県庁攻略 6
「爺さん待たせた!」
俺はそう叫びながら爺さんと戦う黒騎士の背後に回り込む。そしてそのまま黒騎士の意識がこちらに向かない内に銃を構え発砲した。
着弾した弾は黒騎士の背中の鎧部分に当たると、貫通には至らなかったものの鎧を変形させる程度のダメージを与えた。
俺が先程付与した『単弾強化』の特性は、弾倉の装填弾数が一発になる代わりに威力が数倍に跳ね上がるというものだった。
一発の威力にこだわる理由は二つある。
一つ目は黒騎士の鎧の強度。『威力』や『魔弾』の特性を付与したライフルでも、黒騎士の鎧が硬く弾かれてしまう。そのため弾数でダメージを与える事が難しい。
二つ目の理由は——。
「きたか」
俺から攻撃された事に気付いた黒騎士が警戒し、爺さんに背を向けて俺と向き合う。そしてそのまま左手を開いたまま突き出した。
すると黒騎士の左手から黒い霧が出現し始め、それが幅十メートル程に広がると俺目がけて高速で近づき始める。俺はそれを確認すると先程の銃を『兵器保管』で収納し黒い霧を体に受けた。
黒い霧は俺の体を通過し背後の壁に当たると飛散し消える。
だが黒い霧を受けた筈の俺の体には何も変化が無く傷一つ見当たらない。
皆市にも伝えたが黒い霧の効果は『ホープ』の効果を消し去るもので、それは俺が作り出した武器にも適応される。もし俺が銃を持ったまま黒い霧を受けると、俺の作り出した銃も『ホープ』の効果とみられるようで、フッと消えてしまう。
二つ目の理由は黒い霧を受ける前に攻撃する必要があるので、連射している時間が無いという事だ。
また爺さんの刀が消えない理由は元々存在する武器だからで、俺が付与した特性自体は既に消失している筈だ。にも関わらず黒騎士の攻撃に折れる事なく受け続ける爺さんの技量には感嘆する。
「『特性付与』、『威力』『頑丈』」
俺は遠隔で爺さんの刀を特性で強化。
「『兵器保管』」
続いて『単弾強化』やその他特性を付与したライフルを二丁取り出し、『兵器操作』で宙に浮かせた。
「ハァッ!」
爺さんが俺に意識を向けている黒騎士へと斬りかかる。黒騎士は咄嗟に反応し、大剣で爺さんの刀を防いだ。そしてまた左手の黒い霧を爺さんに向けようとする。
俺は黒騎士の意識が爺さんに向くのを確認すると同時に、ライフル二丁の操作に集中する。
「爺さん避けろよ!『
俺が叫ぶと同時に、ライフルは赤く熱を持つかのように反応する。その銃口にエネルギーが溜まるかのように光が集まり始めるとその光はすぐに発射された。
光は直径三十センチ程の光線となり黒騎士へと向かい、黒騎士の鎧を貫通した。そして光線が消えると発射したライフルは砂のように崩れ消えていく。
俺が黒騎士に目を向ければその胴体部分の鎧には穴が二つ空いており、それに先程の光線の威力の高さが伺えた。
俺は唯一の攻撃技能と言える『全弾解放』の使い方をずっと考えていた。
以前、警察署にいた頃で青いゴブリンと遭遇した際に使ったものの、その威力の反動により俺は手に怪我を負った。
だが、『兵器操作』により体から離す事で反動を受けずに扱えるのでは、と思い付いたのが今の使い方だった訳だ。
結果かなりの集中が必要で、更に銃本体は消失し銃の耐久力分しか威力の上昇は見込めなかったものの、俺は強力な攻撃手段を手に入れることとなった。
「まだ終わっとらんぞ!」
光線を避けるために一瞬でその場を離れていた爺さんが再度黒騎士に向かう。
それもそのはずで黒騎士は穴が空いているものの未だに健在だ。これが生物であれば先程の一撃で終わっていたのかもしれないが、黒騎士は無機質な物体で臓器なんてものは無い。
こいつを倒すには核となる部分を曝け出し破壊することが必要だった。
攻撃箇所は核からずれていたものの、幸い鎧に穴が空いたことで核の位置が露出しており、次の一撃で仕留める事が可能だろうと俺は考えていた。
「『兵器保管』」
俺はまたライフルを取り出し先程の攻撃を繰り返そうとし黒騎士に目をやる、が。
「は?」
突如——光線を受けて止まっていた黒騎士の姿が消失した。
黒騎士の消失という前回の攻略時に起きなかった事態に俺は混乱する。前回は同じような手段でそのまま核を破壊し倒し切れたのだ。
「……何が起きている?」
領域のボスの消失という事態について必死に考えるが、全く検討がつかない。また爺さんも同じように刀を持ったまま首を傾げていた。
そして呆然と立ち尽くしていると——
『ご機嫌よう、人間』
突然黒い部屋の中に女性の声が響いたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます