第106話 青堀神社 23

「実の母親?……サポートは実在していた人の意識なのか?」


 確かにトリセツはサポート側が有能そうな人を選ぶことが有るとは言っていた。けれど、それが実在してた人の意識だとは一言も聞いてない。

 もしもそれが本当なら、家族に付くのは当然の判断だろう。例え死んでしまっても、家族が生き残るために手を貸せるのであれば……俺なら迷う事なくそれを選ぶ。


「それも聞いてない、と。サポートとはこの騒動が起きてから死んだ者の意識を元に作られた人格だ。それ故に身内のサポートをする者が大半。順位の為に人を選ぶ者などほんの一握りだろうな」


 諏佐は俺を見ながら笑い、話を続ける。


「フフ、まあそれを知った所でどうという事もないが、あの小娘が隠していたのなら何か後ろめたい事があるのであろう」


 トリセツが敢えて言わなかった理由……あいつの事だから忘れていた可能性も有るが、今回は敢えて隠していた気がする。だが、その理由は何だ?

 いや、それは今重要な事じゃない。それよりも——。


「それについては後で問いただすさ。それよりも、あんたが何故娘の体を乗っ取ったかが気になる。俺もいつかサポートに体を奪われるのか?」


「……理由は娘の為とだけ言っておこう。それとお主の体を奪うのは無理そうだ。精神的に弱ってそうには見えん」


 ……精神的、ね。諏佐の言う事を信じるのなら、体の持ち主の精神面が弱った時にはサポートに体を奪われる事も有ると言うことか。



 そこで俺の頭に沙生さんが消えた時の事が過ぎる。


 あの時、沙生さんは純君が死んだ事を知り、精神的にかなりの負荷が掛かったはず。もしもそのタイミングで『ホープ』に目覚め、サポートが付いたとしたら——その体を乗っ取られてもおかしくは無い。それならば消えた理由にも納得がいく。

 まさかこんな所で手掛かりを得られるとは。





 これはこの一ヶ月何一つ得られなかった——沙生さんへと近づける一歩。





 俺は自然に笑っていた。諏佐は片眉を上げ訝しむ。


「何が可笑しい?」


「いや、お前に思わず礼を言いたくなりそうだった。なあ、諏佐。諦めて俺の下に付かないか?勿論、支配領域の報酬は諦めてもらう事になるが」


「ふん。私の望みが果たせないのなら意味が無い。それよりも私の下に付けば、命だけは助けてやるぞ?」


「断る。自分の意思で動けなくなるなんて有り得ない。……と言う事は交渉決裂だ。俺はお前を敵と見做し、排除させてもらう」


 俺の言葉に諏佐は口を釣り上げながら笑う。


「元からそのつもりだったのだろう?それと、私が不利だとは思うなよ?お前を殺す手段など幾らでも有る」


 青堀神社の領域は俺の支配領域に囲まれ、諏佐は圧倒的に不利な状況だ。実際、ここから外に出て待つだけで、食料の無いこいつらは飢えて死ぬ事になる。

 正直言ってやりたくは無い方法だが。


「『兵器作成』、『威力』と『頑丈』な刀を」


 そう呟くと俺の手に刀が握られる。区役所の攻略では一度も使っていないので、今日の残り回数は一回。


「フッ、出鱈目な能力だな。その力が欲しかったが仕方がない……「認識誘導コグニションガイド」。お前達……あの男、灰間暁門は敵だ。やれ!」





 夜も更け、僅かな炎の灯りだけが照らす青堀神社。そこで諏佐の言葉を皮切りに、丸山達が動き始めた。

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