第2話 レオウルト


 獅子の冠は、王者の力を与える。鋭い剛腕でウェアウルフ共を蹴散らしていく。


『これが獅子の物語』

『強敵だな』

『だがそれでこそ』

『さあ紡ごう、未来を』


 迫りくるウェアウルフの大群。獅子の冠を戴いた俺は、その腕に黄金のガントレットを装備している。これが爪、牙は冠から伸びている。突き刺す角のようにも見える。

 ウェアウルフの身体が膨らむ、筋力を開放しているのだ。全てを懸けた決戦。初めての命を懸けた戦い。なんのために、アサヒを守るために。巻き込まれたのに過ぎない俺は、俺は。


「こい化け物共、殲滅してやる」

「いいじゃないか、ステラ・マギア」


 騎士甲冑に褒められる。あんまり嬉しくない。そもそもステラ・マギアとはなんだ、魔聖とはなんだ。答えを今すぐにでも欲しかった。しかし戦いの最中。俺は目の前のウェアウルフを切り裂く事に集中する。


『魔聖・鼓動・狼撃連打ウルフラッシュ


 ウェアウルフが連撃を飛ばす、受け止めるネメアの意思はどんな攻撃をも意に介さない。世界は俺に味方していた。牙でウェアウルフに喰らい付く。血飛沫が舞う。

 残るウェアウルフ、十体。

 まず一体を切り裂いて、仕留める。

 次にもう一体を牙で串刺しにする。

 そして三体目の攻撃を受け止めてカウンターで仕留めた。

 四体目は少し苦戦した、すばしっこく逃げていたからだ。こちらにスピードはない。だから。


「地面を穿て、隕石光メテオライト


 跳び上がり、地面に向かって、拳を振り下ろす。クレーターが生まれる。動きを止める四体目、そこを仕留める。


 五体目以降は流れ作業だった。

 同じパターンの繰り返し、芸のない連中。

 最後の一体、筋骨隆々のウェアウルフ。

 しかし、その攻撃がネメアの意思を貫こうとしても無意味だった。

 

『此処が終焉か――』

「あばよ化け物」


 爪刃が真っ二つにウェアウルフを切り裂いた。


「お見事」


 騎士甲冑が拍手する。相変わらず金属音が五月蠅い。


「これにて幻想は摘み取られた。人類の可能性の勝利だ」

「人類の可能性?」

「魔聖とは、人間の進化の可能性、その幻想の具現化。物語の一小節」

「なんだよ、それ……」

「君は全ての幻想を摘み取る役目に選ばれた」

「俺は人殺しをしたっていうのか!?」


 騎士甲冑は呆れたように肩をすくめ。


「命を奪う事に今更、忌避感を感じられてもね」

「ふっざけんなよお前!」


 俺は騎士甲冑に飛び掛かる、しかし。


「今の君じゃ、私には勝てないだろうね」


 背中から羽交い締めにされる。身動きが取れない。


「離せ! 俺とアサヒをこんな事に巻き込むな!」

「彼女については残念だと思っている。しかし巻き込まれてしまった以上、彼女も戦いの渦中に身を置く事になるだろう」

「ふざけんな! ふざけんなよ!!」

「怒っても何も解決しない、強くなりたまえよ少年」


 騎士甲冑が俺を離す、俺は振り返りざま、ぶん殴りにかかる。それは騎士甲冑の兜に見事にヒットした。吹き飛ぶ兜。露わになったのは赤髪の女性の顔だった。


「満足したか?」


 女だったのか、という衝撃が大きかったが、そんなもの押し込めて、俺は言う。


「するわけないだろ、幻想を摘み取る? そんなのお前らだけでやれ」

「そうは行かない、幻想を摘み取る権能を持つのはステラ・マギアだけだ」

「なにもかも厄介だな!」


 俺は、騎士甲冑から背を向け倒れ込むアサヒの様子を見やる、息はある。気絶してるだけだ。ほっと一安心する。腐れ縁でも縁は縁だ。無事で良かったと思う。

 俺はアサヒを抱えて下山する事を決意する。


「帰り道は分かるのか?」

「……ちっ」


 舌打ち、騎士に連れられ、煌礼町に戻って来る。

 赤髪の騎士はこちらに顔を向け。


「私の名はパーシヴァル。星の円卓の一人。今後ともよろしく頼む」

「お断りだね」

「そうも言っていられなくなるがね」


 そうして、その日は解散となった。俺は気絶した、アサヒを家まで送り届け(ちょっとひと悶着あったが割愛)そのまま家に帰った。


「お兄ちゃんお帰り~」


 妹のコトリが出迎える。両親は共働きで帰りが遅い。


「悪い、今、飯作る」

「ういー」

「炒飯でいい?」

「ういー」


 適当な返事の妹を軽くスルーし。炒飯を炒める。パラパラにするにはまず中華鍋を用意します。

 閑話休題。


 そんなこんなで食事を終えて、風呂に入って床に就く。

 その日はもう、あの夢は見なかった。

 代わりにウェアウルフの死体が浮かび上がった。

 夜中に目が覚めた。

 幻想を摘み取る。人類の可能性。

 俺は一体何と戦っているのだろう。

 何と戦う事になるのだろう。

 どうして戦わなくちゃいけないのだろう。

 どうして俺なのだろう。

 疑問は尽きない。

 俺は無理矢理、睡眠の闇に精神を落として行った。


 翌日の朝。

 ピンポーンとインターホンが鳴る。

 寝ぼけまなこで対応する。


「ふぁーい……どちら様……」

『パーシヴァルだが』

「お帰りください」


 波乱の物語は俺を現実から切り離す。

 そういや今日、学校休みだったなぁ……。


『要件だけでも聴かないか?』

「……なんだよ」

『私に勝ちたくないか?』

「……別に」

『とっておきの修行コースを用意してあるのだが』

「お断りします」


 俺はインターホンを切った。

 二度寝する事にした。

 しかし次、目覚める時、またチャイムが鳴るのだった――

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