第27話 考えるな(4)
「賛成多数です」
君島が淡々と言った。
「これからは、『投票で亡くなった方に誰が何故投票したのかを話し合いの場で持ち出さない』ということで私たちはやっていくことになりました」
松葉がそれを繰り返した。苦々しい顔をした者はごく少数であった。この内容に反対なのではなく、単に君島たちの案だから反対というだけであった。
「それでは、話を戻しましょうか」
しかし、その尺はなかった。天井付近にモニターが現れた。
「Por supuesto, dudo en manejar lo que no me gusta. Entonces es hora de votar.」
その中にいるニニィがひょいひょいと布を動かすと、その陰から闇が現れ参加者の周りを取り囲み、その中で彼らがそれぞれ投票を行った。誰に殺しの票を入れて誰に守りの票を入れるのか、なぜそうするのか、全ては自由で全ては秘密であり、そして、幕が取り払われた。
「La víctima de hoy es ella. Así que creo que es una buena idea probar productos de producción masiva al principio.」
トータライザーは役割を終えてその姿を消し、代わりにそこには透明なケースが現れていた。中に入っていたのは谷本和世だった。
*
(目立っているかどうか関係ないのか)
土井には今日の犠牲者が特に目立っているようには見えなかったし、今見てもそう思えなかった。
(俺じゃなくてよかった)
そして、特に話したこともない老婆に対し、それ以上の感想を抱かなかった。
谷本はそこに何故透明な壁があるのか理解できないままそれに触れ回り、周りの参加者が何故助けに来ないのか分からないような顔をしていた。急にビクリと何かに反応し、そのすぐ後に上着の裾に火が点いて、ただの布だけが燃えているとは思えない表面を舐めるような広がり方をして、ようやく谷本は自分が燃えていることに気づき、引き攣った顔で服を脱ごうと襟に手をかけて、その指先にも火が伝い、煙が立ち、大きく口を空けて喉を震わし、振って消そうとするうちに炎は体中に広がり、顔に点いた火を消そうと両腕が本能的に緩慢に動いて、やがて止まり、業火は燃え続け、最後には黒こげの人型が残った。
「Después de eso, puedo ocuparme bien de las cosas. ¡Te veo pronto!」
ニニィがサーカスの終わりのお辞儀――ボウアンドスクレイプを行って何か歓声に応えるような素振りをしている内にモニターは消えた。いつの間にか透明なケースも消えていた。
(臭いがないと、なんかCGを見ているみたいだ)
土井は薄情にそう考えた。ただ、事実であった。気分を悪くして立ち上がれない人も、吐き気を抑えきれない人も、昨日一昨日よりは少なかった。
**
今日の犠牲者 谷本和世
一番大事な人 娘
ニニィがアブったときは趣味の絵葉書を描いている途中だった。出来上がったものを見せ合う知人はいないため、いつも孫に手紙と金子を添えて送っていた。成長を喜び、健康を気遣い、夢を応援するそのテクストは、しかし、孫にノールックでゴミ箱にぶち込まれている。もちろんお金を抜いた後で。しかし、谷本はそれを何となく分かっていた。何故ならば感想がワンパターンだからである。しかし、孫はそれを知っていて、文句を言われないのだから読む必要もないと開き直っていた。しかし、谷本はそれを知っていて、騙されているうちは幸せでいられると何も知らない振りをしていた。しかし、……っていつまでも続きそう。娘は当人たちの問題だからと完全に放置していた。
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