第93話 青堀神社 10
その日は菅谷と共に食料集めを手伝い夜を迎えた。
そして、無事に戻ってきた荻菜さんとたわいない会話を始める。俺の手にはスマホで、聞かれてはまずい情報をやり取りしている。
『市橋、丸山は人を洗脳するような能力を持っている可能性が有る。もう一人とハクシンは会えなくて不明だけど』
『何故それが分かったんだ?』
荻菜さんは悩む様子を見せるが、ため息を吐いてから文字を打つ。
『私も似たような能力が有るのよ。それでその二人は能力を弾いたの。弾かれる原因は、同じような洗脳系の能力者か、または既に影響を受けているか。まあ、あなたのように格上も無理だから確証は無いわ』
……やはりあの夜に感じた違和感は能力だったのか。というか俺を洗脳するつもりだったのかよ。まあそれは今は良い。
『俺に対して使った事は今度理由を聞かせてもらうぞ。それともし能力を弾いたのなら、俺のように違和感を感じた筈だ。荻菜さんが『ホープ』持ちと悟られた可能性が有る』
『……あーあ。やっぱり気づいてたのね。はあ……で、バレたのならここを離れた方が良さそうね。ごめん』
『いや、気にしないでくれ。早朝、碧と一緒にここを離れてくれ』
荻菜さんは首を傾げる。
『暁門君は?』
『俺は一人でここに残る事にする』
『バレた私が言うのもなんだけど、危険よ?』
『分かってる。ま、本当に危なそうなら逃げるさ。俺一人なら大丈夫だ』
俺はそう伝えたが……ここが安全な訳がなく、逃げ切れる保証なんてものは無い。もし洗脳でもされればそれで終わりだ。荻菜さんの時は何故か弾けたが……今回もそうなるかは分からない。
けれど、昼に菅谷の見せた表情が少し気になってしまった。サポート持ちの件が最優先なのは変わらないのだが、気になると確かめたくなってしまう。
敵地に一人。だが、最初もそうだった。気にする事じゃない。
俺は仕舞っていたイニシャルのネックレスを取り出し、握り締める。横を見れば気持ち良さそうに眠る碧。それと心配そうな顔をする荻菜さん。
……最初は全員利用する事しか考えていなかったのだが、いつの間にか大事な仲間になっていたようだ。なら、少しくらい危険な目に遭おうが構わない。
それに——俺の手は既に汚れている。今更気負うこともない。
♦︎
——翌朝。俺は一人で倉庫の扉前に座っていた。そこに菅谷が姿を見せるが、俺が一人なのに気づき首を傾げながら話しかけてきた。
「……?あの二人はどうしたんだ?」
「悪いが、昨日の内に拠点へ帰らせた。ここにはどうも危険な奴がいるようだし」
「……丸男か?でもそれなら、灰間さんも戻れば良かったんじゃないのか?」
「そうかもしれないな」
菅谷は納得出来ていない様子だが、俺は気にせずに話を続ける。
「で、俺一人でも監視するのか?」
「……あ、ああ当然だろ。危険な人物を一人にさせられるか」
菅谷がサポート持ちの可能性も捨て切れないが、能力が分かってる分対応はしやすい。それに荻菜さんの情報からすると、領域内では一番安全そうだ。
「はあ、危険と言い切られたか。ならいつでも対応出来るように身構えておいた方が良いぞ」
まあ、対応するのは俺に対してでは無いと思うけどな。
それからは青堀神社内をぶらぶらと散策したり、避難した人達と雑談したりして時間を過ごす。菅谷はそれを見て怪しんでいる様子を見せるが、特に何も言ってこない。
……そろそろ荻菜さん達は拠点についている頃だろうか。一応丸男は領域内にいたし、無事だと良いんだが。
更に歩いた後、本殿前の広場に座り菅谷と話す。
「なあ、菅谷。もし願いがなんでも叶うなら、お前は何を願う?」
「……何だよ急に」
「俺も完全に信用してはいないんだが、どうやらその方法が有るんだよ」
菅谷の眉がピクリと動く……がすぐに呆れた顔になる。
「馬鹿馬鹿しい。そんな事ある訳無いだろ。まあ……もし有るなら魔物が現れる前に時間を戻して欲しいが」
「……時間を戻しても、同じ事の繰り返しじゃ無いのか?」
「今度はうまくやる……絶対に」
菅谷はそう小さく呟く。
「……そうか。お前も色々有ったんだな」
誰か死んだのか?と聞きそうになったがなんとか堪える。菅谷は何か嫌な事をを思い出したかのように目を伏せて俯く。その様子は俺には演技にはとても思えなかった。
それから暫くの間。そして俺から先に口を開く。
「なあ、菅谷。もし俺で良いなら、お前の手助けがしたいんだ。聞いてるとお前と称矢って奴は元々知り合いなんだろ?」
「……どうしてそう思うんだ?」
これは避難している人達の情報から推測しただけだが、市橋や丸山は後から合流した事は確実だ。そして、それを知る人が来た時点で既に、ハクシンや菅谷、それに称矢と諏佐さんは居たと聞いている。しかもそれは魔物が現れてから二週間頃の話だそうだ。
だから俺は恐らくこの四人は、ここが支配されてすぐ共に居たんじゃ無いだろうか、と推測した。そして、その期間で一緒に行動するのなら、元々の知り合いだった可能性が高い。
「何となくだ。けれど、それを知ってどうこうするつもりはない」
菅谷は押し黙る。
その反応を見るに大きく外れてはいなさそうだ。
そして……この話は周囲にも聞こえるような大きさで話している。静かな領域内では物陰に隠れながらでも聞けるだろう。
もしもここに暗躍する者が居るとして、こうして俺が菅谷を取り込もうとする動きにどう出るのだろうか。
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