県庁攻略 5 西区勢力の終わり

 真っ暗な部屋には沈黙が続いていた。


 誰かが様子を伺うかのように動けば、俺はその人物に目を向けて無言の圧力を掛ける。


 そんな中で皆市は歯を食いしばり俺を睨み付けたまま、その口を開いていない。ただ沈黙の中時間だけが過ぎていく。


「そろそろ時間切れだ。どうやらお前達のリーダーは黒騎士に殺される事を選んだらしい。一つ言っておくがそこの皆市が要求を飲まない限り俺はお前達をこの部屋から出す気はないし、動いたら撃つ。恨むのならお前達の命より領域を取った皆市を恨め」


 沈黙を破った俺の言葉に西区の連中は顔を青くし驚愕する。そして助けを求めるかのような表情を皆市に向けた。

 だがそれでも皆市は無言を貫き、彼らから目を背けるように俯いた。



 そして、その時は訪れた。



 部屋の全体に黒い霧が現れ、その霧が部屋の中央へと集まり始める。そして黒い霧は徐々に形を作り始めていく。


「皆市決めろ。これが正真正銘最後のチャンスだ」


 俺は声をかけたが皆市は何も答えない。


 黒い霧が散り始め、先程の黒騎士よりも明らかに大きな姿を現していく。


 黒騎士の第二形態は下半身が無く浮遊し、手だけが一回り大きくなった姿だ。その体長は下半身が無いのにも関わらず四メートルほどもある。



 そして黒い霧が無くなりかけた頃にやっと皆市はその顔をあげた。



 目が合ったその顔は——笑っていた。


 それをみた俺は浮遊させていたライフルを皆市に向けて発砲しようとする。


 だがそれよりも早く皆市はホープを発動し立ち上がり、両手で俺の発砲した銃弾を防いでみせる。


 右手でライフルを向ける俺に対し、皆市は口角を上げてニヤリと笑う。


「灰間、お前の要求に対しての答えは『ノー』だ。誰が何と言おうとも私はお前に領域を渡さない。そしてこの場を解決する方法も有る」


 皆市の背後には霧が完全に晴れ、第二形態の黒騎士が体長と同じような大きさの大剣を持ち上げようとしていた。


「簡単な事だ、私がこいつを一撃で倒し領域を支配してしまえばいい。そしてその銃では私を止められないだろう」


 銃を向けたまま俺は無表情で皆市の様子を眺めていたが、俺はその銃口を下げる。


「そうだ。諦めてそこで眺めていろ『領域力化フォースチェンジ』……!」


 皆市が叫ぶと、その存在が先程よりも一回り大きくなったかのように感じられた。どうやら皆市の『ホープ』は重ねがけも可能らしい。


 皆市は俺に背を向けると、黒騎士と向かい合った。そんな皆市に敵意を向けた黒騎士は、右手に持ち振りかぶった大剣では無く左手で皆市を薙ぎ払うかのように攻撃してきた。


「重ねがけをした私にそんな攻撃は効かん」




 皆市は黒騎士の左手を正面から受け止めようと手を前に出す。その様子を見た俺は皆市と黒騎士の勝負の結果を悟った。


 黒騎士の左手が皆市に当たる寸前、その手のひらから黒い霧が出現し始める。


「後ろに跳べ!」


 気がつけば俺は叫んでいた。その声に反応したのか皆市は咄嗟に背後へと跳躍した。


 跳躍した皆市を左手が襲う。皆市はまるで『ホープ』に軽減され無かったかのようにそのまま大きく吹き飛ばされ、黒い壁に叩き付けられた。


「が……ハッ」


 皆市は血を吐きつつ地面にずり下がる。


 その様子を黒騎士は兜の隙間から見える赤い目で一瞥した後、皆市から興味を失ったかのように次の標的へ体を向けた。


「ヒッ」


 黒騎士に目を向けられた西区勢力の男は、腰を抜かしてしまい手の力だけで体を引き摺り逃げようとする。


 その様子を見ていた俺は西区の連中に向けていた銃を全て仕舞う。


「逃げたい奴は逃げろ。もう用事は済んだ」


 俺の言葉の後、それぞれが我先にと出口へと殺到する。俺はその流れとは逆に皆市の方へと歩み寄った。


「どけよ!」

「早くしろ!」


 焦った結果出口が詰まり、その背後へと黒騎士が近づく。数名は部屋の外に逃れたものの、黒騎士の大剣は逃げ切れなかった扉に集まる奴らを一刀で切り伏せた。


 その中には岩倉の姿も有り、俺は顔を顰める。


「……こうなったのは残念じゃ」


 悲しそうな表情をした爺さんがそう呟きながら刀を片手に俺に近寄る。


「こうなったのは俺の行動の結果だ。爺さんが気にする事じゃ無い」


「そう言われてものう……」


 俺は足元でヒューヒューと呼吸する皆市に対し、屈んで目を合わせる。


「爺さん少し時間を稼いでくれ。皆市と話がしたい」


「了解した」


 爺さんは俺の言葉に答えると、こちらへと近寄ってきていた黒騎士へと向かっていき、暫くすると剣戟の音が聞こえ始めた。





「どこ…まで……お前の計画、だった……」


 弱々しく皆市が呟く。


「全てだ。だが……考えられる中で一番最悪なパターンだったが」


「わたしは、何故……勝て、なかった……」


「第二形態のあいつの左手は黒い霧で全ての『ホープ』を消失させる。『ホープ』に頼りきっていたお前とは相性が最悪だっただけだ」


 皆市はフッと笑う。


「……ひどいもの、だ。わたし、では……一生あいつに……勝てなかった、のか」


「さあな。地道に強くなってればいつか勝てたんじゃないか」


「みな……わたしが、殺して……しまった……」


「そうさせたのは俺だ。だから俺が殺したと同じだろう」

 

「ゲホッ、ゲホッ!」


 再度血を吐く皆市。




「さて皆市。そろそろ限界だろう。俺に領域を渡すと宣誓しろ」


「……酷いおとこ、だ……この、ような姿のわたし、に……」


「そんな事は分かっている。早くしろ」


 俺は呆れるかのような皆市に対して食い気味に話す。


「……『宣誓』。灰間 暁門に……全ての領りょう、いきを……じょう…と、する……」


 宣誓が許可されたのを感じると、俺は胸ポケットから紙で包まれた物を取り出した。


「これを飲め」


 その袋を破ってあけて出てきたのは錠剤のようなもので、俺はそれを皆市に差し出した。


「……どく、か……?」


「さあな。効果は未知数でどうなるか分からない」


「……腕が、動かない……のま、せろ」


 俺は無言で頷き、錠剤を皆市の舌へと乗せた。そして腰につけたポーチから水を取り出して無理矢理流し込む。


 皆市は再度むせるかのように咳をしたものの、錠剤は吐き戻される事はなかった。

 それを確認した俺は立ち上がり皆市を見下ろす形となる。


「後はお前の悪運に賭けるんだな」


「なに……を……」


 そのまま皆市は眠るかのように意識を失った。見届けた俺は攻防を繰り返している爺さんと黒騎士へと歩み寄る。


(特性が消された刀一本で受け流し続ける爺さん……やっぱり化けもんだな。)



「『兵器保管』、『特性付与』『単弾強化シングルショット』」


 俺は兵器保管により取り出し、強化した拳銃を手にし銃口を黒騎士へと向けるのだった。

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