第12話[パキヨムの最期]

 連続で不運が続き、一時はどうなるか分からない程のピンチを迎えるも、なんとか乗り切った僕たちはパキヨムの終盤戦へと差し掛かかっていた。



(ロマさんが言うにはもういつパキヨムが倒れてもおかしくないはず……最後の一撃がくるのも、もうすぐって事か……)


 本来なら麦が倒れても戦利品を拾う誰かが起きてればいい。

 なので、最後の一撃は麦を見捨てて生き残りそうな人たちを防御魔法などで守るというロマさんの作戦は正しい。

 だが、麦を死なせたくない僕は焦っていた。


(ここからじゃ咄嗟に麦への支援は届かない……どの道、最後の一発が放たれて僕の回復ヒール1回あてたとこで今の装備の麦ちゃんは守れないだろう……)


 いつ最後の一発が出てもおかしくない状況で、僕は自分が出来ることを必死に探す。


(最後、伝心さんと花音さんには申し訳ないけど見捨てさせてもらって、一か八かで麦にあれを使うか……。間に合うのか……?)


 そう考えていた矢先。──ピギャアアア


 パキヨムが叫ぶとパキヨムの体が光だした。


「くるっ!」


 ロマさんの言葉に反応して前に出ようとしたが……。


──モジャスキィィィィ


 パキヨムの最期の雄叫びとともに強烈な光が辺りを包み、そして爆風に乗ってパキヨムの毛が辺り一帯に吹き飛んだ。


 強烈な光で目の前が真っ白になった瞬間、麦の前に立つ人影が見えた。


 光の中、目を細めて見ると……麦の前には大きな盾を持ち、腰まである赤い髪をなびかせた人物の後ろ姿があった。


大いなる盾マグニフィセントシールド


 それは『クルセイダー』が使う、自分より後方の範囲内の『全てのもの』をどんな攻撃からも一撃だけ守るという……とんでもないスキルだった。

 ついでにディレイと言って、また使えるようになるまでは10分かかる。



 ロマさんが自分の顔の前に手をかざしながら、その人物の名を呼んだ。


「ホークさんっ!?」


 光と爆風が収まると僕たちのモニターには『win』の文字が出ていた。


 肩の力が一気に抜け、僕はその場に立ち尽くした。


「僕たちが勝ったのか……?」



 麦は大喜びでホークさんの背中に飛びつく。


「ひゃっほおぉぉぉ! 取ったあぁぁ! ナーッイス! タイミング! ホークさんっ! やるやるぅー! フッフー!」


 ホークさんが少し笑うと背中にしがみついてる麦の頭に手を置き、


「それより先に戦利品を拾ったらどうだ? ……ほぉ、これは……」


 目を見開き自分の足元を見た。


 皆も麦達の元に駆け寄り、ホークさんの足元へと目をやった。


 こころさんとロマさんの喜びの声が聞こえてきた。


「どぉ~お~? わぁ~!」

「わっ! まじかっ! やったなっ!」


 僕も少し遅れを取るも皆の側へ駆けて行った。


 皆が喜ぶ目線の先を見るとそこには色々な戦利品が落ちていて、中でも僕らを興奮させたのが拳大の濃いピンクに輝くハート型のジュエルだった。



「キィィィィ……取られたぁぁっ! 悔しいぃーっ!」


 地団駄踏んで悔しがる織姫さんを戦士のメンバーが引きずって連れて帰っていた。


 ホークさんの背中から飛び降りた麦は戦闘からの緊張が抜けて腰が抜けたのか、疲れたのか、その場に座り込む。


「初パキョ!? やったぁぁーぁー……」


 伝心さんがガッツポーズを取る。


「すごいっ! 快挙ですね!」


 その横では花音さんも少し嬉しそうに口元をあげていた。


「しかも戦士に勝てるなんて……!」



 ホークさんは大興奮の皆に体をむけ、皆を讃えた。


「皆、ご苦労だった。あの戦況でよく勝てたな」


 するとロマさんが戦利品を拾いながらホークさんに問いかける。


「まさかジュエルが本当に出るとは思ってなかったけどなっ! しかしホークさんがどうしてここに?」


 ホークさんは頷き、ロマさんを真っ直ぐに見返す。


「あぁ。繋いだ時にたまり場の連中に聞いて来たんだが……もうラストだったな。すまない」


 ロマさんと一緒に戦利品を拾うのを手伝っていた伝心さんが笑顔で答えた。


「むしろ絶好のタイミングでした! さすがマスター!」


 ハート型のジュエルを抱き締めるこころさんもホークさんに笑顔をむける。


「おかげさまでぇ~誰も死ななかったよぉ~」


 その後ろの方では花音さんが麦に話し掛けてた。


「麦さん何か顔色悪くないですか?」



 戦利品を拾い終わったロマさんが立ち上がり、


「よぉっし! たまり場帰って皆に見せてやろうぜっ!」


 そう言うと皆は帰還スクロールを使い街へと戻った。


 ボスジュエルが出たこと、それがしかもサーバー初だったこと、何より戦士側に勝ったという興奮で皆はすごくテンションが上がっていた。



 そして、たまり場に帰る道中に……。


「おい」


 僕はまたロマさんに呼び止められた。



 ロマさんは頭の後ろを掻きながら照れくさそうに僕に言った。


「よくやったな。まぁ、まだまだな部分も多いが初めてのボスにしては動きが良かったんじゃないか?」


「ありがとうございますっ! ロマさんに貸してもらった装備もそうだけど、教えてもらったスキルに助けられましたっ!」


 僕は自分より遥かにプレイヤースキルが上のロマさんに少し認められたのだと思い、すごく嬉しかった。


 照れくささで目線を逸らしていたロマさんが僕に目をやると、


「そっか! ……そういや、ちゃんと名乗ってなかったな。俺は『Romanée-conti ロマネコンティ』。まぁロマのままでいいけどなっ。これからもたまに来いよ!」


 そう言って笑顔で僕に手を差し伸べてくれた。


「はいっ! よろしくお願いしますっ!」


 僕も笑顔でロマさんの手を取るのだった。そして、僕は想ったことを口にする。


「それにしても……名前いやらしいですね」


「うるせぇ!」



 僕は「大手だから」と恐縮して避けていた鷹の人達が接してみれば気さくに話してくれたり、装備を貸してくれたり、そこらへんの人たちと同じ様に冗談を言って笑いあったりと想像していたような人たちではなくて……。


 思い込みで勝手に遠ざけていた自分に少し恥ずかしく感じながらも、今回のボス戦で仲良くなれた鷹の人達ともっと関わり合いたいと思うのであった。


(麦も死なずに済んだし……! 良かった良かった!)


「んっ!? って、あれ!? 麦ちゃんはっ!?」


 花音さんが無表情で指差す。


「あそこで倒れてます」


 僕たちの後方に泡吹きながら倒れている麦。


「えっ!? えぇぇぇぇぇ!? なんでぇっ!?」


 麦のHPバーは0になっており、僕は何があったのか分からず驚いた。その横でロマさんがため息を吐いた。


「はぁ……あのバカは」



 麦は泡吹きながらピクピクした手を伸ばして、助けを呼んでいた。

 

「たっ、たちけて……」


 どうやら、パキヨムの時に口にした回復と一緒に前提クエで拾った超レアな毒キノコまで勢い余って一緒に食べてしまったらしい……。



 花音さんが淡々と教えてくれた。


「HPが減っていくの気づいてましたけど、面白そうなので傍観してました」


 しかし、不安であったゲーム内での死亡は今までの苦悩とは打って変わって、いとも簡単に解決した。


(あーぁ。僕の心配、返してほしい……)



──翌日


「ねぇ~? どぉ~お~? 防具にジュエル付与してきたのぉ~」


 こころさんがその場でふわっと回って見せてくれた。それに興奮する僕とロマさん。


「なんか魅惑が強化されたようなっ!」


「………………いいっ!」


 パキヨムのジュエルを付与した防具を着けてきたこころさんに皆が称賛の声を上げる中、麦はそっぽを向いていた。


 そんな麦にこころさんが近寄り、顔を覗き込む。


「ねぇ~ねぇ~麦ちゃんどうかなぁ~?」


「へっ!? いやっ! いいよ~! こころんはいつでも最高だよ~」


(目泳いでんじゃん)


 目が泳ぐ麦を見て更に顔を近付ける、こころさん。


「ふ~ん。いつも思ってたんだけどぉ~麦ちゃんってぇ~こころと目合わせてくれないよねぇ~。もしかしてぇ~こころのことぉ~キ・ラ・イ?」


「えっ!? ちっ、違うよ! 好きだよっ! むしろ尊敬してるよっ!」


 焦った麦はこころさんの方を見て訴えかけた。


「でも私……こころんみたいな可愛子ちゃん直視してると……………………チーン」


 その様子を見ていた僕は苦笑いするのだった。


「あっ、魂ぬけた」


 麦は昔からある種トラウマとでも言うのか、こころさんみたいな女の子らしい可愛い子を見てると防衛反応で意識が飛ぶのであった。


 こころさんは口元に手をやりクスクスと笑った。


「なんだぁ~! こころの魅惑が足りないのかと思ってたけどぉ~良かった!」


 そう言って、皆の方へとくるりと向きを変えた。


(魅惑が足りなかったら今度は何する気なんだ……)


 メンテナンスやゲーム内での死亡など、とりあえずの心配が去った僕たちは当分の間、和やかにゲームを楽しむのであった。



───────────────────────

ここまで読んで頂きありがとうございます!

これにて第一章終わりです。

少しでも楽しんで貰えたのなら嬉しい限りです。


第二章は旦那側の話が多くなります。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る