第10話[ピンクのアルパカ]

 僕たちは山頂に向かうためおもむきのある木製のロープウェイに乗った。


 僕はロープウェイから見る景色が楽しみだった。熱帯雨林や高原などを越えつつ、そこに生息するMobなどを観察し……


「って……これ超高速ロープウェイじゃんっ! めっちゃ速ああああああっ!!」


「ごばばばぐごばばぼーっ! (この風がいいよねー)」


 口一杯に風を受ける麦の横で吹き飛ばされそうなのを必死にゴンドラに掴まりながら涙目になっていると、あっという間に山頂に着いた。


【カブキス西マップ4 到着】


「んっー! あっー! いい空気ーっ! さぁて、皆はマーヤガヤーっ(どこにいるかな)!!」


「ま、まーや?? えっ??」


 麦は謎の言葉を発してからマップ確認をした。同じギルドメンバーやパーティーメンバーはマップを確認すると位置が分かるようになっている。


「おっ! 居た居たっ! 皆の方いくよー!」


 そう言われて僕は先を歩く麦の後を付いて行った。

 ゴツゴツした岩がそこら中にあるマップを進んで行くと、大きな岩にまとまって隠れる皆の姿があった。


 皆を発見した麦は手を大きく上に挙げ、隠れる皆の方へ歩いて行った。


「おぉーい! 麦ちゃん到着やでぇー! 歓迎の挨拶はどうした! 諸君!」


「しっ!」


 人差し指を口に当てて、そうじゃなくても目付きの悪いロマさんが更に睨みを利かせてきた。

 隠れている皆に近寄り、小声で話し掛ける。


「なんで隠れてるんですか?」


「あれを見てみろ」


 ロマさんは小声で言うと、身を隠してる岩の反対側に目をやった。ロマさんが目をやる方には大量のアルパカがひしめき合っている。


「えっ……アルパカ?」


「あぁ、そうだ。あいつらはこのMAPに普通に生息しているが、あそこの変に群れでいるのはパキヨムの取り巻きだ」


 ロマさんにそう言われて、僕はパキヨムの姿形を確認していなかった事を思い出した。

 心の準備が出来てない状態でもうパキヨムとの戦闘になるのかと思い、僕は焦りを隠せなかった。


「えっ!? どれがパキヨムですか!?」


 僕が聞くと、アルパカの群れを見ながら、こころさんが答えてくれた。


「それがねぇ~みつからないんだよぉ~。だからぁ~こぉして隠れて見てるのぉ~」


 皆が岩影からコソーっと覗くなか、麦がヒョイっと岩から体をはみ出してアルパカ達を見る。


「じゃあ、たまたまあそこに密集しちゃっただけじゃない? ここ来るまでアルパカいなかったし」


 すると、直ぐにロマさんにゲンコツ食らって岩影に戻された。


 皆でコソコソとアルパカの群れを観察していると背後の方から視線を感じた。

 僕が振り返えると僕らのことを『じとぉぉぉぉ』っと見つめるピンクの可愛いアルパカがいた。


 ピンクのアルパカと目が合い一瞬固まったが、僕はすぐ麦の肩を指でつつき謎のアルパカを伝えようとした。


「ねねっ麦ちゃん、あれっ……」


 麦は僕の方など見ずにゲンコツ食らった頭を擦りながら、アルパカの群れを必死で見ていた。


「なんだい青年? 質問なら後にしてくれないか? 今は忙しくてね!」


 ドヤ顔で誰かの真似らしき言葉遣いで返事をする麦に対して、ロマさんが眉をひそめて溜め息を吐く。


「お前なんだそれ……ホークさんのマネか? 本当似てねぇな」


「ガーンっ!!」


 麦に訴えかけるも聞く耳を持ってもらえなかった。僕はまた背後へと目をやると。


(やっぱり、こっち見てるっ!! あれっ……? さっきより近付いてきてないか……?)


 異様な雰囲気のアルパカに僕は少し焦りだし、麦を揺するも……。


「麦ちゃん! ちょっとアレ見てよ……」


「ん~? どうしたのかな~? くだらない事なら怒るよ~」


 またも僕になど目もくれず、アルパカの群れを見ながらヴィンテージさんらしき真似をした。

 それに苦笑いした伝心さんと眉間にシワを寄せた花音さんが反応を示す。


「次はヴィンさんのマネですかー?」


「似てない……」


 皆がアルパカの群れに夢中で相手にされず、諦めて僕は後ろを振り返った。


(すっ、すごい近くまで来てるぅぅぅ!! あっ、あれは一体なんなんだ! 可愛いくせにすごい威圧感だっ!)


「麦ちゃんっ! 麦ちゃんっ! ちょっとちょっと! 後ろにピンクのアルパカがががっ! 近いっ! 近いぃぃ!」


 威圧感に圧倒され焦った僕は、麦を思いっきり揺すった。


「えっ!? ちょっ!? なになに!? 地味に岩に当たりまくって痛いんだけど……って、えっ!? ピンク!?」


 僕の発言に皆が一斉に後ろを振り返る。ロマさんが声を荒らげて麦に指示を出した。


「ピンクのアルパカ!? 不味いっ! 麦っ! 早く行けっ!」


 僕は一瞬、何が起こったのか分からなかった。


 ピンクのアルパカが僕らに向かって突撃してきたところを麦が遠投用ナイフを投げてアルパカのターゲットを取る間、僕はロマさんに後ろの方へと投げ飛ばされた。


 そして岩の後ろ側にいたアルパカの集団は一瞬にして消え、ピンクのアルパカの周りにぶわっと現れた。


 理解するのに数秒かかったが……。


(あいつがパキヨムだったのか!?)


 気付いた時には作戦通りの陣形にすでに成っていて、僕は少し出遅れつつも伝心さんと花音さんの後ろへと配置についた。


 パキヨムの取り巻きが湧くのとほぼ同時にこころさんの魅惑が入り、花音さんの全体魔法が炸裂。わずか数秒の間に取り巻きは殲滅された。


(さすが大手……強い!)


猛攻蹄もうこうひづめ


 パキヨムの前足二本が交互に高速で麦を狙うも、麦はすいすいと避けて短剣で攻撃していく。



 死後、初めての超フリー装備に麦は感動していた。

(おぉぉぉっ! 超フリーって実際だとこんな感覚になってたのかっ! 相手がゆっくりに見えるっ! これなら楽勝! 楽勝! ……ん?)


 すると、麦がパキヨムの異変に気付く。


「頬っぺが膨らんできてるぅぅぅ!!」


「後衛くるぞっ!」


 ロマさんが叫んだ瞬間。──ブシュッ


 パキヨムの口から透明のネットリした液体が後衛陣にむけて飛んできた。


つばぁぁぁぁっ!?」


 僕は咄嗟にさっきロマさんに教えてもらった『光の障壁ライトバリアー』を伝心さん達の前に繰り出した。このスキルは敵の遠距離攻撃50%カット。


──びちゃあぁ


「汚あぁぁっ!!」


 パキヨムの遠距離攻撃『怒りの唾』が僕ら後衛陣の全身に浴びせられた。


「でも見てください。光の障壁がないと……」


 そう言われて花音さんが指差した方を見てみると。


──ジューッ


 光の障壁の範囲外に飛ばされた唾は周りのものを溶かしていた。

 その光景を見て僕は小さな悲鳴を上げた。


「ひっ!?」



「うへぇ~ん! 口臭いよぉ~!」


 唾は掛かってないものの、強烈な口臭が前で戦ってる麦を襲っていた。


 その間にもロマさんの回復が入って後衛陣は倒れることなく態勢を保つ。


(さすが大手のプリだけあって、反応速度も回復量もそこらへんのプレイヤーとは桁違いに上だっ!)


 その後も定期的に湧く取り巻きを処理しながらも陣形は崩れず、麦も少なからず攻撃は受けるものの直ぐにロマさんの回復が入り、パキヨムに確実に攻撃を食らわせていった。


(このままなら……最後の1発までは安定していけるっ!)



 そう思った矢先、パキヨムの反対側から人影が現れた。


 この人影が起こす一波乱を僕たちはまだ知る由もなかった。

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