第8話[陣形]


「さっ、話は逸れたが陣形を話そう」


 ロマさんが真剣な表情で話し始めた。麦も落ち着きを取り戻し、本格的に戦略会議に加わった。


「まず超フリーの麦がパキヨムのタゲを取る。その後ろに俺、そして俺のすぐ後ろにこころ。攻撃が当たるギリギリの距離が離れた場所から火力の後衛陣が攻撃。その後ろでお前は俺の補助で後衛の支援をしつつ死なないようにしてろ」


 そう言ってロマさんは僕のことを見たので、僕は強く頷く。


「分かりました。ところで質問なんですが……こころさんって魅惑特化ですよね? 魅惑ってボスには効かないんじゃ……?」


 自分なんかよりゲームについて詳しい人達に聞くには当たり前すぎて恥ずかしかったけど、僕はこころさんに質問した。


 すると、こころさんは両手で丸を作りながら軽やかに答えてくれた。


「そうだよぉ~! でも取り巻きには効くしぃ~、特化と言っても魅惑以外のスキルも持ってるからねぇ~」


「パキヨムの取り巻きは攻撃力の強い相手に向かっていく仕様になっている。だから今回のメンツで言えば伝心や花音だな。そこで取り巻きが召喚された時にこころが魅惑を使って全部とはいかないが足止めをする。その間にこぼれた取り巻きと魅惑で固まってる取り巻きを花音が殲滅せんめつしていく」


 ロマさんの説明に納得する僕と……何故か麦。


「なるほど~」

「なるへそ~」


 そして、ロマさんは更に険しい表情にも近い真剣な眼差しで僕らのことを見る。その気迫に僕と麦は息を呑んだ。


「で、この作戦で肝になるのが……」


「…………ゴクリ」


 ロマさんは少し口角を上げると……。


「俺だっ!!」


 自分のことを指さした。その答えに思わず肩の力が抜ける。


「へっ?」


「そりゃそうだろっ! 前衛と後衛を支援しつつ最後の一撃からは皆を守るっ! ……麦以外な」


(そう言って横目でこころさんを見ている目がいやらしい……)


 こころさんは笑顔でロマさんから目を逸らす。


「ま~あぁ~、あながち間違ってはいないんだけどねぇ~」


「麦さんが死なない事が一番ですね。麦さんが倒れた瞬間、私たちパーティーは一気に総崩れしますので」


 花音さんが抑揚なく付け足した。


 麦はその言葉に意気揚々と胸を叩いた。


「大丈夫っ! 大丈夫っ! この麦飯さんにまっかせなさーい!!」


(僕だけなんだろうか…すごく不安に感じてるの……)


 どんどん話が進む中、僕はまだ経験した事ないボスで自分がどのくらい動けるかも想像つかないし、その中で麦を死なせない様になんて出来るのか不安に感じていた。


(まぁ、大手の人達からしたらボス狩りなんて日常茶飯事だし……なんだかんだ言っても麦は幹部になるぐらい装備も整ってるはずだし、いざとなれば高級回復薬も使うだろう)


 話も一段落し、麦が意気込みながら立ち上がると。


「んじゃ、まぁ! 行きますかっー! ……って場所分かってるの?」


「あぁ、さっき伝心と花音が見てきてくれた」


 ロマさんが伝心さんに目配せする。

 

「『カブキス』の西マップ4を歩いてるのを確認したので移動してなければ、その周辺にいるはずです!」


「OKっー! じゃあカブキスの街へ! レッツラゴーゴー!」


 麦を筆頭に皆がワープゲート広場へ向かう中、


「おい」


 僕はロマさんに呼び止められた。


「ちょっとスキルツリー見せてみろ」


「えっ? はっ、はい! どうぞ……」


 僕は自分のスキルツリーを《相手に閲覧》にし、ロマさんに見せた。

 ロマさんは僕のスキルツリーを満遍まんべんなく見てから、


「まぁ、これなら最低限はいけるな。それよりお前……こんなん取って何に使うんだよ……」


「まぁ……ネタとして?勢いで取っちゃって……」


 僕は以前に使えそうと思って取得したスキルがあるのだが、そのスキルは現在プリーストで取る人は少ないスキルだった。


「はぁ……まぁでもスキルポイント少し余ってんな。じゃあ、これとこれ取っとけ。役に立つから」


「はいっ!ありがとうございます!」


 ロマさんは僕にスキルのアドバイスをして装備も「今つけてるのよりはマシだろ」と言って貸してくれた。



【カブキス到着】


『カブキス』街並みは少し南米を意識していて、ワールドの南西の方に位置するこの地域は高原マップが多く、これから行く西側は熱帯雨林を抜けてさらに高原地帯、山道へと繋がっている。


 僕たちが行くマップ4は山だ。と言っても本格的に登ったりするわけではない。なんとなく坂道で周りが岩とか増えてくだけのことだ。ついでに僕は行ったことない。


「あそこのシュラスコ美味しそぉー! ちょっと食べて来ようかなっ!」


「さっき、いっぱい食べたでしょ!」


 よだれ垂らしてシュラスコの屋台に駆け出しそうになった麦を止めた。


 するとロマさんが遠くの方を見て何かを確認してから、僕らの方を振り向く。


「じゃあロープウェイ乗り場行くか」


 その言葉に僕は動揺した。


「えっ!? ロープウェイ!?」


「えっ……て、お前まさか歩きであそこまで行くつもりだったのか?」


『ロープウェイ』カブキスの街から山、つまり西側マップ4までを繋いでる乗り物だ。

 クエストを行うことにより搭乗できるようになる。


 ロープウェイと言っても縄に滑車で吊られた箱形の木製ゴンドラがくっついていて、街の雰囲気に合ったものになっている。



 カブキス自体は来たことあるが、西側はマップ1を少し覗いた程度でほぼ行ったこと無いに等しい。当分行くこともないかと思い、存在は知っていたがロープウェイクエストを受けていなかった。


「いや、あっちの方は行ったことなかったのでクエをやってなくて……」


 雰囲気的に僕だけがクエストを行ってないのはすぐに分かった。そうじゃなくても戦力的に劣るのに足手まといになり肩身が狭く、少し俯いた。


 しかし、伝心さんが打ち沈む僕の声をかき消す様に溌剌はつらつと笑顔をむけてくれた。


「大丈夫ですよ! すぐに終わるクエストなので!」


 花音さんも伝心さんの横に立ち、麦に目をやりながら眠たそうに伝心さんに同意する。


「そうですね。麦さんも居ればすぐに終わります」


 ロマさんも僕の肩に手を置き、気にするなという顔で声を掛けてくれた。


「まぁお前らはクエ終わらせてから来い。俺らは先に言ってパキヨムが場所移動してねぇか見とくから」


「すみません……」


 するとニヤニヤした麦が皆の周りをぐるぐる回りながら絡みだす。


「おやおや~? 私が付いてかないで大丈夫なのかな君たち~? 敵にやられな~い?」


 皆が飽きれ顔になる中、こころさんが僕に近寄ってきた。


「じゃ~あぁ~、こころが旦那ちゃんのクエ~お手伝いしようかぁ~?」


 こころさんは可愛いく笑うと僕の腕に自分の腕を絡ませてきた。

 僕は思わず赤面し、その光景を見たロマさんは固まり、麦はムンクの叫びの様になった。


「えっ!」

「えっ……」

「えぇぇぇぇぇ!?」


 慌てた麦がこころさんから僕を直ぐに引き剥がした。


「けっ、結構ですっ! 遠慮しますっ! こころんと2人きりなんて文ちゃんには刺激強すぎて鼻血ブーしまくっちゃうよっ!」


 すると、こころさんは人差し指で麦の鼻をチョンっと触り、麦に僕のことを託した。


「そぉ~お~? じゃあ麦ちゃんクエのぉ~つ・き・そ・い、お願いねぇ~」


 鼻をチョンされた麦はシュンっと怒られた飼い犬の様に大人しくなった。


「……あーいえーす、ぼす……」


(遣りこめられてる……)



【ロープウェイ乗り場前】


 ロープウェイの乗り場前に着くと、ロープウェイに乗り込みながらこころさんが僕らに手を振ってきた。


「それじゃあ~上で待ってるねぇ~」


 こころさんをエスコートしたロマさんが僕らに釘を刺してからロープウェイへと搭乗した。


「人気ねぇとは言っても対抗来るかもしんねぇから、さっさとクエ終わらせて来いよー!」



 皆が上へと向かった後、僕と麦はロープウェイに乗るためのクエストをする為にロープウェイ広場の近くにいる女の子のNPCへと声をかけに向かった。


 麦が泣いてる女の子の目の前に立つと片膝をつき目線を女の子に合わせた。


「へいへいお嬢ちゃんっ! メソメソして、どうしたんだいっ!?」


「ぐすん……山頂の山小屋にいるおじいちゃんに『ブロメリアの花』と『カポックの実』を届けたかったんだけど、あっちの森でモンスターに襲われそうになって慌てて落としちゃったの」


 と見ず知らずの女の子のドジをフォローしてあげると、ロープウェイのチケットが貰えるというクエストだ。



 この『祖父への贈り物』というクエストはブロメリアという植物の花とカポックの実を10個ずつ集め、少女に渡すとクエスト完了になる。


 僕らはそれらのクエストアイテムが良く取れる西側1マップへと急いで行った。


(西側ってまだあんまり来たことないから楽しみだなぁ!)


 これからボス戦が待ち受けているというのに僕は迂闊にもそれを忘れて少し楽しんでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る