第3話 進化の可能性


「まずは座学から始めないか? ステラ・マギア」


 パーシヴァルと名乗る女からの提案をなくなく受けて、学校の裏山まで来た俺こと神野コトハ。こんなとこで授業なんて受けたくなかったし、さっさと事を終わらせたかったが、こういうのは大体、相手の言う通りにしないと先に進まないRPG方式なのだ。そうに決まっている。


「はいはい、なんでごぜーましょー」

「不老不死の可能性、というものを信じるかね?」

「いきなり疑問形かよ」

「まあそう言うな、幻想達は物語を紡いでステラ・マギアを葬る事で己が存在を確定しようとしている」

「話が飛び飛びだぞ」

「つまりだ。人類の可能性、不老不死の幻想の具現化、それがウェアウルフ達という化け物だ。我々は『魔聖』と呼んでいる。総称のようなものだ」

「他にもいるのか」


 パーシヴァルは深く頷く。


「幻想の形は様々だ、次、襲って来るのは何かも分からない」

「不老不死の幻想がなんで死ぬ?」

「良い質問だ。それこそステラ・マギアの権能、星之刻印ステラ・サインだ」

「星之刻印?」

「ああ、それは幻想を星の座に封印する事で、幻想を摘み取る事が出来る権能だ」

「敵を星座にする?」

「概ね、その認識で間違いない」


 俺は首を捻る。疑問の表れだ。


「星が増えたり減ったりするのか?」

「この場合の星座は概念的なモノにすぎない」

「わけが分からないな」

「無理もない、これは人知を超えた力の話だ」

「もうそろそろ修行とやらの本編に入ってくれないか?」


 パーシヴァルはやれやれと首を振る。


「せっかちだな君は、まだ話の半分も終わっていないぞ」

星の座ゾディアック獅子無双レオウルト

「いきなりか、――我が鏃は全てを貫く、穿たれた跡には孔が残る。孔から零れ落ちる血飛沫は止めようも無く、止める術は存在しない。速度にして光にも届かんとする。英雄に殺されるその日まで、その身は不死、その知恵は後継を育てる。ケイロンの写し身、星の座ゾディアック射手聡明サジタリウスイント


 一瞬、であった。弓矢が俺の身体を貫通した。かに見えた。衝撃のあまり、吹き飛ばされ木々を何本も折り倒した。


「いってぇ……」

「まだ修行は始まっていないぞ、そいうえば君の名前を聞いてなかったなステラ・マギア」

「誰が名乗るかバーカ」


 俺は身を低くして突進する。爪で切り裂きにかかる。しかし。


「我が弓矢はあらゆる角度から飛ばす事が出来る」


 下から矢が飛んで来た。獅子無双のおかげで傷は負わないが、ダメージが通る。

 思わず息を吐き出す。なんとか呼吸を整える。それを律義に待つパーシヴァル。

 近づけない。相手が圧倒的に上手だ。三百六十度全方位からの射撃、これでは削られるばかりだ。こちらにも飛び道具があれば――


「――隕石光メテオライト


 地面を穿つ、クレーターが出来る、立ち昇ろ土煙。視界を奪った。獅子無双は視覚も強化する、うっすら見えた人影を標的に俺は駆ける。

 

「自分が強化されているのならば、相手も同じ土俵だとは思わなかったのかい?」


 土煙から飛び出した瞬間を射抜かれた。全ては計算ずくだ。今回の射撃は、斜め上からの撃ち降ろし。俺は爪でガードした。


「へぇ? なんで分かった?」

「答え合わせはアンタを倒した後だ」


 牙を剥く。俺はパーシヴァルを捉えた。そう思った。

 しかしそこで――


「――太陽光線ソーラーレイ


 焼き焦がされた。空から降り注ぐ光芒。俺はのたうち回る。

 どうやら獅子無双には耐熱性はないらしい。

 全てはパーシヴァルの手のひらの上。万事休すかと思った時、俺は一つ思い至る。


「どうせ死なねーんだ。やってみるか」


 俺はその場で寝た。


「ほお、すごい丹力だね? じゃあトドメだ。一斉射――」


 夢の中、星を束ねる者と出会う。


「新しい力をくれ」

『では君の真の名前を教えておくれ?』

「俺の獅子無双も、あいつの射手聡明も、英雄に殺されるまで、って一文が入ってる。その英雄がきっと勝てる鍵になる」

『その英雄の名前とは?』

「星座、ギリシャ神話、英雄と来たら一人しかいない。ヘラクレスだ」

『いいだろう、ヘラクレスの権能を渡そう」

「相変わらず軽くて助かる」

「だけど今回は一度キリだ。次は、いつになるかな」


 俺は目を覚ます。


「――英雄は十二の試練に挑んだ。狂気へ至る。悲しき道、その全業を為すために多くを犠牲にする。獅子をくびり殺し、毒蛇を潰し殺した。全てを洗い流し、地獄の番犬すら捕って捕まえて見せた、かの英雄の名はヘラクレス。その名を知らぬ者はいない。星の座ゾディアック英雄伝承ヘレクレスレジェンド


 俺の精神は焼鉄やきがねの如く。その全て打ち払うべく動いた。どこからともなく取り出した戦斧で、射撃の全てを撃ち落とすと、パーシヴァルを見やる。

 

「ああっと、これはまずいな」

「――毒蛇鏃ヒュドラアロウ


 閃光にも似た一撃、パーシヴァルが初めて防御行動を取る。しかし。その攻撃はかわすべきだった。受けてはいけなかった。だってそれは致死性の毒なのだから。

 もがき苦しむパーシヴァル。俺はその傍に寄る。


「苦しいか? 解いて欲しかったら、降参しろ」

「わ、わかった……ステラ・マギア思ったより卑怯チートだな」

「戦闘中に寝なきゃいけないののどこがチートだ。今回だけのおまけパワーらしいしな」


 俺は変身を解く、するとパーシヴァルの毒も消える、苦しみから解放され、ほっと安堵するパーシヴァル。しかし。


「これじゃ修行にならないな……困った」

「始めからいらねーんだよ、そんなもの」

「……そうかもしれないな」


 赤髪の女騎士は髪をかき上げて。


「君の護衛は続けさせてもらうが、そうだな、連絡先を交換しないか?」

「断る」

「だと思った、傍で見守る事にするよ、いやはや厄介な事いなった」

「んじゃ帰る」

「ああ、またね」

「二度と会うか」



 翌日。


「交換留学生を紹介します。日比野パーシヴァルさんです。名前の通り、ハーフの方で――」


 パーシヴァルの奴は、獣帯高校の、俺のクラスに転校して来たのだった。

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