第91話 青堀神社 8
本殿から出ると、そこで菅谷が姿を見せた。
「……本当は嫌なんだけど、ハクシン様がお前達に付いて案内してやれだとさ」
当然監視が付くとは思っていたが、姿を消せる菅谷なのは意外だった。こいつはそれほど信用されてるのだろうか。
「ああ、よろしく頼む。三日程だがもし手伝える事が有れば手伝うぞ?」
「灰間さん、で合ってるよな?出来たら武器が欲しいんだが、あの銃はどうやって手に入れたんだ?」
拘束されてた時とは態度が変わったのが気になるが、仕方ないか。しかし、俺の『武器作成』をどこまで話すか……全て話すのは勿論なしだが、少し位話さないと信用はされないだろうな。
「俺は武器を作れるし、修理も出来る。あの銃は俺が作ったものだ」
菅谷はあまり驚いた様子は無い。何となくは検討がついていたのかもしれない。
「……やはりそうか。隠し通すもんだと思ってたが」
「敵意は無い、と思ってもらいたかっただけだ。もし他にも銃が有るなら、弾切れもなんとかするぞ?」
「……それは助かる。後で頼むよ」
菅谷の返答に違和感を覚える。菅谷はまるで本当に感謝しているように感じたが何故だろうか。
そんな違和感を感じつつも、俺達は避難している人達に挨拶しながら回ることになった。俺はそこでハクシンについてどう思っているかも聞いてみた。
分かったのは、避難している人達はハクシンを神のように崇めている訳では無い。だが、助けてもらい心から感謝しているということだけは分かった。
ハクシンの様子から新興宗教の狂信者の集まり、という俺の予想は外れたようだ。
一通り回り終えると、日が落ち始め周囲が暗くなり始める。それに気付いた菅谷が俺達に向けてこう言った。
「悪いが泊まる場所は一杯なんだ。だからあの早瀬とかいう娘の居た倉庫を使ってくれ」
「ああ、分かった。だが、閉じ込めたりするなよ?」
菅谷は呆れて肩をすくめる。
「あんな倉庫簡単に壊せるんだろ?なら、やるだけ無駄だ」
……まあそうなんだが。
そうして菅谷と別れ、俺と荻菜さんは碧の居た倉庫へと向かう。すると、倉庫の錠は既に外されていた。
俺が扉を開けると、そこには気持ち良さそうに眠っている碧の姿。それを見た俺と荻菜さんは顔を見合わせてため息を吐く。
「うへへ……ケーキがたくさん……」
碧は寝言まで言っている始末。
いや、幾らなんでも油断しすぎだろ……。
「おい、起きろ」
俺は碧の頬を摘む。
「いたいっ!」
すると、碧はすぐに目を覚まして驚愕する。
「ま、まさか灰間さんが寝込みを襲うなんて……!」
「いや、無いからな。俺達が苦労してるのに、お前が気持ち良さそうに寝てたらイラッとしただけだ」
「流石にフォロー出来ないわ碧ちゃん……」
「ええっ!?荻菜さんまで!?だって暇なんですよ!それに、安全だと分かったら気が抜けちゃって、つい……」
どうやら、先に誰かが解放する事を伝えたようだ。誰だよ余計な事しやがって……。
それから俺達三人は情報交換をした。食料品売り場の有る領域のを確保出来たことに碧は「正夢」だった!と喜んでいたが、ここに三日位居座ると聞いて、すぐに死んだような顔になる。どうやら顔芸が多彩なようだ。
碧からの情報は、青堀神社では連れ去った四人が中心となって動いていることと、連れ去ったのがハクシンの指示では無い事。それと領域の安全を気にしていた、位か。
「明日、菅谷以外の三人にも接触したい所だな。敵意は無い事はアピールしておきたい」
「話だけ聞いてると、菅谷と称矢って子がハクシンに近いのかしら?」
「……そうかもしれないな。まあ、これ以上考えても仕方ないし、今日は寝るか」
そう言うと俺はポケットからスマホを取り出し、電源をつける。
「え、なんでスマホの電源入るんですか!?」
「モバイルバッテリーなんてどこにでも有るだろうが。食い物以外の事も考えろよ……」
「あ、そうか。乾電池式とかも有るんでしたっけ。でもなんで、今?」
「情報を忘れないようにメモしてるんだよ。……こんなもんか?荻菜さん確認してくれ」
俺は荻菜さんにスマホの画面を見せる。その画面にはメモが開かれているが、情報は書かれておらず荻菜さんへのメッセージだ。
『菅谷が聞いている可能性が有る。敵対に繋がるかもしれない危ない発言は避けてくれ』
荻菜さんはスマホを手に取り、何かを打ちこんでから俺にスマホを渡す。
「これが抜けてたわ」
『分かった。それと仕方ないから、私も暁門くんとは別で四人と接触するわ』
「ああ、悪い。これで大丈夫だな」
『深くは聞かないが、気を付けてくれ。危なそうなら三人で逃げるぞ』
俺が画面を見せると、荻菜さんは頷く。
「ええ、大丈夫」
そのやり取りを見ていたみどりは顔を顰めながら俺達を見る。
「えー……なんか二人、仲良くなってません?」
……どうやら碧はこのやり取りに混ざれなかったのが悔しいようだ。だが、こいつに話すとうっかり話そうで怖いな。
「そりゃ、仲間だし少し位仲良くなるさ。なあ荻菜さん?」
「……うーん。まあ、碧ちゃんが思ってるようなものじゃ無いわよ」
ん?それはどういう意味なんだ?
「灰間さんだし、無いかあ……」
「そ、暁門君だし無いわよ。寝ましょ」
そう言うと横になり始める二人。
何故か貶されているような気がするが……と言うか二人が寝たら俺が見張りか?荻菜さん途中で代わってくれるのか?
そして、碧はさっきまで寝てたから代われ、とも言えず……俺は一晩中、もやもやしたまま一睡もせずに見張りをする事となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます