第11話[対抗]
僕たちが順調にパキヨムと戦っていると、パキヨムの後方に人影が見えた。
その人影は数人のパーティーらしき人達だった。
「あらぁ~、こんなタイミングで対抗がいるなんてねぇ」
そう言ったのは、明るい茶髪の巻髪が艶っぽい巨乳ダンサーだった。
(なんだっ!? あのバインボインはっ……!? すっごい色気を
パキヨムの反対側から来たメンバーを見て、ロマさんが苦い顔をした。
「くそっ!『戦士』のやつらが来たか!」
戦士のやつらと呼ばれた彼女達は、大手ギルドの一つ『
周りからは『戦士』と呼ばれ、それこそ正に戦士と呼ばれるに値するギルドマスターに率いられた強者が多く存在するギルドだ。
こころさんが相手のダンサーに向けて話し掛けた。
「来たんだぁ~織姫ちゃん~」
すると、織姫と呼ばれたダンサーは余裕の笑みを浮かべ、こころさんに反応した。
「あらぁ~こころ居たの? 存在感薄すぎて気付かなかったわぁ~」
(うわっ、なんかこころさんから目には見えない負のオーラが出てる……)
カチンときたのだろう。こころさんが肩を震わせてるのが後ろからでも分かった。
こころさんをカチンとさせた相手のダンサー『織姫』さんは、こころさんと1・2を争っている魅惑特化ダンサーだ。
こころさん同様、彼女もまた熱心なファンが多い。
先制攻撃を受けたこころさんが反撃に出る。
「織姫ちゃんもぉ~時代錯誤のケバケバぁ~やめないとぉ~圧が強すぎてぇぇ、ファンが……どんっ! どんっ! こっちに流れてきてるよぉ~」
織姫さんも先程の余裕の笑みが一気に消え、顔を赤くして怒りだした。
「ぐぬぬぬ……なんですってぇ! あんたの貧弱な体に不満でこっちにもファン流れてきてるわよっ!」
こころさんの反撃は止まず、自分の胸を持ちながら相手のダンサーをあざけるように笑った。
「こ・れ・は・ねぇぇぇ、貧弱って言うんじゃなくて程よいって言うんだよぉぉ? ケバケバな
パキヨムというボスを相手にしてるはずなのに、その存在が薄れるぐらいのダンサー二人による不穏な空気が辺り一体を包んだ。
麦はパキヨムの攻撃を避けるのに精一杯で、このダンサー二人の会話があまり聞こえてなかったみたいだが、後ろからくる威圧感を感じて恐怖していた。
「えっ!? なになにっ!? 後ろから、もの凄い圧を感じるんですけどっ! 敵は目の前じゃなくて後ろなのっ!? 私の死は後ろから迫ってんのっ!?」
そんな麦にロマさんがそっと囁く。
「……後ろは振り向くな。振り向いたら死ぬぞ」
「ひぇっ!?」
織姫さんが自分の後ろに居たパーティーメンバーへ攻撃の合図を出した。
「みんなっ! やるわよっ! こっちの方が戦力上なんだから取られないでっ!」
「おぉぉぉぉぉ!」
雄叫びと共に戦士のメンバー達がパキヨムに攻撃を仕掛けてくる。
このゲームでは承諾を得ていない後からのMobへの攻撃はノーマナーとされ、プレイヤー間で禁止になっている。
だが、ボス・中ボスに関しては強敵で時間もかかるということもあり、後から攻撃してもノーマナーとされていない。
なので同じボスで
戦士の攻撃が始まって数秒、僕は苦戦していた。
(さすが……魅惑特化というだけある……。二人も同じ場に揃うと男性プレイヤーには刺激が強すぎるっ……やばいっ! 鼻血がっ………くっ!)
魅惑特化ダンサーの魅惑効果はもうすでに、その場にいる男性プレイヤー達に大きな影響をもたらしていた。
(あっ、ロマさんも鼻血たらしてる)
前の方で巧みに支援しながら鼻血を垂らすロマさんの姿が見えて、僕は何故かシンパシーを感じた。
お互いのパーティーが激しい攻撃を繰り出しながら、一歩も引こうとはしなかった。
(あっちのメンバーは……盾にダンサー、支援2と魔2か……面子的にはこっちと変わらないが……)
戦士のメンバーもこっちと同じ数。僕の戦力以外を考えれば大差を感じなかったが、皆はそう思っていなかったみたいだ。
伝心さんは弓を打つ手を休めずに顔をしかめた。
「これは……ちょっと不利かもですね」
「えっ!?」
花音さんも状況が飲み込めていない僕に教えてくれた。
「あっちにいるソーサラーは二人とも火力特化です。火力で言えば、あちらの方が断然上です。前衛も盾なのであちらの方が安定性があります。」
顔は無表情のままだったが、少し早口で焦っているのが伝わった。
それでも僕はそこまでの違いが分からず、少し軽視していたのだ。
「そっ、そんな! でも最後、倒せた方がアイテム貰えるんですもんねっ? じゃあ、まだ分からないんじゃ……! しかもあっちの方が攻撃力高いなら取り巻きがあっちに行って、こっちはパキヨムに集中できるんじゃ?」
花音さんは少し俯き、呟いた。
「そう簡単にいけばいいのですが……」
織姫さんが目を細めながら、こころさんを見下す。
「ねぇ? こころぉ。あんた何でこのタイミングで来たわけ~?」
織姫さんにそう聞かれたこころさんは頬っぺに手をあてながら微笑んだ。
「ん~? 大盛況のイベントの後の気まぐれだよぉ~」
それを聞いた織姫さんは直ぐ様反論した。
「嘘ねっ! あんたの取り巻き使って私達の話を盗み聞きしたんでしょ!?」
こころさんは首をかしげながら、目線を上に逸らして
「なにそれぇ~? 話ってぇ~?」
眉間にシワを寄せてこころさんを睨み付ける織姫さんは、話の勢いが止まらず怒鳴り散らした。
「パキヨムが実装されてから4ヶ月。まだジュエルが出てないけど、そろそろ出るかもって話よっ! しかもパキヨムが湧く時間帯までっ! せこい真似してくれるわねぇ!」
「なんの話かぁ~分からないんだけどぉ~。こころってぇ~皆に愛されてるからぁ~……ねっ! カメムシさん」
そう言って、こころさんが微笑み返すと織姫さんは「はっ」として自分の目の前にいる盾職の人を見た。
(あっ! あの盾の人。よく見たら……酒場で「こころん泣かす奴は俺が許さん」って言ってたガタイのいい人……)
織姫さんの怒りは戦士の盾持ちへとむく。
「あっ、あんたぁぁ」
「いやっ、その……ヒュ~ヒュヒュ~」
「口笛で誤魔化すなっ!」
こころさんと織姫さんが熱い火花を散らしているところに急にそいつは来た。
「ギャギャッ」
皆が一瞬「はっ」となり、そいつの方をむく。そいつはこころさんの足元にいた。
(なんだあれ……? うさぎ……? ん? ネズミ?)
こころさんの足元にはウサギにも似た、大きなネズミが居た。
伝心さんが叫ぶ。
「チラチラネズミだっ!」
「くそっ! 横湧きかっ! 花音!」
伝心さんの声とほぼ同時にロマさんも花音さんへ指示を出した。
花音さんが詠唱しながらタゲをパキヨムからチラチラに変えてる隙に……。
「きゃっ!」
こころさんはチラチラに気絶攻撃を食らってしまった。
チラチラの気絶攻撃は確率6%と低いのだがその低い確率に当たってしまい、こころさんには気絶エフェクトが出てしまっていた。
その状況を見たロマさんが舌打ちをした。
「チッ! 間に合わなかったか!」
こころさんの気絶とタッチの差で花音さんの攻撃がヒットしチラチラは一撃で倒されたものの、タイミング悪くパキヨムの再度の取り巻き召喚が行われた。
【群れの中の
再度の取り巻き召喚が行われると予想通り取り巻きは戦士側のソーサラーへと体の向きを変えた。しかし……。
【
相手側のダンサーが取り巻きのアルパカ達を混乱させた。
混乱したアルパカ達は四方八方に散らばり近くに居たものに襲いかかる。
主に戦士側の盾と主人のパキヨム、あと麦に攻撃の蹄はむいた。
戦士側の盾に纏わりついてたのは直ぐ様殲滅され、主人のパキヨムに楯突いたアルパカ達は主人から強烈な平手打ちを食らって倒されていった。
そんな中、麦の周りのアルパカだけが残り、麦は切羽詰まっていた。
「えっ! えっ! ちょっ! ヤバいよっヤバいよっ! そんなに来られたら
回避率は敵に囲まれれば囲まれるほど下がっていくのだ。
パキヨムとの一対一では95%の回避率も、取り巻きのアルパカが数体加わるだけで73%にまでその回避率は下がっていた。
差し迫った状況に我慢しきれず伝心さんが声を上げる。
「僕がっ!」
そう言って伝心さんが麦の周りのアルパカへとタゲを変えようとした瞬間、ロマさんが叫んだ。
「止めろっ! もういつパキヨムが倒れてもおかしくねぇぐらいまで削ってんだ! 取り巻きは花音にまかせろ! 麦は
涙目で答える麦。
「たっ、叩いてるけど余裕ぶっこいてたから数そんな持ってきてないよおぉぉぉ」
花音さんの詠唱が終わるまで必死のロマさんの回復と片っ端から回復アイテムを口にする麦だったがギリギリの状態だった。
麦のHPバーは、HPが無くなりかけてる赤い状態と安定してる緑の状態が交互に激しく変わっていた。
麦の悲鳴が聞こえる。
「あぁぁあぁあっ! もう回復きれるぅぅぅぅ!」
(このままじゃ不味いっ! 頭かじられてる伝心さんには悪いけど僕も麦の回復に行かなきゃ……!)
僕は混乱異常で流れてきたアルパカに襲われてる伝心さんと花音さんの回復を止めて麦の方に駆け寄ろうと一歩踏み出した……その時。
【
花音さんが解き放った魔法が麦の周りのアルパカを殲滅した。
「ふぉぉぉぉぉーっっ!! あぶっ! あぶなっ! 危なかったあぁ! 回復薬ラストまで使い切っちゃったよぉーっ!」
安心しきった麦のHPはロマさんの回復ですぐにMAXに戻り、準備不足の麦をロマさんは杖で叩いた。
「お前もっと回復持ってこいよっ!」
その後ろで気絶エフェクトが消えたこころさんが、両手を伸ばしてピョンっと跳ねた。
「こころぉ~ふっかぁーつ!」
(本当危なかった……たった数秒でこんな崩れるなて……ボス怖いな)
その後、なんとか態勢を戻した僕たちはパキヨム終盤を迎えるのであった。
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