第108話 青堀神社 25

 突然の事に俺は焦りを感じる。

 その理由は領域から出られなくなった事でも、銃による攻撃を恐れた訳では無い。


 もし諏佐が俺に銃を撃とうとした場合……『安全装置セーフティー』が発動し、爆発であいつの右手は吹き飛ぶ事になる。

 俺は……それを想定して盗まれた武器を倉庫に残したのだが、その時とは事情が変わった。


 俺はサポートを追い出す事ができるか否か。サポートに体を乗っ取られた場合、本来の体の持ち主が奪い返す事が可能なのかどうか……沙生さんがそうである可能性を考えて、今ここで確かめておきたい。




 ——となれば、ここで銃を使わせない事にする。




 俺は諏佐に向かって叫ぶ。


「おい諏佐!その銃を俺に向けて使うと死ぬぞ!俺の作った武器は、作成者の俺に対して使うと爆発するようになっている!」


 俺の言葉に対して、諏佐は笑う。


「何を言っている?普通そんな手の内をバラす訳が無いだろう?なんだ、この銃を使われたくない理由が有るのか?」


「使われたく無い理由は有るが、それはお前を殺さない為だ。お前の能力は有用だと思う、だから何としてでも俺の下に置きたい」


 実際俺はそんな事は思っていないが。


「無理だ。サポートは誰かの下についた時点でその力の大半を失う事になる」


 それは有益な情報だ。


「何故無理なんだ?お前が体を返せば、奏子さんの意識が戻るだけだろ?能力は問題無く使える筈だ」


 諏佐は少し思案した後、その口を開く。


「……理由は話さんが、私が消えた時奏子も死ぬ。だから下には絶対につかん」


 どうやらこいつは譲れないものが有るらしい。理由が気にならなくは無いが、今は『安全装置』が発動しなければそれで良い。


「なら銃は捨てろ。無駄に死ぬだけだ」


「フン。それは信用してやる」


 諏佐はそう言うと、脇に銃を投げ捨てる。





 さて、諏佐を俺の下につければサポートである結子は力を失う事は分かった。その為にはどうすれば良いか。ただ圧倒的に不利な状況でも諦めそうに無いのが厄介だな。

 取り敢えず……邪魔な三人を排除する。それから考えよう。


「引けない理由が有るのは分かった。なら俺は作戦を考えるのに退かせて貰う」


 そう言って俺が逃げる素振りをすると諏佐が叫ぶ。


「逃すと思うか?……丸山周囲を囲め!」


 諏佐の声により丸山が両手を広げる。恐らく俺の後方に結界でも出したのだろう。

 俺は逃げる向きを変える。


「丸山の能力じゃ全周は無理だろ?」


 丸山が俺を逃すまいと結界を張り続ける。それに加えて、炎弾や落とし穴が行手を塞ごうとする。

 俺はそれをギリギリで避けている振りをしながら避け続ける。


「お前らもっと放て!丸山は範囲を広げろ!」


 諏佐が焦り始め、丸山が能力を無理して使用しているせいか汗を垂らし始める。


 ……そろそろ頃合いか。同じ手で悪いな、丸山。


「『兵器操作』」


 俺は諏佐が投げ捨てた銃を操作。


「丸山!」


 諏佐が俺の思惑に気付き叫ぼうとする。


「遅い!」


 丸山が自身に結界を張るよりも先に、銃が丸山の側頭部を強打する。


「あ、ふん……」


 丸山が気絶し、周囲の結界が消えさる。


「くそッ!厚木!市橋!近づかせるな!」


 丸山の結界さえ無ければ、後二人を落とすのは簡単だ。なら諏佐に出来る限り恐怖を与える。


 俺は攻撃を避けつつ走り回りながら、口を開く。


「なあ、諏佐結子。魔物を倒し身体能力が上がると、目も良くなるんだ」


「何を……ッ!」


「それは反射神経だけじゃ無い。一定の水準までいくと、少ない光でも周囲の様子が見えるようになる。つまり……」


「まさか……!火を守れ!」


 本殿前の明かりはかがり火が二つ。俺はその内一つを諏佐が叫ぶ前に火種となっている部分を斬り落とす。


「くッ!」


 三人が反応出来ない内にもう一つ。すると周囲は暗闇に包まれる。


「さて、夜目がきく俺にはお前達が見える。お前達はどうだ?」


 月は雲に隠れ、暗闇の世界。

 もしそこで視える敵が襲ってくるとしたら、どれだけの恐怖なのだろうか。


「あ、厚木!周囲を照らせ!」


 俺はその瞬間、既に厚木を気絶させていた。周囲には何かが倒れる音だけが響いている筈だ。


「ひ、ヒィっ!市橋何とかしろ!」


 市橋は周囲をぬかるみに変える。俺がそこを歩くと、泥を踏みしめる足音がする。


「成程考えたな。だが……それでどうにかなるもんじゃない」


 丸山にも使った銃を操作し、市橋を気絶させる。すると市橋はぬかるみに音を立てて倒れる。


 そして恐怖を煽る為、枝や石で物音をわざとたてる。時には諏佐の真横を石が通り過ぎたり、わざと近づくように足音をたててみたり。


「ひッ……や、やめ……」


 諏佐は腰を抜かし、ぬかるみに後ろ手をつき座り込む。





「諏佐結子。俺に歯向かった事を後悔しろ。お前が限界になるまで追い込んでやる。いつ来るか分からない死の恐怖に怯えるといい」



 ……これじゃ完全に悪役だ。だが心を折るにはこれしか思い浮かばなかった。

 俺はサポートである結子の精神が限界に来たとき、奏子さんの人格が出てくるのではないか、と考えた。あまり褒められるような方法ではないのは分かっている。


 奏子さん、今母親を守れるのはあなただけだ。だから閉じ籠らず表に出てきて欲しい。


 俺を憎んでも構わない。だから——

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