第9話[キノコ元気な子]

 僕たちはロープウェイに乗るためのクエストアイテムを収集する為にカブキス西側のマップ1に来ていた。


 ここは熱帯雨林をイメージしたマップで、生い茂った木に紛れて植物型のMobや小型の動物型・昆虫型Mobに襲われる。


 熱帯雨林とだけあって天候が雨になることが多い。ついでだが雨になると植物型のMobは少し強くなる。

 そうは言っても街から近いマップ1なので敵自体は強くない。


「うへぇ~ジメジメするぅ~」


「そんな湿気すごい感じなの? 僕も麦ちゃんからアクティブスーツ貰って着けてるから、なんとなくは湿っぽくて暑いけど……」


 苔がびっしり生えた大きな木々の間を進みながら僕たちは湿気と暑さにやられていた。


 しばらく敵を倒しながら進んでいると、麦が急に走りだし近くにあった植物に近寄った。


「あっ! あったあった! これがブロメリアだよっ!」


「へぇ~、綺麗だねぇ」


 そこには花びらのように広がった葉っぱの中心に赤紫の綺麗な花を咲かせた植物があった。


 僕がブロメリアの花に体を近付け、花を回収していると麦が横から顔を出してきた。


「下の葉っぱ部分も確か調合素材だったよっ!」


 そう言われて、僕は葉っぱ部分も回収してアイテム情報を確認してみる。


「へぇー! じゃあ薬師くすしに売れるんだねっ! この植物、葉の中心のとこに水貯まってるんだー」


「うんっ! 美味しかったよっ!」


「えっ……飲んだの……?」



 行けども行けども大きな木と葉っぱが生い茂り、雨も少し降り出して周囲の状況が分かりずらい中、順調にクエストアイテムを収集していると急に麦が立ち止まった。


「およっ? およよよよっ!?」


「どうしたの麦ちゃん? 目と口が丸くなってるよ」


 そして麦は何かを取ると、いきなりクラッカーを鳴らし大興奮で叫び声をあげた。


「ひゃはあああああっ! 新種はっけえぇぇぇん!」


「えっ!? 新種って?」


(っていうか、クラッカーいつも持ち歩いてるのか……?)


 麦の手元をよく見てみると、木の色と同色の焦げ茶色をしているミノムシっぽい形の物から、幾そにも伸びた白くて細い糸状の触覚にも似た何かが生えてる謎の物体があった。


「……なに、この気持ち悪いの? アイテム判定出てるけど……」


 僕が気色の悪い物体に顔を引きつらせていると、麦が胸を張って答えてくれた。


「こいつはねぇっ! ふふん! 毒キノコだよっ!」


 僕の知ってるキノコとはかけ離れすぎていて、衝撃より疑惑の方が上回ったが、麦が言うのだから間違い無いのだろう。


 スミスやファーマシスト、アサシンらはそれぞれ自ら製作が出来る職業であり、自分の製作に関わる物があるとアイテム判定の文字色が他の物とは違って見えるのだ。


「えっ!?これキノコなの……気色悪い……」


「この子は初めて見たねぇ! もしかしたら私が初めての発見者!? そしたら『麦の子』と名付けよう!」


 フリップに麦の子と書き始める麦。


「いや、もうアイテム名ついてるでしょ……でも麦ちゃんが初めてってぐらいだから超レアなんじゃ? 売ったら相当な額に……」


 ほぼ毎日ゲームに繋ぎ続け、ワールド内で行ってない所などないだろう麦が知らなく、人数が多い鷹のギルド内でも情報が回ってないなら結構な確率で初めての発見に近いだろう。


 僕はそう思い高額で売れるのではと提案しようとしたのだが……

 僕の言葉を聞いた麦はフリップを膝でへし折った。


「かぁぁぁぁっ! これだから一般人パンピの考えることはっ!! こんな貴重な毒キノコきっとレアな毒薬が出来るに決まってんじゃん!! こんのぉ! あほんだらっ! 探求心が足らんのだよっ! 探求心がっ! そんなだから、いつまで経ってもパンピなんだよっ!?」


「えっ……なんか、すみません……」


 もの凄い勢いで麦に怒られてしまった。


 そう、毒に長けているアサシンは薬を調合する職業『ファーマシスト』とは別で毒薬が唯一作れる職業なのだ。

 その毒薬は様々で、調合によって色々な効果を発揮する。


 麦は意外にも毒薬研究に熱心らしく、麦にとっては余程のことだったのだろう。


「これは大事に仕舞っておいてーっと! いやぁ! 文ちゃんのクエ付いてきて正解だったわぁ!」


 と、上機嫌な麦の後ろから物音がした。


──ガサガサ……ニョロ


(ニョロ?)


「ひっ!!」


 今にもスキップし始めようとしていた麦が一瞬で固まる。


「麦ちゃんどうしたの!?」


 麦は動きを止めたまま、僕に小声で話しかけてくる。


「この音は……ウォーキング・パムパムが近くにいるっ!」


「えっ? パムパム? Mobなの?」


「そうだよっ! 早くニゲヨウ」


 逃げ腰の麦が忍び足でこの場を去ろうとしていたが、僕は不思議に思い麦に訊ねた。


「でもここってマップ1の安全地帯だから、中ボスとかも出なかったはず……? 麦ちゃんなら余裕じゃないの?」


「違うんだよっ! 文ちゃん! アレはなんかっ! 生理的に無理なんだよぉぉ!!」


 興奮した麦が叫んだ瞬間。麦の背後から植物型のMobがヒョコっと顔を出した。だいたいの植物型Mobはその場を動かないのだが……


 このMobはタコみたいな複数の根っこを足の様に動かし、体全体をウネウネさせながら、こっちに近寄ってきた。


 しかも雨で濡れた体がウネウネの動きと合わさって、凄くヌメヌメしてるように見える。


 その光景に僕は一歩後ずさりする。


「うっ、すごいウネウネしてる……」


「ぎゃああああああああ!! 出たああああああああああっ!!」


 ガシっと麦に腕を掴まれ高速で別の場所へ連れてかれた。



 その後も雨が強まる中、たまに出没するパムパムを高速で避けつつクエストアイテムを収集していった。


 全て集め終わった僕たちは、マップ1にも関わらずやたらと疲弊した状態でドジっ子ちゃんの所にアイテムを持って行った。


「ありがとうっ! お兄ちゃん達! これはお礼のここのロープウェイが使えるチケットだよ! このロープウェイを使って山頂にいるおじいちゃんにこのブロメリアの花とカポックの実を届けてもらえないかなぁ?」


 さっきまで泣いていた女の子はアイテムを貰うや否やハイテンションで次のクエスト依頼をしてきたが、山頂で皆を待たせてるので断った。


「いや、それは今度にします」


「そっかぁ残念! 届けたくなったら、またいつでも声かけてねっ!」


「……はい」


(アイテム持ってきた瞬間テンション高いなぁ……)


 無事に少女からロープウェイのチケットを受け取った僕たちはロープウェイ乗り場へと向かった。


 麦はバスガイドの真似して、どこから取り出したのか謎の旗を手に持ち、エアマイクで僕をロープウェイに誘導してくれた。


「文月様チケットのご準備はよろしいでしょうかっ!? さてさてっ! これから皆の待っている山頂に出発いたしまーす!」


「おっー! ロープウェイからの景色楽しみだなぁ!」



 短いクエストだったが麦のおかげで濃い時間が過ごせた僕たちは皆が待つ山頂へと向かうのだった。

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