第84話 青堀神社 1

♦︎



 ——暁門達が商業施設の攻略を行なっていた頃。


 暁門達と橋を挟み向かいにある青堀神社の敷地内の倉庫に、一人の少女と四人の男達が居た。


「な、なあ……やっぱり無理矢理連れ帰ったのはまずかったんじゃ無いか?」


 そう言ったのは茶髪に髪を染めた高校生位の男。それに対して同年代と思われる黒髪で前髪で目が隠れた地味な感じの男が返す。


「お前も見ただろ。あれだけの武器を持ってる連中が、この場所を見つけたらどうすると思う?まず間違いなく力尽くで奪いに来るぞ?」


「で、でもよしのぶ。ハクシン様の機嫌を損ねたら……」


 忍と呼ばれた地味な男はため息を吐く。


「大丈夫、ハクシン様は分かってくれる。そんな小さい事で怒るような方じゃない。なあ、称矢しょうや


 そこに、称矢と呼ばれた茶髪で髪を逆立てた男が話に入る。


「……ああ。ここを守る為だと理解してくれる。追い出されたりはしないから安心しろ克也かつや


 そこで、丸い眼鏡を掛けた坊主頭の太った男が少女を舐め回すように見ながら口を挟む。


「だがしかし、この子は何も話してくれませんねぇ……」


「……玉男たまお、絶対に手は出すなよ?」

 

「僕はそんな事しませんよ。見た目で判断しないで欲しいな。でも、あのゴリラ女に殴られた所が痛いなあ。あれは見張っていた忍君の失態なんだし、何かしらで補填して欲しい所ですよ」


「……あれだけ速い奴を止められる訳が無いだろ」


 そんな会話をする四人を睨みつける少女。それは——ビルから連れ去られた、早瀬 碧だった。


 彼女は連れ去られてからずっと無言を貫いていた。そして、こうも思っていた。


(私が連れ去られたのは、情報を引き出すため。それに、この人達は便利な能力は有っても、戦いには自信がない。だから強そうな椿さんを避けて私を連れて行ったんだ……)


 碧がここに連れて来られる道中歩いて神社まで来たのだが、魔物が一匹も彼らを襲うことは無かった。橋で銃の試し撃ちをしていた時は普通であった事から、恐らく……敵から認識されないような能力を、あの忍という男が持っていると早瀬は考えていた。

 

(それにしても……まさか神社を支配しているなんて……。さっき話に出てたハクシンって人が『ホープ』持ちでボスを倒せるくらい強いの?)


 考え事をしている碧に対して、称矢と呼ばれた男が話し掛ける。


「そろそろ話してくれ。俺達は害が無ければ何もしない。お前達は何人居て、何故あんな銃を持っている?」


 碧は目を逸らし、沈黙を貫く。それに称矢はため息を吐いた。

 それを見た忍は碧に対してこう言った。


「おい女。期限は今日を入れて二日だ。二日位内に話さなければ、無理矢理口を割らせる。その時は……玉男、好きにして良いぞ」


 玉男はそれを聞いて卑下な笑みを浮かべる。


「ふむ。誠に不本意ですが……その時は、楽しませて頂きますよ」


 碧は奥歯を噛み締める。でも返事はせず、こう思った。


(二日有れば、きっと灰間さん達が見つけてくれるはず。勿論私を探していたらだけど……だ、大丈夫だよね?灰間さんが私に冷たいのは嫌われてるからじゃないよね……?)


 碧は灰間暁門と居た期間で、完全に彼を信用していた。友人の堅持城悟の時も、後でフォローしたように仲間には優しいのだと思っている。


(で、でも……何か不安に……)


 今までの対応から、優しく助けてくれるような想像は出来なかった。それを考えると頭に不安が過ぎる。


(いや、灰間さん信じてますよ!もしくはお父さん、皆を説得して助けにきて!)


 本来で有れば危機的状況にも関わらず、碧には以外と余裕があった。それは暁門を信じてるからか、それとも本人の楽観的な性格なのか……。


 そこで、忍が倉庫の外へと出ていくと、後の三人もそれを追った。そして、外から錠を掛けるような音が倉庫内に響いた——。





 外に出ると四人は二手に分かれ、忍と称矢は本殿の方へと向かう。


「……称矢、お前ならこの銃を持った相手に無傷で勝てるか?」


「無理だ。俺の『ホープ』で焼くにも、木製の矢が精々だろう」


 称矢の言葉に忍は舌打ちをする。


「チッ……せっかくの楽園を失ってたまるか。この後、俺は様子を探りにいくからな。その時はここを頼んだぞ」


「……ああ。忍、くれぐれも気をつけろよ?」


「まあ、それは俺の能力がありゃ大丈夫だよ。ほんと地味だが優秀だよ、『認識阻害ノンレコングニション』は」


 そんな話をしつつ、二人は本殿へと入って行き……その姿は見えなくなった。


 


 ——領域として既に支配されている、青堀神社。元は県内でも有数の神社で、平日でも参拝者で溢れていた。だが、今は本殿前も寂しく、逃げ延びた僅かな人達が数人座っているのみ。


 そして、そこを支配するのはハクシンと呼ばれる謎の人物。その人物は顔を隠し滅多に人前には現れ無いが、神社内に避難している人々から崇められるような存在となっていた。


 更にハクシンから命を受けて動く、四人の『ホープ』持ち。それが忍達だった。


 ハクシンの方針で暴力等は禁じられてはいるが……彼らも一枚岩では無く、見えていないところで何が起こっているかは知る由もなかった。

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