第29話 気付くな(2)
(PC触りたい……ネットしたい……)
仁木はリビングをうろうろとしながら思った。
(悲報ワイ、ネット依存ンゴ……というより、PC依存……)
仁木は自分の今までの生活を振り返ってみた。
(平日は仕事でプログラミングをして椅子に座ったPCの前から動いていない。で、残業して、家に帰った後はネットをしてストレス解消。休日は寝ているか、PCの前から動いていないかだ……。動画見て、ゲームして、ネットして――)
特別何もなければ常にPCの前に座っていた。
(あ、一応家事もやっているから、そこまででもないのかな)
さすがにそれでは不健康すぎると思ったのか心の中で自分にフォローを入れた。
彼はネットに繋げなくてもよい一昔前のゲームを「ににぉろふ」を使って取り寄せ、遊んでいた。しかし、何か物足りなかった。
(ゲームはゲームでも、昔のPCゲームがやりたい。ぶろっくをポンって崩すあれとか……。でも、とにかく息抜きをしよう。ストレスでどうかなりそうだ)
特に野口や長堂たちが自由に体を動かしているのを見ると、ストレスは増していった。自分の趣味は制限されているのに、彼らは活き活きと楽しんでいる。
仁木がテーブルの上に置いてあるスマホをチラリと見ると、ちょうど振動した。彼は立ち止まってそれを手に取ると「カードキー」を開いた。それから、スーツの襟元を引っ張って皺を取り、咳払いをしてから「あー、あー」と声を出す練習をした。
「あ、お邪魔します」
少し経って現れたのは若林だった。顔に変な力が入っており、声も小さい。仁木はつられて緊張した。
「あ、どうぞ。今日はよろしくお願いします」
「いえ、こちらこそです」
仁木に勧められるままに若林はソファに座ると、「ありがとうございます」と言いながら頭を下げた。仁木はその対面のソファに腰を掛けた。
「それじゃ、いきなりですが、どのゲームやります?」
彼らが集まった目的は一緒にゲームをすることであった。
「そうですね……。あ、これ、子供の頃、友達の家でよくやっていました。懐かしいなぁ」
若林はブラウン管モニターの前に並べられたいくつかあるハードの1つに目を付けた。仁木の目が輝いた。
「僕もです。持っている友達の家で遊びまくっていました。でも、今、独りでやっていてもあまり楽しくないんですよね。流石にRPGは……ほら、中途半端になったら……」
ふと、途中で自分が死ぬかもしれないと思ってしまう。
「ええ……」
「だから、対戦ゲーの方がストレス解消になります。ただ、CPUとやっても、この頃のAIはそんなに賢くないですし……。格ゲー、レースゲー、パズルゲー……、何がやりたいとかありますか?」
仁木は事前に用意してある有名な作品の山を指差した。
「えーっと、あ、僕、これやりたいんですけど、仁木さんはどうですか?」
「いいですね」
仁木が慣れた手つきで本体やソフトをセットする。彼らはコントローラーを握った。タイトル画面を素早くスキップして、キャラクターを選択しようとして、あることに若林が気づいた。
「あ、これ全キャラ開放されています」
「これ、僕がやったんじゃなくて、『ににぉろふ』を使って用意したときからこうだったんですよ」
「謎ですね」などと曖昧な感想を言いあいながら、彼らは淀みなく操作を続け、バトルが始まった。
カチャカチャと操作音が部屋に響く。キャラクターが軽快に動き、技を出し合う。実力は五分五分でガードも回避も上手く決まっている。彼らの目は、モニターの光を反射して輝いている。
――今回は仁木が勝った。
「操作方法は覚えているものですね」
次に使うキャラクターを選択しながら仁木が懐かしげに言った。
「昔のゲームは色褪せないですね。今やっても面白いです」
若林も同感であった。
「ブラウン管ってのがまた懐かしいです」
「あえてなんですよ。遅延が少ないんですね。1F遅れれば相当操作感が違うって前に聞きまして。僕はそんなに強くないので関係ないんですが」
彼らにとって勝敗はどうでもよかった。適度に勝って適度に負けて、身に迫っているかもしれない死の恐怖から目を逸らし、楽しんで、本番で全力を出すことができればそれでよかった。
次の一戦は若林の勝利に終わった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます