第83話 拠点 7
道中、爺さんと椿に犬の相手を任せてそのまま四階へ。
俺はそこで荷物を広げ、準備を開始する。すると、爺さんは周囲の青い犬を処理に向かった。
ボスとの戦闘中に乱入されると面倒だからな。爺さんも随分と攻略に慣れてきたもんだ。
「それで、ボスとの戦い方はどうする?」
椿が周囲に目を配りつつ質問する。俺は綺麗に銃を並べながら返す。
「そこの長い通路にボスを釣って、そこを俺がライフルで体力を削る。後は爺さんと椿が近接戦だ」
随分と大雑把だがこれで良い。俺の素人の腕でどれだけ当てられるかは問題だが、腕や脚にダメージを与えられるのが理想だ。流石に近づくまでに倒す事は考えていない。
「よし、これで良いか」
俺の横に並べられたライフルとショットガン。最初はライフルを使い、近付かれたら『
そこに爺さんが周囲の処理を終えたようで戻ってくる。すると、椿が口を開く。
「ボスの釣りは任せてくれよ。私の能力ならどんな奴でも追いつけない」
俺は椿の言葉に眉を顰める。
「大丈夫なのか?恐怖で足が動かなくなったら死ぬぞ」
椿は胸を叩き、自信に満ちた表情で返す。
「今度は大丈夫だ。昨日のように情け無い姿は見せないよ。それに、今はそんな事言ってられる状況じゃないのも分かってる」
「……それなら任せるぞ。椿……一応言っておくが死ぬなよ」
「ああ。それじゃ、行ってくる」
椿はニッと笑ってそういうと、ボスの元へと向かっていった。
俺はライフルのボルトを操作し、弾を装填してから構える。これはボルトアクションという、銃についたレバー(ボルト)を操作する事で弾薬の装填、排出を行うものだ。
……いかにも銃を使っている感じがして、俺はこの動作か好きだ。
そして俺が片膝をつき構えているライフルの性能。
ーーーーーー
兵器取扱説明書
武器タイプ/ライフル ウィンチェスターM70
特性/『威力』『銃弾肥大』
弾/標準(最大3発)
補足/なし
ーーーーーー
もう一丁は『威力』と『魔力弾』のもの。そして、ボスに有効な方にもっと特性を付与しようと思っている。
ライフルは俺の使っていた拳銃と比べ、威力が遥かに高いはずだ。俺の予想ではボスの皮膚を貫き、骨でなければ貫通してもおかしくはないと思っている。
狙撃には使いにくくなるが、遠距離での火力を考えるのなら『連射』も有りなのかもしれない。
構えながらそう考えると、角から曲がってきた椿の姿が見えた。どうやら彼女は恐怖を乗り越え、ボスを連れてきたようだ。
そして椿から少し遅れ、ボスの姿が見える。その姿は赤い毛皮の獣人で、体長は二メートルほど。その移動速度は椿よりも速く、その距離を詰めてきているようだ。
ライフルだがスコープなんて物は付いていない。だが俺はそれでも、二百メートル程度なら体のどこかに当てる自信は有った。
「暁門いくぞ! 『
椿がそう叫ぶと同時にその姿を消す。彼女の能力は一部の行動に限り動作、移動等を速くするもの。俺と戦った時、そして今のこの行動は、その能力で移動速度を高速化した事で姿を消したように見えたのだろう。
椿が姿を消すと、ボスは俺を目標に変更する。だが俺とあいつの間には、何一つ妨害するものは無い。
……ここまでやってもらって外したら、散々笑われるだろうな。
俺はそう思いながら口角を上げる。
そして——銃口の先をボスに向けて、俺はライフルの引き金を引いた。
ライフルから放たれた銃弾は、ボスの左肩へと当たった。貫きはしないものの、肩からは血が噴き出すように流れる。
俺はすぐに銃のレバー操作し銃弾を装填し直す。ただし、その動作のせいでまた構え直しになり、狙いもやり直しとなってしまう。
……これなら連射を付与して
まあ、今回の失敗は次に活かせばいい。俺はすぐに二発目を発砲する。今度は右の脇腹に当たり、小さくは無い傷を負わせた。だがタイムアップだ。ボスの動きが速く、もう一発は撃っている余裕は無い。俺はライフルを諦め、横に待機していた爺さんに向かって声を上げる。
「爺さん!」
俺の声と同時に、爺さんは刀を構えて俺とボスの間に立ち塞がる。俺はライフルを地面に投げ捨て、腰の拳銃を両手に持ち、ショットガン二丁を
そこで、爺さんがボスと交戦する。赤い獣人型のボスは爪による切り裂きで攻撃しようとするが、爺さんはそれを両手の刀で上手く流していく。
どんな攻撃だろうが見えているのだろうか。その反射神経は元々なのか、それとも魔物を倒したお陰なのか……。
暫く爺さんとボスの攻防を見ていたが、刀と爪で押し合う形になった。これなら……。
「行くよ!」
俺が指示を出す前に、椿は動き始めていた。ボスの側面から駆け寄ったかと思うと、『
椿はすぐにボスから離れると、椿が先程まで居た位置を、爺さんを弾きながらボスの爪が襲う。
「儂とやり合ってて余所見とはのう……」
爺さんが自身からボスの意識が離れたと分かり、その隙を付いてボスの右太腿を斬りつける。その斬り傷は浅いが皮膚で弾かれるような事は無いようだ。
ボスは慌てて二人から距離を取ろうと後方へと跳躍する。
俺はそれを察知し前に駆ける。そして二人に当たらない位置で、拳銃とショットガン、四丁を同時に発射した。
ショットガンの散弾がボス全体を襲い、『連射』拳銃の銃弾が次々とボスの体に穴を開けていく。
「グルォッ!!」
今回、ショットガンに付与したのは『威力』と『衝撃』。散弾一つ一つでは威力が低くて皮膚を貫けなくても、衝撃だけなら伝わる筈と思っての特性だ。
そして、俺の目論見は成功する。『衝撃』が付与された散弾により、ボスはその衝撃に耐えられず大きく体を退け反らせる。それは着地した直後の不安定な足元では、耐えられるものでは無かった。
ボスはそのまま後方へと倒れていく。そこを椿が二撃目で追い討ちをかけ、遅れて爺さんがボスの側面を斬りながら走り抜ける。
ボスはそのまま地面に倒れるが……地面に打ち付けられた反動を利用してそのまま体を起したようだ。
爺さんはボスの後方。椿は側面。俺とボスの間に邪魔する者は居ない。
……これは来るだろうな。
俺はそう思い、宙に浮かぶショットガンの弾をポンプアクションにより装填する。
「
そして、拳銃にも銃弾を補充。そこで、ボスが足で地面を強く踏み込む。
踏み込んだのが右脚だったからか、爺さんに斬られた傷から血が噴き出す。爺さんは利き足まで考えて斬ったんだろうか……?
ボスが地面を蹴り、そのままかなりの速度で突進し俺へと迫る。だが、踏み込みが足りないのか俺はそれを考えながら対応する余裕が有った。
俺は横に跳躍し、ボスの突進を回避。更にボスが通り過ぎる手前で、ショットガンをボスの至近距離で発砲する。
その衝撃で横に吹き飛ぶボス。これは、俺への追撃は無理だろうな。
横へ吹き飛ぶボスの背中を椿の能力により、速度と威力が増した強打が襲う。拳は背骨に当たったのか、何かが砕けるようなメキョッという鈍い音が聞こえた。
椿はまた一撃離脱。その空いた空間に爺さんが入り込み、両手持ちで強く踏み込んだ—— 一閃。ボスの背中は大きく切り裂かれ……ボスはそのまま地面に倒れ込む。
椿と爺さんが動いている間、俺はショットガンの兵器操作を止め、ライフルを二丁とも引き寄せた。
「
俺は両手にライフルを持ち、『連射』を付与して修復で弾を補充。そこで、妙案を思い付く。
ああ、そうか……兵器操作でボルトを引けば良いのか。
そう思い俺はすぐに実行する。すると、案外すんなりボルトを引いて戻す事ができた。よし、後は……。
「爺さん!」
俺の声で爺さんは後方へと跳ぶ。これで外しても当たることは無い。
俺は両手に持ったライフルの引き金を——引いた。
放たれた銃弾は計六発。それは、赤い獣人の頭を吹き飛ばすには充分な威力だった。周囲に血等が飛び散り……それは、ボスの最期だと告げているようだった。
ボスの体はそのまま前のめりに倒れ、すぐに消失を始める。
俺はそれを見ながら、ライフルを地面に置いて脇を摩る。
「いてて……」
俺はライフル二丁を持つため、銃床(ストック)を脇に抱えていた。だが、その反動が予想以上に大きくて脇が少し痛い。身体能力が上がって居なければ、骨が折れていてもおかしくは無かった。
「お、終わったのか?」
椿が恐る恐るボスに近づく。
「……ああ、椿は初めて支配する所を見るのか。ボスの体が消え始めれば大丈夫だ。ただ、二匹居る時もあるから注意しろよ」
俺の言葉に椿は頷く。そして暫く眺め、ボスが消えた場所にはやはり白い玉が残っていた。
……商業施設は白なのか?
そんな疑問を抱きつつ、俺は白い玉を拾った。そうすると、建物内の赤黒い色は消え、照明の無い普通の建物に切り替わる。
「わ!何だ!?」
「この領域が魔物から解放されて、支配状態になったんだ。これでここは俺達だけの物になる」
椿は驚いた顔のまま、周囲を見渡す。
さて……すぐに早瀬さんと荷物を領域内に移動するか。また他の連中に来られても困るしな。
そうして挙動不審な椿を置いたまま、俺は銃を回収してエスカレーターを降り始める。尚、爺さんは既に居ない。余韻も何も無いな……。
「あ、おい!待って!」
慌てて追いかけてくる椿。
俺はそんな椿に見えないように背を向けながら笑ったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます