第16話[チーム旧暦]
僕は今回、久しぶりに麦とは別行動である。
僕の名前『文月』は旧暦で使われている和風名月からとっているのだが、ある日臨時パーティーで一緒になった人が『
その後も僕らは旧暦を名前で使っている人に声を掛けて、集まるようになったのが『チーム旧暦』である。
皆、ギルドもレベルもバラバラだがとても仲が良い。このチーム旧暦のメンバーでたまに狩りに行くのが、僕の楽しみの一つである。
ということで、今日はチーム旧暦の集まりがあるため、麦とは別行動しているのであった。
──デルン野菜屋前──
「おーい!
野菜屋の前に近づくと後ろから睦月さんが走って声を掛けてきた。
彼は僕のことを7月の『七さん』と呼んでくる。僕も彼のことは1月の『いちさん』と呼んでいる。
いちさんはギルド無所属のスミスだ。縛られるのが嫌いみたいでギルドには所属せずに臨時パーティーやソロなどでレベル上げをしている。
「やぁ! いちさん! 久しぶりだね!」
「そっか! 3ヶ月ぶりぐらいかな? 今日は神無月さんは来れないみたいだな」
「そうなんだ。仕事忙しいのかな?」
そんな話をしながら僕らは皆と待ち合わせをしている野菜屋の前に到着した。
この時はまだ、物影から僕らの事を見ている怪しい存在に気付いていなかった……。
待っていた皆の前に着くと僕は笑顔で挨拶した。
「お待たせしました! 皆さんお久しぶりです!」
「お久しぶりですねぇ。最近は雨ばかりで嫌になりますねぇ」
このおっとり喋るファーマシストが『
最近、と言っても5ヶ月前だがチーム旧暦のメンバーに加わったお姉さんだ。
一応、大手ギルド『
「皆さんお元気みたいで良かったです! アタシはもうすぐ試験なので今日、目一杯遊んだら試験勉強しないと!」
彼女は『
小さなまったりギルドに所属していて、とても明るい女の子だ。チーム旧暦のムードメーカー的存在だ。
「あと来るのは師匠だけかっすか」
彼はアーチャーで僕と同じギルドに所属している『
一見、面倒臭がりっぽいけど意外とマメな性格をしている少年だ。
「師匠は……もう来てるぜ」
「えっ!? どこどこ!?」
そう言って、いちさんは野菜屋の屋根を指さした。
そこには腕を組んで僕らを見下ろす男性モンクの姿があった。
「私はずっとここで待っていたぞ!」
大きな声で叫ぶと野菜屋の屋根から飛び降りて僕らの前にやってきた彼は『
素性が一切分からないがギルドは無所属だ。とても気のいい変人だ。
このメンバーにあと一人『神無月』さんという騎士の人がいて、僕らはチーム旧暦としてたまに狩りに行って楽しんでいる。他の月も絶賛募集中だ。
メンバーも揃い、それぞれが好きに話始める。横では爽真君が師匠の横に行き怪訝そうに聞く。
「師匠ずっとあんな所に居たんすか……」
「ああっ! 1時間立ち続けていた!」
「さぁて今日はどこに行きましょうかぁ?」
皐月さんがみんなの顔を見回してから質問すると、弥生さんが杖を両手に前のめりで答えた。
「あっ!アタシ、ダンジョン行きたいです!」
ちょっと変わった人もいるが、皆とても気のいい人達だ。なので今日は久々にゆっくり楽しめる……そう思った瞬間。
「何処に行くか決める前に……そこのお前!! 隠れているのは分かっているぞ! 出てこい!」
急に師匠が野菜屋の裏にむかって叫んだ。
皆がそっちの方をむくと、野菜屋の裏から黒いマントを被った怪しげな人物が姿を現した。
「ふっふっふっ。よくぞ見破った! とうっ!」
そう言って怪しげな人物は黒いマントを取ったが、そのマントの下もまた怪しげな格好だった。
「麦ちゃん……なんでいんの……」
「えー! だって文ちゃん今日は旧暦メンバーとの集まりがあるとか言って、ウキウキした足取りでどっか行くんだもん! なんか楽しそうで羨ましいじゃん!」
皆が見てはいけないものを見てしまったという顔で麦を見る中、一人キラキラした瞳で麦のことを見ている弥生さんの姿があった。
「文月さんのお知り合いなんですか!? 格好いいですね!」
(弥生さんって、そうゆう感性なの……)
僕は弥生さんの感性に拍子抜けしつつ、麦のことを紹介しようと口を開いたが、僕の横から麦が割って入ってきた。
「彼女は僕の……」
「はいはーいっ! 文ちゃんのリアル妻の麦飯ちゃんでーすっ! 呼ぶ時はお麦さんでもいいし、小麦粉さんでもいいよー!」
「小麦粉って……キャラネーム変わっちゃってるよ……麦でいいですからね」
麦の勢いに押されながらも皆は麦に興味津々だった。
「へぇー! 七さん結婚してたなんて知らなかったなー」
「本当っすよ……ギルメンのオレですら知らなかったっす」
ゲーム内で麦と関わることなど滅多に無かったので周囲の人間にも話す機会がなかっただけだ。
皆は僕の知られざる一面を知って少し驚いていたが知人の初耳話を聞いた。唯それだけの事で深い意味は無い。
しかし皆の反応を見て絶対勘違いしてるであろうニヤつき顔で、麦が僕のことを見ていた。
「文ちゃんも結婚してるなんて思われてなかったんだー!」
「勘違いしてるだろうけど、麦ちゃんのとは違う意味だから」
「ど、どういった意味ですか……それにしても! お主! なかなか、やるではないかっ!」
急に師匠の方を向き指をさす麦。さっき隠れていたのを見つけられた事にビックリしたのだろう。
(確かに……《気配消失》していただろう麦ちゃんをよく見つけられたな)
「ふんっ! 貴様が文月殿らをつけ回し、すぐそこで姿を消したのは、全て屋根の上から丸見えだったわい!」
逆に指をさされアサシンとして恥ずべき行為をさらけ出された麦は衝撃の余り、ひっくり返った。
「ぎゃあっ!」
僕はひっくり返った麦を起こし、説得して追い返そうとしたが麦は自慢気に自分の頭を指差した。
「今日は旧暦メンバーの集まりだって言ってたでしょ?」
「ふっふっふー! この頭を見よっ! これが何に見える!?」
麦の頭をよくよく見てみると、そこには餅を一生懸命に撞くウサギがいた。
「えっ……お月見帽子?」
『お月見帽子』期間限定のお月見イベント時に各マップに出現するイベント限定のMobを倒した際、ドロップする団子を200個集めると交換で配布される頭装備である。
効果は防御力+10に動物型Mobに与えるダメージ+10%。
しかし、それだけでは無かった。麦は仁王立ちをすると自信たっぷりに言った。
「しかも! ただのお月見帽子じゃないんだなー!」
その自信たっぷりな麦に反応を示したのは皐月さんだった。
「レアな方のお月見なんですねぇ」
「そうっ! よく見てっ! ウサコ倍増の2匹だからっ!!」
『レアお月見帽子』通常のお月見帽子と、更にイベントアイテムの団子を1000個集めると交換してもらえる。
通常のお月見帽子の効果に防御力が+5上乗せされ、動物型に加え昆虫型Mobへ与えるダメージも10%追加されるという中々の装備だ。
そして必死に餅を撞くウサギが一匹から二匹になる。
(それを被ってるから旧暦メンバーに加えてくれってことか……?)
僕は額に手を当てため息を吐いた。そんな僕の肩に手を置いて笑顔で宥めてくれたのはいちさんだった。
「いいじゃないか七さん! 麦さんも一緒に狩り行きましょう!」
「やったー!!」
皆も反対する様子もなく、むしろ歓迎ムードで麦は無事に旧暦メンバーと狩りへ行くことになった。
一緒に狩りへ行けることがすごく嬉しかったのか皆と笑顔で握手を交わす麦を見て僕は、
(なんで麦ちゃんはすぐに人と打ち解けられるんだろう……? それより、『当選しました!麦飯』って……なんだあの
誇らしいような恥ずかしいような気持ちになった。
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