第6話[ボス狩り]

 食事を終えた麦と僕はこころさんとの約束通り、鷹のたまり場へと歩いていた。


「あっー! 美味しかったー! こころん何か話でもあるのかなぁー?」


「なんだろうね? それにしても……酒場のNPCと意気投合しすぎ……」


 酒場に配置されてるNPC達。彼らもやはりAIは組み込まれていて人間っぽい話が出来たりする。


 しかし、あまり活用されない酒場ではクエストをしにくるプレイヤーに話かけられる程度なので、ご飯とお酒を大量に頼む麦に対してとても友好的に接してきてくれた。


「お嬢ちゃんいい飲みっぷりだねー! おじさんと飲み比べるかい!?」

「おぅおぅおぅ! やってやろうじゃないかぁー!」

「って、この後こころさんと約束あるんだから飲みすぎて酔っぱらってたらマズイだろー!」


 と、立派な胸毛を生やしたゴツい酒場の店主と意気投合した麦は、今にも飲み比べ勝負を始めそうだったのでそれを止めさせ。

 店主との別れを惜しむ麦を引っ張りながら酒場を後にするのだった。


「また絶対来るからねー! ムナ・ゲールさーん!」


「おぅ! 待ってるぜお嬢ちゃん!」


「えっ!? あの人、胸毛って名前なの!?」



【鷹のたまり場】


 鷹のたまり場へ着くと数人の男性プレイヤーに囲まれて話しをしているこころさんが居た。


「こころーん! 来たよー!」


「あっ! やっと来たあぁ~」


 こころさんに近付くと、ダンスを申し込む紳士の様に華麗にお辞儀をする麦。


「ところでなに用かな? お嬢さん?」


「実はねぇ~。最近~こころ魅惑がやっぱり足りないかなぁ~って思ってぇ~」


 こころさんは尖らせた口に指を当て困った顔をしたが……。その行動すらも魅惑ぷんぷんのこころさんに対し、僕は前のめりになりながら直ぐに答えた。


「えっ!? そんなことないですよ! 全然! 充分すぎるほど魅力的ですよっ!」


 僕のそんな言動に横からは冷たい視線が注がれる。


(はっ! 麦の目が冷たい……)


「ありがとぉ~旦那ちゃん! ん~でもね、最近実装された『パキヨム』のジュエル欲しいなぁーっと思ってぇ~! だぁかぁらぁ~今から、いこっ?」


  こころさんは軽い感じにバッグが欲しいな的なノリで言ってきたが、その言葉に僕は困惑する。


「…………えっ?」


『パキヨム』なんだか可愛らしい名前をしているがれっきとしたボスだ。ボスは各地域に一体ずつ存在し、その地域の安全区域外のマップを転々としている。


 その強さはそこらへんのプレイヤーでは太刀打ち出来ない。僕みたいな一般プレイヤーには縁がない話だ。

 なので、もしマップで不運にも出くわしてしまった場合、死に物狂いで逃げるのが定石だ。


 しかし常に居るわけではなく倒されてしまえば六時間再び出現リポップはしない。だが、六時間の長い眠りから目覚めると再びプレイヤーに恐怖を与えるのだ。



 ジュエルとはMOBモブ(敵)を倒した時にとてつもない低い確率で落ちる戦利品だ。それぞれのジュエルに効果があり、それを武器や防具に付与するのだ。


 ボスが落とすジュエルはそれはもう魅力的な効果があり、各地域に一体ずつしか湧かないくせにリポップにも時間がかかるボスのジュエルは、レア中のレアなのだ。



 僕が固まってる中、麦は普段通りにこころさんに訪ねた。


「パキョ行きたいの? いいけど、他に誰かいんの?」


「いるよぉ~! 声かけて行けそうなのがぁ~伝心でんしんさんとぉ~花音かおんちゃんとぉ~あとロマさん~」


 少し悩んだようだが直ぐにボスへ行くことを了承する麦。

「むっー! 前衛は私だけかぁ……まぁなんとか行けるでしょっ! いこっ! いこっ!」


 麦の言葉にニコニコしながら頷いたこころさんは、僕の方に顔を向け笑顔を飛ばしてくる。


「旦那ちゃんも来てねぇ~」


「えっ!? 僕もっ!?」


 急な僕への振りに僕は焦った。


(ボスなんて今まで縁なかったから全然どうしていいか分からないよ……でも麦を放ってはおけないしなぁ……)


 麦はリアルで死んでからゲームの中で死ぬような事はしていない。

 最初、死んだことに気付かず狩りに行った時も難しい狩りではなかったので倒されることはなかった。


(普段なら死んでも蘇生起こすかセーブポイントに戻ればいい……でも、どうなるか分からないのに変に死なせるようなことは出来ない!)


 僕が考え込んでいると麦が僕の腕を揺すってくる。


「いいじゃん! いいじゃん! 文ちゃんもいこーっ!」

「あっ、いや……行くのはいいんだけど、装備なにつけてけばいいの?」


 すると、先程肩を落として酒場を出て行った目付きの悪いプリーストが僕らの話に入ってきた。


「おいおい、止めた方がいいんじゃねぇの?」


 その言葉に麦が聞き返す。


「あっ! ロマさんっ! 止めた方がいいって、なんでーっ!?」


(あっ、さっきの酒場のプリ)


 ロマさんはため息交じりに僕のことを見た。


「どうせ死んでて何も出来ませんでしたーってなるぜ? それに俺もしょっちゅう起こしてやれるほどメンツ的に余裕ねぇしな」


 すると透かさず、こころさんが言い返した。


「大丈夫じゃなぁ~い? 後衛の後ろにいれば、そんなに攻撃受けることもないしぃ~、ロマさんもぉ~支援一人じゃ~つかれちゃうでしょ~?」


 こころさんに上目遣いで聞かれたロマさんは鼻の下を伸ばしながら胸を張る。


「えっ? いや! 俺は一人でも皆に余裕で支援まわせるぜ!」


「すごぉ~い! さすがロマさん~! 余裕ならぁ~、一人プラスで行っても大丈夫ってことだよねぇ~?」


 ロマさんはデレ顔から緩やかに真顔へとなった。


「…………………………ああ」


「よかったぁ~! じゃあメンバーは決まりねぇ~」


 こころさんに上手い具合に丸め込まれたロマさんに少し同情しつつ、僕はロマさんに訊ねた。


「あ、あのっ! 他の2人の職って?」


「あぁ、魔と弓だ」


「えっ……」


ソーサラーアーチャーって2人とも後衛じゃないかっ! ってことは前に出てボスを引き付ける前衛は麦ちゃんだけなのかっ……)


「ちょっ、ちょっと麦ちゃん! あっちいい?」


 そう言って少し離れた場所に麦を呼び出した。


「なに文ちゃん? 装備なにつけてくか? ロマさんから何か奪おうか?」


「それは有難いんだけど……麦ちゃん大丈夫なの? 前衛一人だよ?」


 麦は余裕の笑みでシャドウボクシングを始めた。


「あーっ! 大丈夫! 大丈夫! 超回避ちょうフリー装備つけてくからっ!」


「超フリー装備って……僕よく分かってないんだけどボス倒すまでに攻撃食らわないの?」


「たまに食らうよっ!」


「えっ……? どのくらい?」



 超フリー装備は頭装備、体装備、アクセサリーなど全身で揃えて効果を発揮するシリーズ装備なので僕みたいな一般プレイヤー達はまだ手が届かない代物だ。


 なので僕はそこらへんの知識が無く、麦に聞いたのだが少し考えてから麦は強烈な言葉のパンチを浴びせてきた。


「えーっと、パキョだと支援込み95%の回避でー、一発食らうとHP半分以上は持ってかれるかなー!」


「えぇぇっ!? 二発食らったら死んじゃうじゃん! ……というか、ボスで95%回避できちゃうの……」



 麦は見えない敵を殴り続けながらも話し続けた。


「そうだねーっ! でも連続で食らうことなんて、そうそうないからっ!」


「いやっ、でも! 可能性は低いけど、なくはないんでしょ!? 麦ちゃん今この状況で死んで普通のプレイヤーと同じように起きたりセーブポイントに戻ったり出来るか分からないんだよ?」


 僕は必死に心配を麦に伝えるも軽くあしらわれてしまった。


「ぷぷっ! 心配性だなぁ文ちゃんは! パキョでは死なないよぉー!」


「なんでそんなに楽観的なの!? 可能性は0じゃないでしょ!?」


 こっちは真剣に訴えてるのに聞き入れてくれない麦と話が平行線の中、離れた場所からロマさんに呼ばれる。


「おーいっ! 伝心たち来たから戦略たてんぞー」


 麦は呼ばれた声に大きく手を挙げ返事をした。


「はーいっ! 今いっくよーっ!」


 どうやら僕と麦が話してる間にボス狩りに参加する残りの二人が到着したようだ。麦は「大丈夫だから」と言ってウキウキしながら皆の所に走っていった。


(本当に大丈夫なんだろうか……)


 僕の胸のモヤモヤは消えないまま初めてのボス戦に挑むのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る