県庁攻略3 黒鎧

 全てが黒の空間。そこには佇むのは大剣の先を地面に付けた体長二メートル程の黒鎧の騎士。


 ——それが、この県庁の領域を守る主。



「あれが……」


 西区の連中が黒鎧の異質さを前に呟く。


 黒鎧の中身は空、そして鎧の隙間からは黒いモヤが立ち込めている。佇んでいるだけで漂う強者の威圧感に、その場に居る者たちは息を呑んだ。


 そんな中、腰の引けている集団の中で皆市が一歩前に出て指示を出す。


「……散開しろ。銃の狙いを定め合図が有るまで絶対に動くな」


 その言葉により集団は慌てて陣形を取り始めた。


 その陣形はそれぞれが射線が被らないように広がり、皆市は黒鎧と対峙するというシンプルなものだ。皆市一人に任せすぎだとは思うが、戦力を考えれば最善だと思う。


 そして空間の入り口、扉付近で立ち尽くす俺と爺さんは作戦の蚊帳の外だった。緊急時以外は手出し無用。それが俺達に出された指示で、それがボス攻略にも適応された結果だった。


「良いか、お前達は手を出すんじゃ無いぞ」


 ボス部屋に入る前に岩倉にそう言われた時は流石に耳を疑った。


(流石にこの期に及んで俺達に参加させないとは思わなかった。被害を減らす為にもプライドなんて捨てて協力を仰ぐべきだと思うんだが)


 呆れている俺と納得出来ない顔をして顎髭を触る爺さん。





 ——そしてそんな俺達を置いたまま、その闘いは始まった。


「撃て!」


 岩倉の言葉と同時に放たれる数十の銃弾が黒鎧に着弾。その中には『爆破弾』を付与したものも含まれていた関係で、爆破の煙により黒鎧の姿は見えなくなる……が、それだけでは終わらない。


「何してる!撃て!撃ちまくれ!」


 次弾を放つのも忘れ見入る奴らに対し、岩倉の怒号が飛び再度銃声が響き渡る。そしてそれはマガジンの弾を使い切るまで続いた。


「弾を補充して身構えろ!」


 特性が付与された銃の一斉射撃。その威力はかなりのもので、西区の連中の中でも、もしかしたら……と思わせるには充分な火力だった。


 だが、県庁という領域のボスはそんなに甘くは無かった。


 薄れていく煙の中、その場から一歩も動かずに無傷で佇む黒鎧の影に、西区の連中はヒッと声を上げた。



 そして黒鎧がギギッという鎧の金属が擦れる音と共に、大剣を持ち上げ、一歩前に踏み出す。


「次だ!早くしろ!!」


 鳴り響く銃声と鎧に着弾する音。それらは確かに当たってはいたが傷を負わせているとは言えないものだった。


(こいつ、『障壁』とかいうふざけた能力を持っているからな。前方からの攻撃はほぼ通らない)




 そして弾幕も虚しく、黒鎧がガシャガシャと鎧の音を鳴らしながら攻撃した者達へ向かって走り始めた。


「う、うわあぁぁああ!!くるな!!」


 黒鎧が向かった方向にいた奴らが、混乱し散り散りに逃げ始める。


「おい!バラバラににげるな!」


 その結果同士討ちを恐れるが故に銃撃が止まり、折角の後方から狙える好機が潰れてしまう。


 実際、黒鎧の動きはそこまで速くはなく、多少身体能力が上がっている者なら逃げ切れる速度だ。だがパニック状態になっているためにそれぞれの存在が逃げる妨げになっていた。


 追いかける黒鎧に、逃げ惑う連中。そこにはもう陣形の見る影も無かった。





 そして、これは俺の計画通りの状況と言える。結論から言えば、銃による攻略が無理なのは最初から分かっており、あの黒鎧とまともにやり合えるのは皆市だけ。


 ただし道中の皆市の戦いを見た限り、黒鎧には勝てるだろうと思う。『ホープ』を使い正面から黒鎧を抑えさえすれば、後方からの援護で時間を掛ければ攻略出来る筈だ。


(時間も掛かるしかなりの消耗になるだろうが)



 ——何故俺がそこまでの情報を持っているのかと言えば、俺達が黒鎧に挑み攻略したからに他ならない。


 俺達はこの県庁を一度攻略したものの、敢えて玉を拾わずに支配しなかった。そして西区の連中に向け県庁の攻略に失敗し被害が出たという情報を流した。


 その理由は、西区を支配下に置く上で皆市という存在がどうしても邪魔になってしまっていた。というのも、一度領域の境界を破壊しながら拠点へ辿り着こうとしたものの、皆市の力ですぐに境界を押し戻されてしまい無駄に終わったという事がある。


 更に皆市自身は安全圏以外姿を見せないというのだから、俺は悩みに悩んだ。そしてこのままでは無駄に時間を消費するだけと判断した結果、県庁の攻略を餌にして皆市を目の前に引き摺り出す作戦を決行した。



 結果は全てが計画通りに進んだ。誤情報に踊らされ数日後に境界を広げ県庁まで来た事、更には俺の宣誓についてもそうだ。武器に領域情報も、攻略に直結しないものだけ渡し、重要なものは隠した。



(そして、第一段階に勝てたとしても皆市は続くには絶対に勝てない)

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