第23話[捕食者]
Jackエリアで僕と麦がレースに苦戦する中、Queenエリアの城中で犬彦さん、爽真君、花音さんの三人は少人数ギルド相手に戦闘を始めようとしていた。
自身強化スキルを使い終わった花音さんが爽真君に、
「足お願いします」
と言うと爽真君は移動速度をあげるスキルを使用した。
花音さんは軽く深呼吸をして息を整えると、魔石部屋へと入って行く。
花音さんが魔石部屋へ入ると、花音さんの左前方からはアーチャーが弓を放ち、前方ではソーサラーが詠唱を唱えていた。
そして直ぐ右側からは花音さんに向かってモンクが勢い良く拳を振り上げていた。
花音さんは横目でモンクを確認すると近寄ってきたモンクに素早く手を伸ばし……。
【メドゥーサ・アイ】
モンクの拳が届く寸前でスキルがきまった。花音さんの腕からは複数の蛇が現れモンクを威嚇すると、モンクは足元から石化していく。
それを見た花音さんがモンクに対して言葉を放つ。
「一か八かでメドゥーサしましたけど、石化耐性されてなくて良かったです。
それを聞いたモンクは言葉を返す。
「オヤジなんて、まだ取っ……」
言葉の途中で完璧に石化したモンクに花音さんが呟く。
「その程度のレベル帯ですか」
花音さんは直ぐに目線をアーチャーへと移す。花音さんは部屋に入ってから弓を打たれ続けていた。
「レベル低いとは言え、さすがに痛いですね……」
回復薬を使いながらも今度はアーチャーに向け杖をむけると……。
【ライトニング ボール】
バスケットボール大の素早い雷の球がアーチャーの腹部に当たり、アーチャーは後ろへと突き飛ばされ、麻痺エフェクトを出しながら倒れこむ。
『ライトニングボール』ターゲティング魔法で攻撃を加えると同時に相手をノックバックさせ、追加で麻痺も付与する。麻痺は防御力が低いほど効果が持続する。
アーチャーが麻痺してるのを確認した花音さんは、モンクの石化を解きにこちらに走ってきているプリの元へ少し駆け寄ると、プリの進行方向の足元へ咄嗟にスキルを使う。
【キャッチ ホール】
プリが出した足の先には人一人分ほどの穴が空き、プリがスキルに気付いた時には既に遅く。
「しまった……」
プリは体の半分が穴に落ち身動きが取れなくなった。プリが地面を叩いて「くそっ」と嘆く。
部屋の奥の魔石の前に居た騎士は、その光景を見て花音さんに向け走り出す。
竜に乗りながら向かってくる騎士は足が早く、騎士の足元にキャッチホールを放つも騎士はそれを飛び越えた。そして騎士は花音さんに向かう足を止めずに言う。
「穴は捕まえるか消滅するまで次のが出せないんだろ?食らえっ!」
そう言うと花音さんに向け剣を振り上げる。
【クレイウォール】
しかし、次の瞬間には騎士は土の壁に埋まっていた。顔と手の先が土の壁から少し出ている状態の騎士に花音さんが声を掛ける。
「土壁は打撃ですぐに破壊出来ますが」
そう言いながら土壁の端を杖で軽く叩くと、叩いた部分がボロボロと崩れた。
「タイミング良くプレイヤーの足元に出す事で捕らえる事が出来るんですよ。動けなければ壊す事も不可能でしょう?」
そう言って騎士を《メドューサアイ》で石化させた。
『クレイウォール』何も無いとこで出すと横1メートル、縦2メートル、幅50センチと小さめな壁が前に展開される。打撃ですぐ破壊出来るが打撃以外では破壊出来ない。Mobから姿を隠す時などによく使われたりする。
花音さんは辺りを見回し、回復薬を少し使いながら痺れているアーチャーの方へと近寄る。
「そろそろ麻痺が解ける頃でしょうか」
アーチャーの少し離れた位置に立つと、ターゲティング魔法の詠唱を始める。
詠唱を始めた花音さんの後ろから《気配消失》で隠れていたアサシンがそっと姿を現す。
そして詠唱妨害しようと花音さんに向け短剣を振り下ろそうとした瞬間、花音さんがクルっと振り向き。
「出てくるのを待ってました」
そう言って姿を現したアサシンに魔法を放った。
部屋に入った時に騎士と同じく、魔石の前に居たアサシンが直ぐに《気配消失》で姿を消していたのを花音さんは見逃さなかった。
【
アサシンに炎の槍が刺さり、アサシンは一撃でHPを全て削られ魔石部屋から姿を消した。
このゲームではターゲティング魔法は詠唱が終わるまでなら対象を変更出来る。地面設置は変更が効かない。
アサシンが消えた後、麻痺していたアーチャーを石化させると、溜め息を吐きながら残ったソーサラーの方へと向かう花音さん。
「さっきから、なんですか? それが魔法ですか?」
そう言われたソーサラーはビビって後ずさりするも、花音さんに詠唱していた魔法を放つ。
花音さんはソーサラーが打ってきた同じ魔法を、比べ物にならないぐらい早い詠唱で打ち返す。すると、一撃でソーサラーは消えていった。
「これが魔法ですよ」
花音さんがぼそっと呟くと魔石部屋へ犬彦さんと爽真君が入ってきた。花音さんは二人の方を向くと、普段通りの少し眠たそうな顔で話しかけた。
「今のうちに魔石割ったら、どうですか?」
犬彦さんと爽真君は部屋の状況を見て目を丸くするも、直ぐに魔石に走り出し魔石を叩き始めた。
花音さんは穴に埋まってるプリの近くに歩いて行き、プリに話しかける。
「あなた達、私が相手で良かったですね。鷹の幹部のソーサラーだったら一撃で城から追い出されてましたよ」
「くそ……鷹だったのか……なんで、レーサーギルドなんかに居るんだ」
俯くプリに更に声を掛ける花音さん。
「あなたを倒すことも出来ますが面倒なのでとりあえず石化でいいですか? あなた達、石化耐性してないみたいですし」
「石化使えるソーサラーなんて普段相手しねぇよ……」
そう言い残しプリは石化していった。
そしてバーサークをした犬彦さんと爽真君によって魔石は割られ、魔石部屋からは石化した四人が消えていった。
──『Queen5castle わんわん警備保障』──
わんわん警備保障の二回目のコールがワールド内に鳴り響いた。
爽真君と犬彦さんが花音さんに駆け寄り、花音さんを誉める。
「さすがっすよ! すごいっすよ! 花音さん!」
「まさか、あんな短時間の内に一人でやっちまうとは……やっぱ大手の人間は違うな!」
すると花音さんは少し照れながら俯き、
「たまにはこういった少人数に突撃するのも面白いものですね」
そう言って帽子の
そんな花音さんを見て、犬彦さんと爽真君は顔を見合わせ微笑んだ。
「さぁ戻るか」
犬彦さんの言葉で三人は頷きセーブポイントへと帰還した。
セーブポイントへ三人が戻ると、目の前にはうつ伏せで地面にのめりこんでる麦が居た。
「む、麦さん……どうしたんっすか……」
そこへ後ろに麦が付いて来てないことに気付いた僕が駆け寄る。
「麦ちゃん! 後ろに居ないと思ったら、こんなとこで止まってたの!? あっ! 犬彦さん達! 今、割ったのってやっぱ犬彦さん達ですか!?」
犬彦さんが笑顔で頷く。
「あぁ、そうだ! 花音さん大活躍だったぞ!」
「すごい! 前半でもう二回もコール出来たなんて!」
喜ぶ僕に爽真君がひきつった顔で、麦を指差し聞いてきた。
「それより『コレ』どうしたんすか……?」
「あぁ、多分……思ってたより割れなくて凹んでるんじゃないかな?」
爽真君の質問に苦笑いで返す。
すると、犬彦さんが時間を確認してから、皆へ指示を出した。
「そろそろ後半で人も多くなってくるから、ここからは二手に分かれるか。爽真はトチギさん達に合流。俺と花音さんはこのまま文達について行こう」
皆は犬彦さんの提案を了承する。
「了解!」「了解っす」「分かりました」
僕は地面にのめりこんでる麦を引きずりながらワープゲートへと向かった。
「もお! いつまでも凹んでないで! 急がないと割れるもんも割れないよ!」
「…………」
自分が一度も割れない中、トチギさん達が割り、更に犬彦さん達まで割ったのがそうとうショックだったのだろう。引きずられたまま無言の麦。すると花音さんが麦の耳元に近寄り話し掛けた。
「鷹の幹部ともあろう人がレースで一度も割れないなんて、ホークさんの顔に泥塗るつもりですか」
その言葉にバッと顔を上げる麦。
「ホークさん……私はホークスネストの麦飯ちゃん……うおおおおおお! やってやんよおおおお! 魔石ごと殴り飛ばしてやるうううう!」
やる気を取り戻した麦はワープゲートへ高速で走って行った。
(あんな先行っちゃって……次の城決めてないのに……)
その後J3に行き、割れずにセーブポイントへ戻るも、魔石に少し触れることの出来た麦がやる気を更に上げて直ぐにまたJ3へと向かった。
──J3前 待機中──
僕の隣で小声でぶつぶつ独り言を言う麦。
「触れた……魔石に届いたんだ……次こそ……」
(そう、麦ちゃんには可能性が十分ある)
元のステータスが高い上に武器も良いものを持ってる麦は、そこらへんのプレイヤーに比べれば明らかに攻撃力が高い。
魔石割りに参加さえ出来れば割れる確率は十分に高いのだ。
ただ、やはり運ゲーと言われるだけあって攻撃力が高くても低くても、最後に魔石の体力を削った人が勝者なのだ。
しかし、プレイヤーからの妨害を受け、城の中の障害物を避け、その中で最短の距離で魔石部屋まで行き魔石を割る。それは容易なことではなく……。
魔石に触れることが出来なければ、その運ゲーにすら参加出来ない。
麦は確実に魔石割りに参加出来るようになってきている。それに加え、花音さんの妨害が決まり、犬彦さんも一緒に魔石割りに参加出来れば、僕らがコールを鳴らす確率はうんとアップする。
J3の前で待機してる人数は20人を優に超えていた。J3のコールが聞こえるとともに、皆が一斉に城の中へ入る。
入ると直ぐに花音さんの妨害が入り、前方にいた数人が足止めを食らう。
僕もプリ唯一の妨害スキル《移動速度減少》を目の前にいたアタッカーらしき騎士に使う。その間も麦と犬彦さんは魔石部屋へと急いでいた。
徒歩の移動速度で言えばアサシンが一番足が速いのだが、騎士は『竜騎乗』スキルを覚えると二足歩行の竜に乗れるようになる。
普段だと断然速いのだが、Gvでは制限がかかりアサシンより少し速い程度にされている。
その他にもモンクの《縮地》のように移動が速く出来るスキルがある。
しかし、モンク以外にも足を速く出来るスキルを持った職業がいる。それがバーサーカーだ。
【
『四足獣』使用すると短距離が1.5倍の速さで移動出来るようになる。スキル使用中は四足歩行で走ってるように見える。《縮地》同様、連続使用回数が決められている。
先頭を走るのは騎士で、その後ろを犬彦さんと麦が走っていた。麦が叫ぶ。
「ひゃっほおおお! 今までになく順調だよ!」
「おぅ! 後ろから騎士がもう一人来てるが、このままなら俺らの方が先に部屋に着くな」
犬彦さんの言葉通り、先頭の次に魔石部屋に着いた麦達は魔石を叩き始める。
犬彦さんがバーサークを使って叩き始めると後ろに居た騎士が追い付き、その騎士も魔石を叩き始める。
そしてアサシン、アーチャーと到着して、アーチャーの弓が魔石に当たり始めたとこで僕は部屋に到着した。
僕が魔石に駆け寄った直ぐ後だった。
──ビキ……ビキ……
高さ3メートルを超える巨大な魔石にはヒビが入り、青く輝いていた魔石は縦半分に割れて光を失った。
麦達と一緒になって魔石を叩いていた騎士達も、僕と一緒に部屋に入ったバーサーカーも、部屋に入ったばかりのプリーストも、部屋の中からは僕らを残して皆が消えた。
僕らが起こったことに一瞬呆然としてると……。
──『Jack3castle わんわん警備保障』──
僕らのコールが鳴った。
「やった! やった! やったあああああああ! 初めて割ったあああああ! こんなにも嬉しいものなのかっ! わーい!」
(すごく嬉しそうだな麦ちゃん……本当こうゆう時はアタッカー羨ましいんだよな)
僕と犬彦さんが飛びはねて喜ぶ麦を笑顔で見る中、遅れて魔石部屋へ来た花音さんも少し笑顔で麦を見ていた。
「さっ! この調子で次いくぞ!」
犬彦さんの掛け声で僕らはセーブポイントへと戻った。
まだコール三回だが、もうすでにギルドの最高記録を打ち出し皆のテンションもどんどん上がっていっていた。
だが、このままでは確実に紅白戦出場とはいかないのも皆分かっていた。
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