第86話 青堀神社 3
俺達は姿を消していた男を縛り上げて取り囲んでいた。
だが、男は目を合わせようとはせず、質問に対して無言を貫いている。俺は変わらないその態度に、ため息を吐いてから話し始める。
「これは時間掛かりそうだな……なあ、お前。領域内に入れるから名前だけでも教えろよ。じゃないと魔物に殺されるぞ?」
俺の言葉に男は戸惑った様子を見せる。この反応を見るに、こいつは領域について少しは理解しているように見える。
そして、男は命には変えられないと観念したのか、ゆっくりと呟く。
「……
「そうか」
俺はすぐに菅谷と名乗った男の領域侵入許可を出す。
「取り敢えず中に入るか。よっと」
城悟が菅谷を脇に抱え、領域内へと足を踏み入れる。一応大人の男なんだが、身体強化のお陰か持てるもんなんだな。
それから、俺達は建物内に入り菅谷を柱に縛り付けた。だが、相変わらず何も話そうとはしないので、俺は頭を悩ます。
そこに、城悟が菅谷の前に屈む。
「どうする?早瀬さんを助ける為だ。多少無理矢理でも良いんじゃ無いのか?」
城悟は体格が良く、顔が少し厳つい。城悟が前に居るだけでも、菅谷にとってはかなりの威圧感だろう。
実際、城悟の一言で菅谷の目が泳ぎ、動揺している様子が伺える。
——このまま、乗ってみるか。
「そうだな……仲間の危機だ。手段を選んでる場合じゃないな」
菅谷は俺に目を向け、目を見開いて口をパクパクと開ける。
「よし、じゃあ先ずは一発……」
城悟が右腕をぐるぐると回し始める。その顔は悪役の笑みそのままだ。口を割らせるので有れば、効果は的面だろう。
そのまま、城悟が一歩近づく。
「ま、待ってくれ!いや、待って下さい!」
菅谷が慌てて静止する。それに対して城悟は立ち止まり、菅谷に質問する。
「お、話す気になったか?」
「は、話します!だから、殴るのはやめて下さい!腕を下ろして……!」
城悟は腕を下ろし、菅谷を睨み付ける。
随分と折れるのが早かったな。……これでダメならどうするかを考えていたんだが。まあ良い、話す気になったのなら聞きたい事を聞いてしまおう。
「早瀬……連れ去った女だ。彼女は無事か?」
菅谷は頷く。
「は、はい!仲間達には言ってあるので、明後日までは絶対に誰も手を出しません!」
俺はその言葉に眉間に皺を寄せる。
「……明後日までだと?もし手を出したら、俺達と敵対することになるが……お前達はそれを理解しているのか?」
実際、武器や食糧を強奪され、既に敵対行動はされているのだが、俺はそこに関してはあまり重視していない。
だが、仲間である早瀬に手を出したなら別だ。もしそうなったのなら、俺は持てる力全てでこいつらとやり合う。最悪、殺し合いになっても構わない。
「ま、待って!彼女からはあなた達の情報を聞き出すだけのつもりだったんです!だから、脅しのつもりで……」
菅谷は失言だったと後悔したのか、慌てて弁解しようとする。
俺はその言葉に違和感を感じる。
「何で情報を集める?普通なら、生き残り同士協力しようと考えるんじゃないか?もしかして、領域について何か知っているのか?」
「そ、それは……その……敵意が有るかの確認の為に……」
他勢力の情報を集める理由が有るなら、そこと戦うつもりか、それともうまく利用しようと考えたか。
領域支配のランキングも頭を過ったが、それはまだ考えすぎか?だが、こいつらの中にサポート付きが存在する可能性も捨てきれない。
「う、うちの所のトップの方針なんです!さっき話に出てた青堀神社を取り仕切ってるハクシンって人が、他勢力を見つけたらそうしろって言ったんです!」
「他の勢力を見つけたら、情報を集めてうまく潰せとでも言ったか?」
「い、いえ……協力して生き延びる為に……」
分かったことは、こいつの言葉は信用出来ない。言葉のどれもが苦し紛れの言い訳に聞こえ、どれが本当の事なんだか分からない。
……コイツの情報は当てにせず、直接青堀神社に乗り込んだ方が良さそうだな。敵陣に行くから危険ではあるが、俺を有用だと思わせれば味方にしようと動くだろう。
勿論、敵対する素振りは自粛する必要はあるが。
「そうか。なら、そのハクシンって奴に会わせろ。直接話がしたい」
菅谷は考える様子を見せるが、暫くして口を開く。
「……分かりました。ハクシン様には俺から話を通します」
……ハクシン様、ね。
そうして、俺は明日菅谷と共に青堀神社へと向かう事になった。そしてその時に早瀬も救出する。
ハクシンとやらがどう出るかは分からないが……俺は誰かの下につくつもりは無い。向こうの対応によっては戦いも避けられないかもしれない。
……不安要素は多いが、やれる事をやるしか無い。これが、最善策かどうかは分からないが。
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