第94話 青堀神社 11 丸山
「確かに俺と称矢は元々の知り合いだ。けど、それ以上をあんたに話すつもりはない」
話す程仲良くなった訳では無いし当然か。けれど、これだけ聞ければ充分だろうか。
「そうか。まあ力を借りたくなったらいつでも言ってくれ。菅谷、お前の頼みなら俺は断らない」
勿論菅谷を完全に信用した訳ではない。単に菅谷が一番仲間にしやすいと判断しただけだ。碧の一件で好きでは無いが手段は選んでいられないしな。
それから俺たちは本殿前から離れた。菅谷に頼んだのだが、もう一人の『ホープ』持ちの称矢とは会わせてもらえなかった。
「どこに行くつもりなんだ?」
本殿から離れ公園側へと歩く俺に、歩く後ろについてきている菅谷が不思議に思っている。俺は菅谷の質問には答えず、敢えて人が居ない桜の木が林のようになっている場所へと向かっていた。その理由——。
どうやら思った以上に早く釣れたようで、俺は本殿からずっと誰かがつけてきている事に気が付いていた。
そして、俺は振り返りつけてきた人物へと話しかける。
「……おい、何の用だ」
「……?何言って……」
俺が見ている物陰から出てきたのは、眼鏡をかけた小太りの男。……丸山だった。
「玉男?こんな所で何して……」
現れた丸山は、菅谷を無視して俺と目を合わせた。
「忍君には用は有りません。わたくしはそこの灰間さんに用が有りましてねぇ……」
「俺には用なんて無いんだが」
「ふん。何を今更。あなた方がこそこそと嗅ぎ回っていたのは知ってるんですよ。出来ればあの二人も捕らえたかったですが……それはあなたの後にしましょう」
「へぇ、何か知られて不味いことでも有るのか?教えてくれよ」
「いえ、居座るあなたが邪魔なだけなんですよ……ねぇ!」
そう言いながら丸山が手を振り下ろすとと同時に、俺は嫌な予感がして横へと跳んだ。すると、俺のいた場所には少し遅れて丸い円柱状の壁が出現する。
「チッ勘のいい……」
どうやら丸山は昨日言った通りに結界を作るような能力のようだ。そうだとしたら——こいつはハズレか。
「『威力』と『連射』を付与した拳銃をよこせ」
俺の右手に作られた拳銃が握られる。
「おぉ、それだけで銃を……本当に羨ましい能力ですねぇ」
「制限が有って不便なんだがな」
「ま、銃なんてわたくしの能力の前では無力ですが」
「……そうか、試してみるとしよう」
俺は急所を外すよう、丸山の足を狙って引き金を引く——が。丸山の前にある何かに六発の銃弾は弾かれる。
「はっ!無駄ですよ!」
「見えないようにも出来るのか」
「隠し球は持っておくものです、よッ!」
丸山がまた腕を振り下ろすが、結界が出来る前に俺はそれを走って躱す。
「『
銃弾を補充し再度発射するも、やはり結界を破る事は出来ない。結界は自信がある通り堅いようだ。
「無駄だあ!わたくしは強いんです!」
すると丸山が両手を使い始め、結界を作る速度が早くなり始める。そして、俺はそれに捉われないよう回避を続けながら考える。
さて……結界を避けるのは簡単だが俺に決定打が無い。どうしたものか。
俺は丸山を中心に回りながら、結界を避けて銃を撃ち続ける。二周位はしただろうか。丸山を守る結界は丸く囲っているようだ。
「えぇい!ちょこまかと!」
丸山は苛々し始め歯を食いしばりながら結界を作り続ける。
「こりゃ、撃つだけ無駄だな」
俺は丸山に聞こえるようそう呟き、銃を地面に投げ捨てる。
「ふっ、やっと諦めましたか!」
そして更に半周。そろそろ良いだろう。……丸山の能力の弱点は見えた。
「ああ!勝てないから諦めて逃げさせてもらう!」
そう言って俺は回るのをやめ、丸山から走って逃げ始める。
「な……っ!逃しません!」
丸山が俺を追いかけようとその場を動いた——という事。それは移動の邪魔となる結界を一時的に解除したという事だ。
そして、丸腰の俺に対して自身を守る結界は不要。危険を感じなければ結界を張る必要が無い。
俺は銃を捨てた位置から半周した。なら今その銃はどこに有るか?それは——丸山の死角である後方だ。
「『兵器操作』」
俺は丸山に聞こえないような声で呟き、丸山の後方に有る銃を引き寄せる。そして狙いを定める為に一瞬振り返る。銃の移動先はあいつの後頭部だ。
「アギャあ」
俺の予想通り、銃を拒む結界は無くそのまま丸山の後頭部に銃が直撃した。その衝撃から、丸山は情け無い声と共に、うつ伏せに地面に倒れ気を失った。
……どうやら、運良く作戦通りにいったようだ。
俺はそうは安堵し溜息を吐いた、
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