第14話[秘伝の]
僕たちはロシアをイメージした綺麗な街アーカシリアで、何故か津軽弁を話すお婆ちゃんから料理に必要なアイテムの場所を聞き出し、秘伝のスパイスが眠る地下室へと向かうのだった。
地下室へと向かう前に料理に必要なアイテムを揃えるべく、僕たちは街でアイテムを購入し、それ以外のMobからのドロップ品は麦が持ってると言うので『倉庫』へと向かった。
『倉庫』とは各街それぞれに何ヵ所か設置されていて、アイテム整理などに使われる。
倉庫を管理するNPCが小さな二足歩行の犬で、それぞれの倉庫に違う犬種が立っている。一応コボルド設定らしい。
服もちゃんと着ているし、鈍器を必ず持っている。見た目は可愛らしいのに、どのコボルドも口が悪い上に目付きも悪い。
コボルドの上の方に浮いている巨大な光る骨をクリックすると、各自のモニターに倉庫画面が表示され、倉庫が開けるようになる。
麦は自分の倉庫から料理に必要なアイテムを探していた。
「えぇーっと、ゴンクラードの茎……どっこかなぁ~? …………ない! いやっ! あるはず! どこだっ!?」
そんな麦をパグ犬コボルドが見上げる。
「お前、倉庫ん中きたねぇな。ソート使え! カスがっ」
小さなワンコにカス呼ばわりされた麦は、少し眉をピクピクさせながらもアイテムを探し続ける。
「かっ、かす…………あっ! あったあった! 後は、えぇーっと」
麦が倉庫を探してる間、僕も持ってるアイテムを整理する為に倉庫を開いていた。
(えぇっと、コレとコレは今はいらないから置いてって……あっ、あれ持ってこう。んで、これは置いて……)
パグに座った目で睨まれ続ける麦。
「まだ見つかんねぇのか! 変な装備ばっか集めてっからだろ」
「ぐふっ……このワンコめっ……」
「俺を犬と一緒にすんじゃねぇ。てめぇは犬とコボルドの違いも分かんねぇのか」
(僕、あんなに倉庫犬に絡まれたことないぞ……麦ちゃんNPCによく絡まれるなぁ……)
麦がパグに罵声を浴びながもアイテムを無事に取り終えると、僕らはお婆ちゃんの家へと向かった。
お婆ちゃんの家は食堂の裏にあり、地下へと繋がる階段は家の直ぐ横に設置されていた。地下室に入ると僕らの想像とは違い、棚が3つ並んでいた。
僕は棚の前で止まり頭をひねった。
「あれ? 棚3つあるよ? 何か罠が仕掛けられてるとか……?」
すると麦が肩を回しながら棚の前に近寄っていった。
「あらあら、まあまあ! 端から、ぶん殴りましょうねぇ~!」
「大丈夫? それ……」
麦がノリノリで右端の棚を思い切りパンチした。
「おりゃああああああ!」──ドゴッ
殴られた棚はパカっと扉が開き、中からは小汚ない巾着袋が床へと落ちた。
僕は麦の強烈なパンチを食らった棚を見ながら、落ちた巾着袋を拾った。
「普通だったら棚壊れてるよ……おっ! なんか出てきた」
「こっ、これは……!」
──『秘伝のスパイク』──
「一文字ちがああああああああう!!」
麦は頭を抱えながら膝を落とした。その横でスパイクを手に取り僕は疑問を口にする。
「あのお婆ちゃんサッカーでもやってたのか……?」
「さっ! 次いこっ! 次っ!」
めげずに麦は真ん中の棚に突っ張りを咬ました。
「どすこぉぉぉぉぉぉぉぉいっ!!」──バンっ
扉が開いた棚に近寄り、僕はまた巾着袋の中身を確認する。
「あっ、開いた……えーっと、なになに?」
──『秘伝の酸っぱいッス』──
僕は口の端がピクっとなった。
「く、くだらない……」
横では麦が白目をむいてた。
「酸っぱいッス……」
僕らは気を取り直して最後の棚を開けることにした。
「じゃあ残りの一つが秘伝のスパイスだね」
「あーっ、一発で当てたかったなぁー」
やる気の失せた麦が適当にデコピンすると、最後の棚が開いた。──バチィィィィン
(なんか最後のが一番強そうだったんだけど……)
秘伝のスパイスを手に入れた僕たちは食堂の店主に料理の材料を渡してあげた。
食堂店主は受け取ると、礼を言い、店の奥へと材料を持って行った。
「おっ! ありがとなっ! 今から作るからちょっと待っててくれ」
そう言われて僕たちは食堂の奥にある小さなテーブルの椅子に腰掛けた。
僕は今一度、店内を見回しながらテーブルに肘をついた。
「こんな廃れ気味の食堂に今さら一つメインが追加されるだけで繁盛すんのかなぁ」
麦はテーブルに足をつけ、椅子で舟漕ぎしながら暇そうに待っている。
「まぁ、本人が言うだけあって他の料理は今一だったわ」
「えっ? いつ食べたの」
そんな話を麦としてると食堂の店主が出来上がった料理を持ってきた。
「ほいっ! お待ちどう! うちの新メニュー『ボルシチ』だっ!」
麦は真っ赤なスープに顔を近付けると涎を垂らし始めた。
「おおぉ! いい匂い~!」
「美味しそうだねー! って、なんであの材料からボルシチが出来るんだ? ビーツしか合ってなかったような……」
ボルシチは湯気まで立っていて、本当に美味しそうだった。実際に食べれる麦が羨ましく思える時である。
「まぁ、いいじゃん! いいじゃん! いただきまーすっ!」
満足げに完食した麦を見ると、とても美味しかったのだろう。
料理の効果を得た僕たちは街の外へと毛皮装備の材料を集めに行くのだった。
ついでに帰り際、秘伝のスパイクと秘伝の酸っぱいッスも食堂の店主に渡してあげた。
「おぉ! ありがとな!」
そして僕たちはアーカシリアの外マップで毛皮装備の材料を集め、再び服屋に赴き毛皮装備を作ってもらった。
フワッフワのフードのファーを触りながら麦が温かさに感動する。
「おぉぉぉ! 温かーい! ポッカポカやーん!」
「おー! 確かに温かくなったね!」
「さぁさぁ! これで本格的にマップ出れるよー! 文ちゃん行こーっ!」
モフモフとした毛皮装備に着替えた僕たちはアーカシリアの東マップへと足を延ばした。
僕はオシャレなイヌイット風の毛皮装備の温かさに感動しつつも、違和感を隠しきれなかった。
「街はロシアなのに毛皮装備はイヌイットみたいって矛盾を感じるんだけど……」
「可愛いからいいじゃん! 文ちゃんは細かいなぁー! よっ! 可愛いよ! 坊や!」
「べっ、別に嬉しくなんかないんだからっ!」
ツンデレの真似なんかしつつ、僕たちは東マップをどんどん進んで行った。
──アーカシリア東マップ3──
マップ3まで来ると周りの敵は段々と強くなっていった。
「結構、奥の方まで来たねー」
(それなりの強敵が出るマップ3地点でも卒なく敵を倒していく当たり、なんだかんだ言っても大手の精鋭なんだな)
と麦に関心していると、マップを確認していた麦が急に足を止めた。
「やっぱ新マップは面白いなー! 見たことないアイテムもいっぱいだし! 毒に使えそうなのは今んとこないけど……おや?」
「どうしたの? 麦ちゃん」
「鷹の人が同じマップにいるみたい! あっちの方だっ! 行ってみよー!」
麦が言う方に向かおうとすると、急に辺りの雪が増え、もの凄い風に煽られた。
麦が顔に降りかかる雪を払いのける。
「ちょっ! なにこれっ!? 前が見えないよ!」
「吹雪かっ! とりあえず鷹の人の方に行く?」
風の音が強くなる中で僕が大声で聞くと、慌てた様子でマップを確認する麦。
「ガーンっ! マップもスノーになってるよ!」
「はっ? 何言って……」
麦が言うスノーとはスノーノイズの事を言っていて、要はテレビの砂嵐だ。
麦の方のバグかと思い、僕は自分のマップを確認してみた。しかし、マップ画面を開くとマップにノイズが掛かった状態で、自分達の位置すら把握出来なくなっていた。
顔面に雪が積もりすぎて、口しか出てない状況の麦がぽんっと手を叩く。
「これって、砂嵐の時と同じ状況じゃない!?」
砂漠マップでたまに起こる砂嵐。これに巻き込まれるとマップにノイズが掛かりマップ確認が出来ず、周りの砂が舞い上がることで視認も難しくなるのだ。
砂嵐の時間はランダムで長い時は三時間近くも治まらない。
通常は砂嵐に遭った場合は砂嵐がないマップに移動するか、諦めて『帰還スクロール』という近くの街に戻るアイテムなどを使って街に戻るかする。
僕は麦の顔面の雪を払ってあげてから聞いた。
「麦ちゃん! 街戻る?」
「最後マップ見た時にマップ4の入口が近かったから、そっちの方行ってみよー!」
マップ4は今居るここよりも敵が強くなる。
さっきマップ3の敵を倒した感じだと、これ以上強くなると僕が支援しきれるか不安だった。
「えっ!? 4って僕ら二人で大丈夫なの!?」
「まぁ、なんとかなるよっ! とりあえず行こーっ!」
僕たちがマップ4の入口に向かって歩き出そうとした時だった。
────ヒュン
僕らの後ろを黒い影が一瞬通り過ぎた。僕はすぐに振り返ったが……。
「今、なんか居なかった……?」
音のした方を確認しても、そこには何もなかった。
「えっ!? なんか居た? って、うぉぉぉぉ! 毛皮着てるのに寒くなってきたっ! 早く行こうっ! 確かこっち!」
そう言われて、僕たちは強風で舞い上がる雪を押し退けながら麦が言う方向にと歩みを進めて行った。
──十数分後
行けども行けどもマップ4の入り口など見えず、たまに会うMobを倒しながら僕たちは治まることのない吹雪の中を突き進んでいた。
「麦ちゃん! もう諦めて街戻らない?」
すると麦は突き進んでいた足を止め、ゆっくりと振り返った。
振り返った麦の顔は気まずそうに沈んでいた。
「文タソ……」
「えっ、なに……?」
麦は急に地面の雪に頭を埋め、僕に向かって土下座して叫んだ。
「拙者……帰還スクロール忘れたでござるぅぅぅぅぅぅ!! この失態は自身の身をもって償わせていただきとうござる……」
そう言ってナイフで自分の腹を
「ちょっ! 待って待って! 僕のあげるから!」
「かたじけのうござる……」
麦に帰還スクロールをあげるべく、僕は自分のアイテム欄を確認すると一気に顔が青ざめた。
「あっ……拙者も忘れたでゴザル……」
「なんてこったいっっ!!」
麦がボルシチの材料を倉庫から取り出してる時に僕は倉庫でアイテム整理をしていたのだが、その時はそのまま狩りに行くと思っていなくて、一緒に帰還スクロールも預けていたのであった。
僕は麦の前に片ひざを付いて目線を合わした。
「しょうがない。一緒に腹切ろう」
「そなた……何を言うておる……」
「死んでセーブポイント戻るしかないだろ? あっ、あそこのMobに倒してもらおう!」
そう言って麦の腕を持ち、立ち上がろうとしたが、麦に思い切り腕を振りほどかれた。
「アホかっ! 嫌だよ! こんな無意味なとこで
『デスペナ』街やPvPステージ以外の通常戦闘マップでHPが尽き倒れるとペナルティを受ける。
このゲームでのデスペナは、経験値の減少とペナルティを受ける際に装備していた武器か防具をランダムで一つ『熟練度』を下げる。
初期の頃は特にキツくはないこのデスペナだが、麦ほどにもなると経験値の減少も辛いし、何より装備の熟練度が下がるのはとってもキツいことなのだ。
麦が大事そうに自分の短剣を握りしめ、涙目で僕に訴えかけてきた。
「この武器、この前熟練度上がったばっかなのに! 下がったら私もう生きていけないよっ! 文ちゃんのへなちょこ装備と一緒にしないでっ!」
「ちょっと! へなちょこって……その通りだけど……。僕だって、それなりに頑張ってるのに……。ってか生きてけないって、もう死んでんじゃん」
「ぎゃふん!」
そうして僕たちは街に戻ることを諦め、吹雪の中さ迷い歩いた。
(へなちょこ……)
僕は思いの外、麦に言われた言葉に傷つきながらも先が見えない吹雪の中、麦の頼れる背中に付いていくのであった。
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