第7話[曲解]
これから僕たちはこころさんの急な提案でパキヨムというボスを倒す為の作戦会議をする。
ロマさんに呼ばれ皆の方に行くと、ロマさんの横には男性アーチャーと女性ソーサラーが居た。
その二人に対して麦が手を振りながら声を掛ける。
「伝さんにカオちゃんやほぉー!」
最初に声を発したのは身の丈ほどもある大きな杖を両手に抱え、少し眠たそうな無表情が特徴的な女の子のソーサラーだった。
髪は薄紫色のショートボブで小柄だが、なんだか貫禄がある。
ソーサラーは攻撃魔法を使う職業だ。
「なんだか久しぶりですね。麦さん」
それに次ぎ、ソーサラーの子とは相反して笑顔がとても爽やかな男性アーチャーがこちらを見てきた。
大きな弓を背中にかけたThe好青年という感じの彼は、明るい茶色の短髪が良く似合っていた。
アーチャーは遠距離攻撃を得意とし、攻撃速度も攻撃力も高い。
「繋いでいるのに全然たまり場来ないんだもんなぁ! あれっ? そっちの人は?」
ソーサラーもアーチャーも攻撃力が高い職業だが、その分体力も低いし防御力も低いため、基本的には前に出て戦う職業ではない。
男性アーチャーの質問に、麦は鼻の穴を膨らませ僕のことを紹介した。
「これはねぇー! 私のリアル旦那っ! 文ちゃん!」
「初めまして
僕は大手ギルドの人達と話したことなんて滅多になく恐縮していたのだが、思ってたより気さくに話し掛けてくれ僕は内心驚いていた。
麦の紹介に皆が驚愕する中、ロマさんがドン引きした顔でこちらを見てくる。
「えっ? おまえ麦の旦那だったの? うわぁマジで居たのか」
そんなロマさんの言葉に対して頭に疑問符をつける麦。
「んっ?」
だが自己紹介は続き、アーチャーの彼が元気に自分を紹介してくれた。
「あっ、そうなんですね! 宜しくお願いします! 僕は
そしてまた頭に疑問符をつける麦。
「んんっ?」
少し大人し目な印象のソーサラーの子も丁寧に自己紹介してくれたが、麦の顔はこんがらがっていく一方だった。
「私は花音です。
「んんんっ!???」
一通り自己紹介を終え、伝心さんと花音さんと僕が和気あいあいと歓談を始めた。
「麦さんって普段から、あんな感じなんですか?」
「そうですね! 昔からあんな感じです!」
「では、心休まる時がなくて大変ですね」
「本当っ! そうなんですよっ!この前も……」
そこへ鼻息を荒くした麦が急に叫びだす。
「ちょっと! ちょっと! ちょっと! えっ!? えっ!? んもぉぉぉぉ! ボンさんといい! 皆といい! どういうことぉぉー!?」
しかし皆は麦が何に憤慨してるか分からず、何言ってんだコイツといった顔で麦のことを見ると、麦は両手足をジタバタさせながら皆に訴えかけた。
「いやいや! だって! 普通に私、みんなの前で文ちゃんの事話してたよねぇ!? 皆だって普通に聞いてくれてたじゃーん!」
その言葉を聞いて麦の怒りの理由が分かったロマさんが飽きれ顔で自分の髪をかき揚げる。
「あぁ。いや、お前みたいのと結婚するやつなんて信じられなかったし。お前しょっちゅう繋いでんじゃん? どうせ、
「がぃーん」
ショックを受けた麦に花音さんが真顔でフォローをいれてきた。
「そこまでは思ってないですけど、誰しも現実逃避したくなりますもんね?」
(それフォローなってないよ花音さん……)
「ぐふっ……! 皆そんな目で私の事みてたなんて……」
胸に手を当てながら倒れこむ麦にこころさんが可愛く微笑みかける。
「こころは知ったよぉ~」
倒れた麦をみんなは軽くスルーして話は進んだ。
「まぁ、アホはほっといて戦略たてっか」
と言って、ロマさんは座りこみ、その周りに皆も座っていった。
僕は知らないことが多いので今のうちに色々と聞いておこうと思い、進んで話に入っていった。
「そういえばパキヨムのジュエルの効果って?」
こころさんはふわりと女の子座りをしながら教えてくれた。
「魅惑効果20%アップだよぉ~」
「20%!?」
ロマさんが軽く頷く。
「そうだ。ただ職もスキルも限定すぎて他のボスジュエルに比べると人気はないな」
そこに人差し指をたて、伝心さんが補足してくれた。
「というより、優先度が低いんですよね。だから対抗も少ないですし」
「へぇ、そうなんですねぇー。でもやっぱボスだし強いんじゃ……?人数足りるんですか?」
優先度が低いと言ってもボスに違いはない。僕を入れて六人と少人数で攻略できるものなのか気になった。
すると、ロマさんは顎に手をやり僕に目線をよこす。
「まぁ。ジュエルの効果が限定すぎるからか、他に比べりゃ格段強いわけじゃねぇな」
「厄介になるのは取り巻きの量が他に比べて多いのと、最後に強烈な一発を放ってくるので油断してると全滅はありえます」
ロマさんは特に問題ないみたいに言ったがそれより……後に続いた花音さんの言葉の中に全滅なんて不穏な言葉があったことに焦り、手に汗握りながら聞き返した。
「えっ? それ大丈夫なんですか?」
「後衛は俺とお前で支援すれば、なんとかなるだろう。ただ超フリー装備の麦は
(なにっ!? それはマズイだろっ!?)
僕は慌てて麦に目を向けた。
(やっぱり大丈夫じゃないじゃないかっ! どうするんだよっ! 麦ちゃん!)
「って……『
『聞か猿帽子』説明文に【私は一切の音を遮断する】と記してあるカチューシャ型の頭装備だ。
耳に手を当てている可愛い猿の人形が頭の上に乗っていて、その猿の足でプレイヤーの耳が塞がれる。
周りの音が一切聞こえなくなるので集中したい時や自分の殻に引きこもりたい時に使う。
麦は聞かざる帽をつけながら頬っぺたを膨らませて目を細め、完全に皆と遮断していた。
ロマさんが呆れた顔で麦を見る。
「さっきの事でスネてんのか?あいつは」
「麦ちゃん! 麦ちゃん! ちゃんと聞こうよっ!」
僕は麦の体を揺するもスネた麦は一向に聞か猿帽を取ろうとはせず、体育座りをしながら膨らんでいた頬を更に膨らませ顔がフグ状態になっていた。
そこに「やれやれ」といった顔で麦に近寄るロマさん。そして麦の顔に杖をむけると、その瞬間……。
──ピカーーーッ
すごい明るい光が麦に放たれた。
「ぎゃああああああああああ!! 目があぁぁぁぁ! 目がああああああああっ!!!!」
(あっ、
もろに顔面にホーリーライトを食らった麦は目を両手で押さえながら地面をゴロゴロと転がる。
そして起き上がると、着けていた聞か猿帽を地面に叩きつけた。
「ちょっとぉぉ! ロマさんっ! 目が潰れるとこだったわいっ!」
「話聞かねぇお前が悪りぃんだろ。早く拾わないとまたロストして泣く羽目になんぞ」
怒った麦がロマさんに詰め寄るもロマさんは慣れた様子で麦を適当にあしらった。
「ぎゃあっ! お猿ちゃーん!」
(麦ちゃんって一応、幹部……なんだよな……?)
大手ギルドのイメージと言えばもっと一般人とは、かけ離れていて堅苦しい感じで僕ら一般プレイヤーの事は見下してるとずっと思っていた。
だから近寄ることもなかったし、ましてや自分から話すことなど、今までなかった。
しかし気さくに話してくれたり、麦と楽しそうにやり取りをしている鷹のメンバーを見て僕はとても新鮮に感じるのだった。
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