コトハの母親、キヨミがパーシヴァルを歓迎する。


「いえ、私の家もそこまで広くはありませんでしたし、むしろこちらのおうちのが広いかもしれません」

「あらそう? まあ部屋が余っちゃてるからねぇ。そうかもねぇ」

「おべっかだ」

「うっさいわよコトハ」

「そうだよ、コトハくん。私は率直な意見を言ったまでだ」


 二対一である。コトハにとってはやり辛かろう。パーシヴァルはキヨミと談笑しながら空き部屋へと案内される。そこはコトハのの使っていた部屋だった。兄の事を、コトハは幼かったので覚えていない。それほど歳が離れていた。

 コトハはリビングのソファーへへたり込む。彼は今すぐにでも自分の部屋に籠りたかったが、もうすぐ夕飯なので二度手間になると思いリビングに居る事にした。テレビの電源を入れる。夕方のニュース番組が流れる。そこには魔聖も何も関係ない。人々の日常が流れていた。春の桜吹雪が舞う画面。コトハは己が人外の理に入ってしまった事を未だ受け入れられずにいた。赤髪の騎士乙女の登場に、ウェアウルフにレプティリアン。異形、異形、異形。

 それらは現実というウインドウから切り離され別のヴィジョンへと移し替えられていた。獅子無双レオウルト。そんな力の事さえも、他人事のようにとらえていた。自分の事ではない。夢か何かだと。明日になれば覚めてしまうと。

 しかし、そうはならない。第三の刺客が、コトハを襲う。

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