第15話[吹雪の中から]
僕たちは今……ゲームの中で遭難しています。
急に吹雪に遭った僕たちは街に戻る術もなく、吹雪を避ける為、他のマップへの入口を捜索していた。
吹雪をさ迷うこと数十分が経過し、僕の屈強な精神力もポキリと音を立てて折れていた。
「もう諦めようよ……麦ちゃんめっちゃ震えてんじゃん……」
「ぐふ……もう諦めるしかないのか……せめて、装備全部取るか……」
違うマップへの入口捜索を諦め、麦が涙目で装備を脱ごうとしていた、その時。
──ヒュン
僕たちの後ろ側をまた黒い影が通り過ぎた。
(えっ、また何か通ったか?)
そう思った矢先、僕らの前から人影が現れた。
「あれ? ネキっ!」
「ポポちゃああああん!」
僕たちの前に現れたのはポポちゃんだった。ポポちゃんは吹雪も気にせず一人で狩っていたらしい。
僕たちは帰還スクロールが無くて遭難していた事をポポちゃんに告げた。
「なんや、そないな事なら持ってんで!」
と、ポポちゃんは僕たちに帰還スクロールをくれた。
「ありがとおぉぉ! ポポちゃーん! このご恩は一生忘れませんっ!」
ポポちゃんから貰った帰還スクロールに口付けしまくる麦の横で、僕はポポちゃんに聞いた。
「ありがとう! って、ポポちゃんは街に戻らないの?」
「ちょい探し物があるんや」
「探し物?」
すると、何処からともなく地響きがした。
──ズシン……ズシン……
何処からともなくすると思っていた地響きは、ポポちゃんの後ろ側からだった。
それが足音だと気付いた時には影が確認出来る程の距離まで『そいつ』は近付いていた。
吹雪の中でも響いてくる大きな足音と、人の様だが明らかに大きな影が僕らの前に姿を現した。
「せやっ! でも……多分おったわ」
「えっ、えっ、えぇぇぇ!? デカあああああ!!」
その大きさに僕は思わず腰を抜かした。颯爽と麦が僕の前に立ち短剣を構える。
「こやつっ! アイスゴーレムでござるなっ!」
ポポちゃんの後ろ側から来た大きな影は、全長3メートルは超えるだろう、ゴツゴツした氷の塊で出来た
砂嵐やサイクロンなど、マップに異常気象が起こる時にだけランダムで出没する強敵がゴーレムシリーズだ。
中ボスとまではいかないが結構な強さであり、一般プレイヤーが準備なしに出会うと、たちまち消し炭にされる。
どうやらポポちゃんはこのレアモンスターを探していたみたいだ。
「ちょうどええわっ! ネキ!パーティー投げて!」
そう言われて麦はポポちゃんにパーティー参加要請を出した。
「久々のゴーレム! 楽しそうじゃーん!」
「僕ゴーレムやった事ないんだけど!」
急に現れたアイスゴーレムに僕たちは立ち向かうのであった。
麦とポポちゃんが素早い攻撃でアイスゴーレムにダメージを与えていく中、僕は二人に攻撃力増加や防御力増加などのバフ魔法をかけつつ回復をしていった。
ポポちゃんの職業バーサーカーは攻撃速度はアサシン並みに速いものの、フリーはアサシンほど無いので麦よりポポちゃんの方が攻撃を多く受けていた。しかし……。
【クロス・カウンター】
『クロス・カウンター』とはバーサーカーのパッシブスキルで自分で発動するスキルではなく、常時効果が現れるスキルなのだ。
このクロス・カウンターは相手からの近接攻撃を受けると10%の確率で発動し、相手から受けた攻撃の1.2倍のダメージを相手に返すスキルである。
クロス・カウンターを挟みつつ順調に攻撃を与えるも、アイスゴーレムの荒々しい打撃攻撃は一発一発が重く、攻撃が当たるとレベルの高い二人でも結構HPが削られていた。
僕の回復量では麦とポポちゃん二人を回復し続けることが難しく……。
「ちょっとMPがキツくなってきた……」
「ほな、後ろ下がんで」
「ごめん……」
「ええで! 気にせんとき!」
攻撃を受けやすいポポちゃんに定期的に下がってもらって遠距離攻撃に変えてもらっていた。
その間に僕のMPを自動回復で安定させていた。
しかし二人とも近接が強い職業なので、僕のMPが安定したら、またポポちゃんに前に出てもらうのを繰り返していた。
しかし、十数分経つもアイスゴーレムには瀕死エフェクトがつかず、前の方で麦とポポちゃんが目配せをする。
「なぁ、ネキ。こいつ……」
「他のゴーレムよりタフだねぇ! ってか倒れる気配なくないっ!?」
「探知系おらんから分からへんけど、自動回復ついてるんちゃうかなぁ?」
麦とポポちゃんのやり取りを聞いて僕は戸惑う。
「えっ? 自動回復しちゃってるの!?」
その間もアイスゴーレムとの激しい戦闘音は周りに響いていた。
麦がアイスゴーレムに刺した短剣を抜くと同時に、空中を一回転しながら答えてくれた。
「他のゴーレムだと、流石に倒れてもおかしくないぐらい削ってるけど全然倒れる気配ないし!」
「しかもサンドゴーレムと一緒なら、吹雪の効果で回復率も上がっとるな」
パーティー通話にしていても風が鳴る音が強く、僕はつい大声で聞き返してしまった。
「えっ!? じゃあ、このままじゃ倒せないってこと!?」
麦はアイスゴーレムの大きな拳を避けながら、首を傾げた。
「んー、もしかしたらちょっとずつは削れてるかもしれないけど……ポポちゃんアレ使ってよ!」
「ええけど、削りきれるかは分からへんよ?」
アイスゴーレムの自動回復にポポちゃんがスキルを使うか躊躇していると遠くの方から、あの音がした。
────ヒュン
(あれ?この音ってさっきの……)
──ヒュン、ヒュン
(な、なんか音が近付いてきてる!)
そして音の正体が目の前に現れると共に、アイスゴーレムに強烈な一発が入った。
強烈な一発を入れた謎の人物がこちらに顔をむけると……。
「ひゃう!」
「ひゃ、ひゃう?」
謎の人物にドヤ顔で謎の言葉を言われ、僕は状況が理解出来ず一瞬固まる。
だが、麦とポポちゃんがその人物に同時に声を掛けた。
「えーさん!」
麦とポポちゃんが嬉しそうに名前を呼んだ相手は、セミロングの濃い緑の髪が目立つ女性の『モンク』だった。
モンクは己の拳を武器とする職業だ。噂では一撃必殺があるらしい。
モンクが素早く移動する手段として使われている『
『縮地』は短距離を一瞬で移動するスキルだ。勿論MPも消費するし、連続使用回数が決められてるので、ずっとは使用出来ない。
えーさんは僕らと同じく東マップ3をさ迷っていたみたいで、戦闘音を聞いて近付いてきたらしい。
アイスゴーレムと戦ってる僕たちを確認して《縮地》で僕らの前に現れ、そしてアイスゴーレムに拳を与えたのだった。
えーさんと麦がハイタッチして、挨拶なのだろうか……さっきの言葉を言い合う。
「ひゃう!」
「ひゃう!」
少し後ろに下がったポポちゃんがえーさんにパーティー要請を出した。
「えーさん! ええとこ来たわ! パーティー投げるから一緒にコイツ倒しぃや!」
パーティーを受け取ったえーさんはボソっと、ポポちゃんに話しかける。
「西日本の人……暴走……」
それを聞いたポポちゃんはニマっと笑い、スキルを発動した。
「あぁ、するで! えーさんもキッツいの打ったって! ほなっ、畳み掛けんでー!」
【バーサーク】
『バーサーク』暴走とも呼ばれるバーサーカーのスキル。
残りの全てのMPを使い攻撃力を二倍にする。時間と共にMPが減少していきMPが尽きたとこでスキルも切れる。
バーサーク中はアイテムの使用が一切出来なくなる為、使い所が選ばれるが強力なスキルの一つだ。そして……。
「ぐおおおおおおおおおおおおお!!」
見た目がめっちゃゴツくなる。
先程までクマのぬいぐるみの様に可愛かったポポちゃんは、赤い閃光に包まれるとリアル熊並みにデカくムキムキへと変貌した。
(うっ、可愛かったクマたんが……)
しかし唸り声はポポちゃんからだけではなかった。
「ぐおおおおおおおおおおおおお!!」
ポポちゃんの横で麦とえーさんが手を上にむけ、目が血走った状態で叫んでいた。
バーサークは仲間に影響することは無いのだが……。
「なんで二人とも釣られてんのっ!?」
(ノリやすい性格だからかな? ……あんまり深くツッコまないでおこう)
その後、ポポちゃんの強力なバーサーク攻撃と、何故かバーサークに感化された麦とえーさんの猛攻撃で、アイスゴーレムはあっという間に倒された。
アイスゴーレムが倒されると同時ぐらいに、偶然にも吹雪は治まり晴れ渡る青空からは太陽の光が見え、アイスゴーレムが倒された場所にはいくつかの戦利品が輝くように落ちていた。
────プシューッ
(あっ、
バーサークが切れてゴツい熊から元の可愛いクマたんに戻ったポポちゃんが、僕の元にやってきて僕のお腹をポンっと叩いた。
「おおきに! 助かったで! ニキ!」
僕は顔の前で手を降り、少し照れ笑いをする。
「いやいや! 僕はそんなに役に立ってないから! ……って、えっ? 僕、ニキ?」
ニキと呼ばれたことにポカンとしているとポポちゃんが、
「せやでっ!」
そう言って天使の様な満面の笑みを僕に見せてくれた。
(可愛いから、いいか)
その後ポポちゃんと、暴走状態が解けずMobにかぶりついてる麦とえーさんを引っ張って、僕らは街へ戻って行った。
(あれっ? そう言えばゴーレムの戦利品って、どうなったんだろう……?ポポちゃんが拾ってたような……)
これは後日談だが……麦が「またボルシチ食べたい」と言うのであの食堂に行くと、ボルシチの他にサリャンカという酸っぱいスープ料理がメニューに追加されていて、カウンターの隅には名誉キッカーの像が飾られていた。
食堂店主は欠けていない皿を拭きながら、熱く語った。
「夢はワールドカップに出ることだ!」
麦はボルシチとサリャンカを食べながら親指を立てる。
「おっ! いいねぇ! 夢はでっかくだね!」
「いや、店盛り立てようよ」
新しく追加されたマップで思わぬ敵に出会ったり、鷹の個性的なメンバーに出会ったり、麦の知られざる一面を見たりと、驚かされる事が多かったけど僕はまた世界観を広げるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます