県庁攻略 4
「岩倉さん攻略は失敗だ!一度外に出よう!」
攻略に参加した西区の青年が、慌てた様子で岩倉へと進言する。
だが岩倉は慌てた様子で外へと繋がる扉前を塞ぎながらも首を縦に振る事は無かった。
「だ、ダメだ!まだ誰かやられた訳じゃ……」
「何を言ってるんだ!誰かがやられてからじゃ遅いだろ!」
「このままじゃ死んじまう!早くそこを退いてくれ!」
その場に居る者達の混乱は大きくなるばかりだったが、その空気を変えたのはやはり皆市だった。
皆市は黒鎧が追う男とすれ違い、そのまま正面から迫る黒鎧と対峙した。黒鎧は皆市に気付くと大剣を引き、駆ける速度そのままで皆市を切り伏せようとする。
対する皆市のとった行動は黒鎧との距離を詰めるといったものだった。迫る大剣と黒鎧に近づき、皆市はそのまま大剣を持つ手甲をそれぞれの手で抑え込む。
黒鎧の質量と速度に押されて皆市は後ろへずるずると下がるものの、その勢いは止まり皆市と黒鎧は膠着状態となった。
「……!」
黒鎧は両方の手甲を抑える皆市の手を外そうともがくものの、皆市の力が優っているためか全く外れる気配がなかった。
そして抑えながらの状態で皆市が叫ぶ。
「皆落ち着け!こいつはこのまま私が抑える!全員背後から銃撃しろ!」
皆市の声に混乱は収まり、それぞれが黒鎧から距離をとりつつ背後へと回り込み始める。だが皆市に銃弾が当たるのを恐れるためか銃を構えるものの誰一人発砲しないでいた。
「弾が爆発しない者だけ撃て!私は大丈夫だ早く!」
そう言う皆市の頬を汗が伝っていく。
「お、俺は撃つぞ!」
ライフルを持つ青年が黒鎧の後頭部に狙いを定め発砲した。
そしてその銃弾は狙い通りに後頭部となる兜に着弾し、僅かにへこませることに成功する。
「いける!いけるぞ!」
そこからは一方的だった。銃声が鳴り響き続け、綺麗な表面だった黒鎧は徐々に傷が入り少しずつ欠けていく。
稀に外れた銃弾が皆市を掠めるものの、皮膚が軽く切れる程度で済んだようだ。
「く……ッ」
全力で振り払おうとする黒鎧に、それをさせまいと力を込め続ける皆市。彼女は抑え込む事が出来ているものの、無理をしているのか徐々にその表情は険しくなっていく。
そしてその一方的な攻撃は数分続いた結果……ボロボロとなった黒鎧からふっと力が抜けるかのようにバラバラと鎧の部位が崩れ落ちた。
「ハァ……ハァ……」
手甲を持ったてをだらりと下げ肩で息をする皆市を見ると、顔や体の所々に傷が見られ血が滲んでいた。また『ホープ』を全力で使い続けたためかかなりの疲れが表情に表れていた。
そして皆市が片膝をつくと同時に誰かが呟いた。
「倒せた……?」
その呟きの後、全体から歓声が挙がる。
「やったぞ!」
「終わった!生きて帰れるぞ!」
「よかった、本当に良かった……」
だがその勝利の一番の功労者である皆市の表情は浮かないままで、俺へ顔をむけてそのまま睨みつけてくる。
「領域のボスの黒鎧は倒した。だが、倒した後に現れる筈の玉がない。灰間、これは……どういう事だ」
俺は無表情のまま、睨む皆市と見つめ合う。周囲もその様子に歓声も止み、俺達の様子を伺い始める。
暫くの静寂に、観念した俺は口を開いた。
「玉が現れないのなら、答えは分かりきっている。領域の攻略はまだ終わっていない」
俺の言葉に周囲がざわつき始める。
「……やはりか。灰間、お前はこれを知ってたな」
皆市の問いに俺は無言で返す。
「き、貴様!どういうことか説明しろ!何で攻略に失敗したお前達がその事を知ってる!」
岩倉が俺に迫り肩に掴みかかろうとする。だが俺は掴もうとする手を掴んで引っ張ることで岩倉を転倒させた。
その様子を睨み付けたまま眺める皆市はその口を開いた。
「……全員撤退だ。もしもう一戦になった場合私達は勝てない」
皆市の判断は正解だ。
だが——それを俺は認める事は出来ない。
「『
俺の言葉と同時に、宙に浮かぶ十丁の拳銃やライフルが現れる。そして既に銃口は俺の足元に転がる岩倉や、皆市以外の連中に向けられていた。
そして咄嗟に俺に向けて銃を向けた者達に対して目を向けた。
「先に一つ忠告しておく。俺が提供した銃を俺に向けて発砲した場合その銃は暴発する。腕を失いたくなければその場から動くな」
俺はそれだけ伝えると、皆市に向けて発言する。
「俺の要望は宣誓の取り消しと、皆市……お前の持つ領域全ての支配権の譲渡だ。その要望だけ受け入れさえすれば身の安全は約束するし、西区に関しては領域の侵入許可もそのまま残しておく」
「そんなもの認める訳が……!」
岩倉が叫ぼうとするのを手で制し、岩倉に向けている銃を近づける。
「ヒッ」
「俺は勢力のリーダーである皆市と交渉している。岩倉、これ以上話に割り込むのなら撃つ」
岩倉は黙ってコクコクと頷く。
「これが交渉?誰がどう見ても脅しだろう?」
皆市は呆れた様子で悪態をつく。
「これでも俺の中では譲歩した方だ。俺からの要望は絶対だがそれ以外の希望が有れば話を聞こう」
「だがこちらにも手札は有るぞ?宣誓によりお前は私に対して危害を加えられない。だから私がお前を殺せば全て解決する」
「……その宣誓についてだが一つ教えてやる。宣誓の効力は基本的に自身の支配下に置かれている領域内でのみ適応される。だから今のこの県庁のように、無支配の領域では宣誓は効力を発揮しないという事だ」
俺の言葉で皆市の目が泳ぎ動揺する。
「宣誓についてはサポートがついた奴から話を聞いたんだろうが、明らかに情報不足だ。それと付け加えると、俺達は宣誓について実際に検証を行い可否の境界も把握している」
俺は一呼吸置いて話を続ける。
「また、譲歩していると言ったのは条件についてだけじゃない。宣誓の穴の件を話した事で分かったかもしれないが、俺は県庁に入った時点でお前達を背後から襲う事が出来たという事だ。その選択肢を選ばなかった事も考慮してくれ」
「恐らくボスの第二形態までは後五分程度だ。それまでに良い返答が貰える事を願っている」
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