第107話 青堀神社 24

「『円状結界サークルバリア』」


 丸山の結界を移動して回避。こいつは一度戦ったし、手を見ていれば大体の発動のタイミングは読める。


「『地質変化グラウンドチェンジ』、『ホール』!」


 市橋の声と共に足元に違和感を感じ、横へ跳躍する。すると先程の位置に穴が出現していた。


「落とし穴……原始的だが厄介だな」


 効果は丸山に劣るが、その分発動が早いようだ。市橋の能力は完全に未知数。他にも何か有ると思っておいた方が良い。

 身体能力が上がっている俺の走る速度はかなり速い筈、だがそれでも足を止めたら捉えられてしまいそうだ。


 俺は四人に目を向けたまま、結界と穴を避け続ける。


「ええい!ちょこまかと!」


「こんなので捕まるわけが無いだろう、が!」


 そこで丸山と市橋の一瞬の間隔——この位置ならいける。


 俺は諏佐目掛けて一気に距離を詰め、通り過ぎざまに刀を振るう。だが諏佐は丸山の結界に守られており、俺の一撃は結界に阻まれる。


 俺はまた四人から距離を取った。


「チッ」


「この状況で峰打ちとは。呆れるほどの自信だな」


 俺は刀で斬るときに持ち替え、刃で斬ってはいなかった。出来れば殺さずに無力化したいとの思いからだったのだが……。


「だが、それで死ぬ事になると思え」


「『火炎操作コントロールファイア』、『火矢ファイアアロー』」


 厚木の右手から炎の矢が放たれ、俺目掛け一直線に飛んでくる。だが攻撃が見えている分、丸山達よりも回避は容易い——はずだった。



「『認識誘導コグニションガイド』、『方向ディレクション』」


 そこで諏佐が僅かに呟くのが聞こえた——その時。


 正面の火矢が消えたと思うと、火矢は突然右から現れた。それに俺は目を見開いて驚く。


「な——ッ!」


 正面から来た筈の火矢が右から——ッ!諏佐が火矢の方向を変えたのか!?


 俺は火矢を避けようと後方へと跳ぼうとし、それを辞めた。


 いや、違う!認識を歪められたのは俺の方だ!


 俺は火矢が飛んでくる右へ跳躍した。その直後俺の見えている火矢が体に当たりそうになり——消えた。そして、俺の真横……先程まで居た位置を火矢が通り過ぎていく。


「チッ!」


 俺が火矢を避けた事で、諏佐があからさまに舌打ちする。俺はそれを横目に、ジグザグに移動を再開する。


「今のは危なかった。だがカラクリは分かったぞ」


 諏佐の能力により操られはしないものの、認識を歪める事は出来るようだ。火矢は正面から来ているのに、右から来ると完全に錯覚させられた。操るだけなのかと思ったら、案外厄介な能力だ。


 次から同じ手は通じない。それに諏佐も何度も使えるとは思ってはいないだろう。


「それでも、逃げ回るしか出来ないお前に勝ち目はない!」


 確かに丸山が結界を維持している限り、俺は諏佐を狙う事が出来ない。丸山の結界の硬さは厄介だ。恐らく刀では破壊するのは難しいだろう。


 ……今は一度引くのも手だ。爺さん辺りを連れてくれば隙を見て一人ずつ倒せるかもしれない。






 俺はそう思って、その場から離れようとする。だが。


「おっと、ちょうど良い所に」


 そう言った諏佐が一歩移動し、足元の空中を掴む。すると、そこから出て来たのは……隠れていた筈の菅谷だった。菅谷は頭を掴まれたまま、銃を持ち暴れている。


「くそッ!何で俺の場所が!」


「精神系の『ホープ』同士は効果が受け難いのだ。それならば私の能力だけでななく、お前の能力も効果が薄い。少し考えれば分かりそうなものだが」


 あの馬鹿!手を出すなとあれだけ言ったってのに!


「は、離せ!」


 菅谷が魔石銃を撃つも、魔力弾は結界に弾かれる。


「『認識誘導』、『虚言ライズ』……菅谷、灰間暁門を外に出られなくしろ」


「あ、あ……うぁ……」


 菅谷が抵抗する素振りを見せるも、その口が動き始める。


「灰間、暁門を……この領域から出ることを禁じ……る……」


 諏佐がニヤリと笑う。


「良くやった」


 諏佐がそう言った直後、菅谷の銃を奪い、そのまま後頭部を殴り付けて気絶させた。




「さて、これでお前はこの領域から逃げられなくなったぞ?さあ諦めてここでその人生を終えよ」

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