第85話 青堀神社 2

 攻略を終えた俺達は、早瀬さんやビルの警備をしていた荻菜さん達と新たな領域へ移動した。

 早瀬さんは初めて見る光景に、周囲の様子を伺っているようだった。


「地下には食糧も有る。これで暫くは安心だろう」


 本来なら他にも支配する予定だったが、まずは早瀬の事を優先する。

 そこで荻菜さんが質問する。


「碧ちゃんの場所の目処は立ってるの?暁門君、孝君達に何か指示を出してたわよね?」


「ああ、橋の向こうの大きな施設の支配状況を見て来てくれと伝えたんだ。もし商業施設が支配されてないようなら、相手の実力も大した事が無い」


 もし早瀬を連れ去った連中の中に、サポートの付いている『ホープ』持ちが居る場合、能力は置いといても厄介な相手になると考えた。それに、相手が支配のランキングに乗り気なら、俺達を排除しようとするか、下に付けようと動くだろう。


 そこでもし早瀬に危害を与えていた場合、俺達との戦いは避けられなくなってしまう。だから、もし相手に考える頭が有るのなら早瀬は無事だろうと思っている。

 まあ、単純に少数で何も考えていない連中の可能性も無くは無いが……今は良い方向に考えたい。


「何か根拠でも有りそうね?……まあ、今は聞かないでおく。けれど、それでもし碧ちゃんに何かあったら私だって怒るわよ」


 荻菜さんはそう言うと、地下へのエスカレーターを降りていった。彼女なりに早瀬の事を心配しているようだ。まあ、俺達の中で女性は二人だけだからな……。

 そのまま俺はその場で時間を潰し、孝達の帰りを待つ。




 そして、孝達が帰ってきたのは昼過ぎ。俺はビル寄りの領域内で出迎えていた。


「暁門、帰ったぞ。その様子なら無事に攻略出来たみたいだな」


「ああ。何か食いたいだろうが、まずは調べた内容を教えてくれ」


 孝達も領域内に入り、そこで橋の向こう側の状況を聞いた。


「向こう側は魔物が少ないのか……羨ましい環境だな」


「領域自体はそれなりに有ったが、魔物の数は明らかに少ないな。だから、間違いなく誰かが倒していると感じた」


「……支配された領域は有ったか?」


「それが……何故か食料品を取り扱ってるような施設は手付かずだった。だが、一ヶ所だけ支配された所が有ったぞ」


 俺はそれを聞いて目を細める。


「……何処だ?」


「支配されてたのは……青堀神社だ。それに神社の周囲は明らかに魔物が少なかった。人数は分からないが、拠点になっているのは間違いないだろうな」


 俺はそれを聞いて、顎に手を当てて考え始める。

 俺はまだ神社を支配したことが無く、どれだけの難易度かが分からない。もしかしたらスーパーよりも難易度が低く、誰でも攻略出来る可能性も有る。


 ……この情報だけでは、相手の戦力を計るのには使えないな。


「そうか……だが、行ってみるしか無いだろうな。現状で手掛かりとなるのはそこだけだ」


「そうだな……と、その前に……『現状把握』」


 孝が突然能力を使い、その後に城悟に耳打ちをする。

 城悟は頷き、そのまま領域の外へと歩いていく。そこで——孝が突然叫んだ。


「城悟!右だ!」


 城悟は孝の言葉に反応し、体重を乗せた拳の一撃を何も居ない所に打ち込んだ。


「ガ……ッ!」


 すると、城悟が殴り付けた空間から一人の男が現れ、城悟の一撃により地面に叩き付けられる。城悟はそのまま倒れた男に覆い被さり、銃を持っていた右手を捻りあげる。


「いてぇッ!」


 男はそれに耐えきれず、銃を地面に落とす。それを近づいていた孝が蹴飛ばし、それから俺へと顔を向けてニッと笑う。


「暁門、どうやら情報源が自分からやって来たようだぞ?」


 姿を消す『ホープ』持ちか……?もしかして、姿を消していても孝の能力なら察知出来るのか。

 男は地面に押さえつけられながら、歯を食いしばっている。その様子を見ながら、城悟が話し始める。


「コイツ、橋の辺りからずっとつけて来てたんだよ。孝がそれに気付いて、拠点近くで捕まえようって提案したんだ」


 こいつも運が悪いな……かなり便利な能力にも関わらず、まさか弱点となる索敵系の能力者の孝に出くわすとは。


「クソッ!」


 男は悪態をつくも、城悟の腕力に負けており、全く身動きがとれないようだ。こいつ、魔物を倒して身体能力を上げて居ないのか?それともそれが分かっていない?


「取り敢えず……縛るか」




こうして……孝の手柄により、俺達は早瀬の手掛かりとなるであろう男を確保する事となった。

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