第27話[幹部会議]

 僕は状況が飲み込めないまま、何故か鷹のトップ達が集まる幹部会議へと、出席させられていた。



 ホークさんを中心に皆が集まると、ホークさんの第一声から会議は始まった。


「皆、時間を割いて集まってくれてありがとう。さっそく本題に入る。次回のGvだが……K1を狙う」


 その発言に驚くロマさん。


「はっ!? K2奪還じゃなくてK1なのか?」


 驚くロマさんに対し、ホークさんは冷静に返事した。


「あぁ、そうだ。すでにマイラーとヴィンテージには話してあるが、今回は私の我儘わがままだ」


 普段とは様子が違うのか、ロマさんが心配そうにホークさんに聞き返す。


「わがままって……いきなり、どうしたんだよ? ホークさん。現状の人員とモチベーションじゃ、K1は難しいと思うぜ? ここは奪還を目指した方が無難だと思うが」


 すると、ホークさんは深く深呼吸をして、前を真っ直ぐ見つめた。


「…………。次回のGvをもって、私は引退する」


 ホークさんの爆弾発言に、ロマさんと麦が驚きの声をあげた。


「なっ!」


「えっ!? えっ!? 遅めのエイプリルフール?」


(えっ!? ゲーム辞めちゃうのか!?)


 僕らがビックリして言葉を詰まらせていると、ヴィンテージさんが微笑みながら口を開いた。


「エイプリルフールじゃないよ~。まあ、言いたい事はそれぞれあるだろうけど~、まずはホークさんの話しを聞こうね~」


 そしてヴィンテージさんがホークさんへと目配せすると、ホークさんは力強く話し始めた。


「急ですまない。だが、このままでは引き下がれん。最後、首位に挑みたくなったのだ。私の最後の我儘に付き合ってくれるか?」


 ロマさんはショックを受けて落ち込むような顔をしていたが、少しの沈黙の後「フッ」と笑い、ホークさんを真っ直ぐ見据えた。


「我儘なんて……。今まで言ったこと無いだろ? 付き合うよ。取れるかは分かんねぇがな」


 ロマさんの言葉に、ホークさんもヴィンテージさんも、マイラーさんもデスさんも皆が笑って頷いた。


(きっと、ここに居る皆は付き合いが長いのだろう……)


 なんとなくだが、皆から強い絆みたいなのを感じた。

 今ここにいるメンバーは、ホークさんの事を本当に信頼していて、今まで付いてきたのだろう。


 一人、ホークさんの足にしがみついて泣き叫ぶ麦。


「えっ!? えっ!? ちょっと! 本当に引退しちゃうの!? やだやだっ! ホークさん辞めないでー!!」


 ホークさんの足元にしがみついてる麦を引き離すロマさん。


「お前はしつこいんだよ! さっ! そうと決まればK1攻略とでも、いきますかっ!」


 ロマさんの言葉に、ヴィンテージさんが微笑みながら頷く。


「そうだね~。ずいぶんK1も攻めてないから戦士の状況も分からないしね~」


 ホークさんも頷きながら、真剣な表情で皆へと指示を出した。


「現在の戦士についてはこころが詳しいだろう。戦士の現況とK1トラップの把握はこころ協力の元、マイラー頼む。資金調達はヴィンテージを筆頭に進めてくれ。ロマとデスは現在のメンバーに対してのフォローを頼む。私は人員調達に努めよう」


 その指示に対して、麦がワクワクした顔でホークさんに聞き返した。


「私は?」


「…………問題を起こすな。以上だ」


「え!? 嘘でしょ!? 何かあるでしょ!? 《気配消失》で戦士側の話でも聞いてこようか!?」


(密偵むいてないのは、チーム旧暦の時に分かっただろうに……)


 すると、デスさんが何かを呟く。


「……ボソ」


 それにホークさんが反応を示す。


「あぁ、そうだな。デスの言う通り、麦は次回のGvは衣装を着けるな」


「えっ……なんで? 私の個性なくなっちゃうよ?」


 麦がポカンとして聞き返すと、マイラーさんが腕を組ながらニカっと笑った。


「それでいいんだ。麦は目立ちすぎるからな!」


 マイラーさんに続き、ロマさんが説明してくれた。


「大体の人間はお前の格好みて『幹部の麦飯』って分かんだよ。ぱっと見、居ねぇと思わせた方が有利だろ」


 麦は少し悲しげに納得した。そして僕も、同じく納得するのだった。


「なっ、なるほど……」

(なっ、なるほど……)



 すると、ロマさんが「あっ」と何かを思い出したように麦に話しかける。


「そういや、お前。この前、俺らから奪った装備どうしたんだよ?」


「ん? あぁ! デスさんとマイラーさんのは使わなかったから返すよ!」


「俺のは?」


「喜んで貰ってくれたよ! 使わない装備って言ってたもんね!」


「おまっ……」


(もしかして、Gvの時に麦ちゃんが持ってきた装備って……知らんふりしよう……)



 ロマさんがため息を吐く中、ホークさんが手を叩いて皆の注目を集めた。


「では今回の幹部会議は以上だ。次回、集めた情報と近況報告を行い、作戦を立てる」


(えっ!? おしまい? 結局なんで僕呼ばれたんだ……)


 結局、なんで呼ばれたのか分からないまま、麦と一緒に部屋を出ようとすると、ホークさんに突如言葉を投げかけられた。


「悪いが文月君と二人にしてくれ」


(えっ……二人!? 気まずい……)


 麦がニヤニヤしながら、ドアを閉めた。


「怒られ過ぎないようにね! ちゃんとドアのロックするんだよ!」


(えっ……怒られるの……帰りたいな)


 僕は麦に言われた通りにドアの鍵を閉め、ホークさんへ向き直す。


「あ、あの……」


「つまらない話に、付き合わせて悪かったな。麦には会議の後に連れて来てほしいと言ったのだが……」


(なんだよ麦ちゃん……僕の緊張返してくれ……)


「せっかく来てもらって帰すのも悪いし、君から情報が漏れることは無いだろうと思って、会議に参加してもらったが。おかげで話しも省けた」


「引退の事ですか……? 麦ちゃんの反応を見ると、ずいぶん急な話みたいですけど……。事情があるんですよね?」


「あぁ。君には理解してもらえないと思うが。私は…………ホークのままで居たいんだ」


(どういう事だろう……?)


 ホークさんの言葉の意味はよく分からなかったが、僕はそれより早く本題を知りたかった。


「あまり深い事情は分かりませんが……。僕は、結局なんで呼ばれたんでしょうか?」


「話が逸れたな。実は君に渡したい物があるんだ」


「渡したいもの?」


 そう言ってホークさんからプレゼント承認がきた。


 僕が承認画面で内容を確認すると、それは僕みたいな一般プレイヤーでは信じられないぐらいの大金だった。


「えっ……。これは一体どういう事ですか?」


「詫び金とでも言っておこうか。次回、麦がそちらに加勢出来ないようにしてしまったからな」


「いやいや! それにしたって、この額は……」


「先程も言った通り、私は引退する。次回のGvに必要な額以外は不要だからな。半分は鷹のギルド資金にした。僅かで申し訳ないが、それを使って紅白戦に挑んで欲しい」


 ここまで数回ほどしか話したことのないホークさんから、いきなり大金を渡されて、僕は困惑していた。


「そ、そこまでしてもらう理由が……」


 そう言いかけると、遮るようにホークさんの力強い言葉に押された。


「私にはあるんだ。気にせず受け取って欲しい」


 すごく真っ直ぐな瞳に、僕はそれ以上拒めなかった。


「そうまで言われるなら……。ありがとうございます! ギルドの皆も喜びます!」


 僕がそう言うと、ホークさんは眉尻を下げて少し笑った。




 紅白戦を賭けたGvや鷹の幹部との出会い、ホークさん引退……。色々な出来事が重なって少し疲れ気味の中、始まったのが一ヶ月ある夏イベントなのだ。


 僕はロマさんと話ながら幹部会議での出来事を思い出していた。


(もう鷹のメンバーは、引退のこと知ってるんだろうか……? 知ってるようには見えないけど)


 僕はホークさんの「ホークのままで居たい」という言葉が、頭から離れずにいた。


(あれは一体、どういう意味だったのだろう……。身バレしたくないって事かな? ホークさん有名人だもんな。身バレする前に辞めたいってことなのか……?)


 僕がそんなことを考えていると、デレデレした顔でこころさん達を見ているロマさんが喋りだした。


「しかし、今回のイベント当たりだよなぁ」


(僕と同じこと考えてる……)


「それよか麦とえーさん、いねぇじゃん。あいつら、まだ水着えらん……ぶっ」


 ロマさんが吹出した方に目をやると……麦とえーさんがお揃いで海女あまさんの格好をして歩いて来ていた。


「なんで麦ちゃん達そんな格好なの……」


「これはねー! 水着の効果に! 更にっ! 貝取りイベで『磯ノミ』と『貝』の取得率10%アップなんだよ!」


「あはは、貝取りね……」


 この夏イベントは、普段は存在しないイスアンダム島の南マップが解禁になるのだ。


 そして南マップにはイベント限定ダンジョンも登場する。

 今回、そのダンジョンを攻略するべく、麦に呼ばれて来たのだが……。



 一ヶ月ある夏イベントはそれだけではなく、前半後半に分かれて更にイベントがあるのだ。毎年、行われる内容は違う。


 今回は前半二週間が貝取りで、後半二週間がスイカ割りらしい。


 麦はイベントに燃える……というか多分、イベント限定の装備を集めたいのだろう。貝取りをする気マンマンなのだ。


(普通の水着が見たかったな……)


 ダンジョン攻略のメンバーが揃ったところで、僕らは期間限定ダンジョンへと向かうのであった。

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