第4話 赤髪の交換留学生


 赤髪の女は獣帯高校の制服を身に纏い、俺の前に姿を現した。


「初めまして、日比野パーシヴァルと申します。みんなからは長いのでパーシと呼ばれています」


 ざわめく教室、パーシヴァルは、それは美人だった。注目を集めるのも無理はない。俺の好みじゃないが。というか昨日の戦闘の痛みがまだ響いていてイラつく。


「あっ、そうそう、私はコトハ君の親戚なんだ。よろしくお願いするね」

「はぁ!?」

「おっとぉ?」


 村上アサヒが反応する。こいつはウェアウルフに攫われた件を覚えていない。気絶していたからな。


「おいどういうことだ神野コトハぁ!」

「美女と抜け駆けで親戚ィ!?」

「抜け駆けで親戚ってなんだよ……」


 クラスはてんやわんやになり、担任が「静かに」の一言で収集をつかせて、事なきを得る。昼休みは屋上にでも逃げよう。あそこは不良(俺)の溜り場で人が集まらない。

 そして授業をかっとばして昼休み。


「一緒にお昼、どうだい、コトハ?」

「どこで名前を知った」

「生徒名簿をちらっとね」

「ちっ、屋上まで来い」

「おっ!? いきなり告白ですかぁ!?」

「うるせぇ! 村上アサヒ!」


 そんなこんなで屋上、村上アサヒは女子の友人AとBに託した。決して名前を憶えていないわけではない。英子と美衣子という名前なのだ。それゆえのあだ名。

 そういう訳でパーシヴァルを問い詰める。


「なんのようだ」

「君の護衛だよ、ステラ・マギア」

「なあ、お前も星之刻印を使ってたよな?」

「そうだね」

「お前もステラ・マギアなんじゃないのか?」

「よくわかったね」


 ダン! 俺は屋上に放置された余った机を叩く。


「じゃあ、お前だけで充分だろ、俺を巻き込むな」

「そうはいかない。決戦の日までにステラ・マギアを集めなくちゃならない」

「そんなにいるのかよ……ん? 決戦?」

「魔聖とステラ・マギアの決戦さ。審判の時とも言う」


 俺は椅子に腰かける。呆れたような眼差しをパーシヴァルに送りながら。


「なにがなんでも巻き込む気か」

「君の安全のためでもあるんだよ?」

「なにが」

「ステラ・マギアが一人でも欠けたら世界は滅ぶ、そう言われている」


 沈黙が舞い降りる。世界が滅ぶ、魔聖とやらに乗っ取られるという事か? 人間社会の終わり、それは確かに困ったものだ。だが、だがしかしだ。


「だったら決戦の日まで放って置いてくれ」

「そうはいかない、その日までも魔聖は君を襲って来るぞ」

「なんでそんな厄介な事になってるんだ」

「それは君がステラ・マギアだから」


 堂々巡りだ。そもそもなんで俺がステラ・マギアなんだ。そこからわからん。それを問いただす。するとパーシヴァルは人差し指を口に当てて、しーっのポーズ。


「……此処だけの話だ。星の円卓ゾディアック・オブ・ラウンズには空席がある。王の座に居るはずの星を束ねる者。アーサーの姿が無い。アーサーの役目はステラ・マギアの選定だ」

「俺の夢の中に出て来たアイツか」

「そうそのお方だ、君は選定された。王の騎士として」


 俺はますます不機嫌になる。あのお気軽チート渡し野郎のどこが王だ。

 世界は理不尽だ、恐ろしいまでに。

 俺は思案を巡らせる、どうにかしてこの戦いとやらから逃げる方法を、しかしそんな思考を先回りしたのか、パーシヴァルが口を開く。


「忠告しておくが、逃げよう、だなんて考えない方がいい。魔聖はどこまでも追って来る」

「物語の実現、幻想の具現化のために?」

「そうだ」


 これ以上は禅問答になりそうだった。どうにも調子がまわらない。俺の戦う理由。自分の命を守るため。しかし、星の円卓とやらは俺を育てるとかいう名目で時折、俺を千尋の谷に突き落とすかのような事をしてくる。対ウェアウルフ戦と修行と言う名のパーシヴァルとのバトルしか前例はないが、こいつら(?)が俺を本気で守ろうとしてるとは考え辛い。きっとステラ・マギアとやらには代えがいる。それこそアーサーとやらが再選定するのだろう。簡単に失うには惜しいが、失っても構わない程度の存在、それがステラ・マギア。それが俺の出した結論。だから。


「俺のケツは俺で拭く。お前らなんかあてにしない」

「そうか、まあ勝手に護衛はさせてもらうけどね」

「勝手にしろ」

「そう言っている」


 そうして昼休みが終わった。己の世界に戻って行く。始まる授業、飛ばして放課後。

 校門の前に立つ影、村上アサヒだ。


「やぁやぁ! 神野コトハ君! パーシヴァルちゃんと随分と仲が良いようで!」

「うっさい帰るぞ」

「なんだよもうー」


 その時だった。寒気がした。何者かの気配。俺もどうやら人知を超えちまったらしい。


「先帰ってろ」

「え? なになに?」

「いいから」

「え、あ、うん……気をつけてね?」

「ああ」


 アサヒと別れて、気配の方向へと向かう。そこに居たのは。鱗模様、縦長の瞳孔。人型。尻尾。さしずめ――


「リザードマン……」

『ステラ・マギア、物語の続きを紡ごうぞ』

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