第30話[落ちてく足]

 夏イベント限定ダンジョンの奥深く、海底神殿に居たボス『グレッラ』を相手に未知の戦いに挑みながらも、グレッラの足を一本落とす事に成功した。



 乱れた態勢を立て直したパーティーメンバーは、再びグレッラに向け、攻撃を加えていた。


 墨を吐いてから足が破裂するまでは、先ほどと同様、特に問題なくグレッラの体力を削っていた。


 グレッラは体力が減り、またしても墨を吐きながら後ろへと下がる。それとともに、部屋も真っ黒へと姿を変えた。


 部屋が黒くなると、グレッラの居る方向には、オレンジに光る足がフワフワと漂っていた。


 ホークさんが漂っている足にむかって盾を構え、スキルを発動しようとしたが、ロマさんがそれに待ったをかけた。


「待ってくれホークさん。《マグニフィセントシールド》やろうとしてんだろ? 今回はやめてくれないか? 物理シェルターかけて、さっきの攻撃が物理か魔法か知りたいんだ。これから攻略するギルドの奴らに、教えられるしな」


『物理シェルター』範囲内の味方の物理防御率を大幅アップ。同様に魔法防御アップの魔法シェルターもあるが、重ねることができない。


 ホークさんが静かに頷くと、ロマさんは僕にむけて、指示を出した。


「おい、文月! 俺がシェルター出してる間、お前は他の支援を頼むぞ」


「はい! ……って、魔法だったら、また僕死ぬんですけど……」


「その分は今度なにかで埋め合わせしてやるよ。まぁ、文月が一発で死ぬってことは、物理の可能性の方が高い。…………多分な」


 そう言ってロマさんは、皆の中心でシェルターを出した。

 ロマさんを中心に薄い赤色の半球体がパーティーメンバーを包むと、マイラーさんの強い声が聞こえた。


「段々、光が強くなってきたぞ!」


 皆が次の破裂に備えている時、グレッラのごく些細な変化に気づいたのは、意外にも僕であった。


(あれ……? なんか、さっきより……はやい?)


 そう思っていると、オレンジ色の足が破裂した。そして──僕は横たわっていた。


 だが、今回は僕だけではなく、伝心さんも倒れていたのだった。


 その事に気づかず、麦は文句を言いながら、目薬を使って、ブラインドを回復していた。


「うぎゃす! いちいち、ブラインドめんどいなー! サングラスでも、持ってくればよかったかなー」


 麦の横では、同じく目薬を使用していた、えーさんとポポちゃんが、麦に対して異論を唱えていた。


「目薬……効率……」


「せやで。サングラスなんかより、他の装備つけとったほうが効率的やろ」


「そっか! ……って、伝さん死んでんじゃーん!」


 ブラインドを回復した麦が、後方に目をやると、倒れている伝心さんに驚きの声をあげる。


 それに気づいたロマさんも、伝心さんに近寄り、申し訳なさそうに起こす。


「なっ!? すまねぇ、伝心……」


 伝心さんは起き上がると、爽やかな笑顔でロマさんに答えた。


「大丈夫です! ペナ食らったのが、どうでもいい足装備だったので!」


 ロマさんは伝心さんの言葉に笑顔を戻した。その二人の足元で、倒れたままの僕。


「僕の心配は……?」


 麦とポポちゃんが離れた場所から、そんな僕に励ましをくれた。


「どんまい! 文ちゃん!」


「後でネキがレベル上げ、手伝うてくれるって!」


 すかさず、花音さんの厳しい声も届いた。


「文月さん、早く起きて支援に徹してください。グレッラの攻撃が始まっています」


 花音さんの後ろでは、ハーゲンさんに回復してもらってる、こころさんが一言。


「花音ちゃん、きびしぃ~」



 ロマさんは僕を起こし、皆に支援をかけながら、さっきの攻撃について話し出した。


「しかし、伝心が倒れたってことは魔法だったか」


 ホークさんは冷静にグレッラを目で追っていた。


「今の攻撃、先程よりダメージが上がっていたな」


 そう言いながら、ホークさんはタゲを取り直した。


 僕は、ホークさんの言葉に先ほど、グレッラを見ていて気になった事を思い出した。


「あっ! そういえば……。さっき足が破裂する前の動きが一回目より速くなったいたような……」


 僕の発言に、こころさんは驚いた顔をした。


「そうなのぉ~? 気づかなかったよぉ~。良く気づいたねぇ~」


 その横で、デスさんが何かを呟く。


「……ボソ」


 なんて言ったか分からないデスさんの言葉に、返事をする花音さん。


「そうだとすると、厄介ですね」


 僕は、厄介という言葉が気になり聞き返した。


「何が厄介なんですか?」


 僕より、デスさんから遠くに居た麦が説明してくれた。


「足が抜ける度に、攻撃の威力と動きが上がるんじゃないかって!」


(デスさんの声聞こえてないのって僕だけなのか……? それより、どんどん攻撃力が上がるって、まずくないか? 倒れる人が増えるんじゃ……)



「破裂時の動きも、だんだん速くなってくんですかねー?」


 伝心さんの言葉に考える麦。しかし、直ぐに考えることをやめ、グレッラに向かっていった。


「んー。わからん! とりあえず、足落としてけば、いいんでしょっ! 足くれー!」



 そして、三回目の足の時間がきた。


 黄色に光る足がフワフワと浮いている。皆は浮いてる足を注意深く、みつめていた。


 マイラーさんが光る足をみつめ、竜の手綱を握りしめる。


「確かに。一、二回目より動きが速くなってきているな」


 ロマさんは皆に支援をかけ直しながらも、余裕をみせていた。


「だが、位置は分かるから、マグニフィセントシールドで防げるだろ」



 ホークさんは光る足の方へ《神の杖》を使い、グレッラの位置を固定。ホークさんが《マグニフィセントシールド》を張る後ろで、皆が固まり、足の破裂を待った。


 黄色に光っていた足は破裂するも、ホークさんのスキルで、今回は皆無傷だった。


 その後、またしても足の時間になり、緑に光る足が破裂しようと漂っていた。


 だが、ホークさんから思わぬ一言が発せられた。


「マグニフィセントシールドは、まだディレイ中だ」


 その一言に、目を見開くロマさん。


「しまった! ディレイの時間みてなかった。ならシェルターと、ダンスで防いでみるか」


 ダンサー二人は頷くと、魔法防御力が上がるペアダンスを始めた。


「おっけぇだよぉ~! 『耐え抜く精神エンデュアースピリット』はっつどぉ~!」


「ハハハハハッ! マッスル入りまーっす!」


 ロマさんが魔法シェルターを、ダンサー二人が魔法防御の上がるダンスを皆の中心で発動。


 薄い青色の半球体に包まれ、地面もダンスの範囲内が薄い青に色を変えた。


 緑の足が破裂すると、僕はギリギリだったが生き延びた。そして直ぐに自分のブラインドを回復し、ヒールをばらまき、皆の回復を急いだ。


 しかし、支援がかかっている状態にシェルターとダンスで魔法攻撃を軽減したが、皆のHPの減り具合で確信していた。

 足がなくなっていくほどに、グレッラの攻撃力が上がっていることを。



 その後、水色の足をマグニフィセントシールドで防ぎ、6本目の足の時間に入る前だった。


 ロマさんが皆に提案を持ちかけた。


「さっきの感じだと、もう次の攻撃はシェルターとダンス張っても誰か倒れんぞ。時間みて、マグニフィセントシールドのディレイ待った方がいいぜ」


 後ろを少し振り向き、首を縦に振るホークさん。


「そうだな。あと4分でディレイが切れる。それまで少し、攻撃を押さえよう」


 その言葉に大魔法の詠唱を止めるデスさん。落ち込むデスさんに眉を下げて慰めを言う花音さん。


「……ボソ」


「落ち込まないで下さい。私もデスさんの大魔法みれないのは残念ですが、仕方ありません」



 スキルのディレイが解けるのを待って、青色に光る足の破裂に耐えた僕らは、最後に残る紫の足を慎重に攻撃していた。


 僕は、皆が「最後の足だ」と意気込んでいる中、不思議に思っていたことをポロっと口にした。


「タコって足8本だよな? 7本で終わりなのかな?」


 すると、隣に居たハーゲンさんが、僕に呟くように言った。


「私も考えていました。あの7本目の足が終わった後に何か、あるのではないでしょうか……」


 不安を仰ぐハーゲンさんの言葉に、僕は息を呑みながら、最後の紫の足の破裂を待つのだった。


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