第82話 拠点 6
それからも暫く探したが、結局見つからないまま捜索を断念した。そして、俺と爺さんは肩を落としながらビルへと戻った。
既に部屋の中には外へ出ていた奴らも戻っていた。そして驚いたのが、何故か椿の姿がある事。
「椿……何故お前がここに居る?てっきり早瀬とどこかに連れ去られたのかと……」
椿は申し訳無さそうに話し始める。
「アイツらが来た時、私は屋上に居たんだ。それで下が騒がしいと思って、部屋へと戻ったら……そこには三人の男達が居て、荷物は荒らされて、更に碧ちゃんを拘束していた所だった」
椿は話を続ける。
「私はそこでカッとなって、男達に襲い掛かかったんだ。けど……一人殴り飛ばした所で、背後から急に男が現れて、私に銃を突きつけてきて……それで動けなくて、アイツらが碧ちゃんを連れ去るのを見送るしか……」
四人組の男達だと?……他に、そいつらの手掛かりは無いのか?
「その後、せめて行き先を調べようと後を追ったんだ。でも、建物の外に出たらアイツらの姿は忽然と消えていて、魔物はそのまま残っていた状態だった」
「姿が消えた?」
俺の質問に対して椿は頷く。
「周囲を捜したけど、戦った痕跡は全く見つけられなかったんだ……まるで、瞬間移動でもしたかのようだった。私が付いていながら、本当にごめん……あんたが信用してくれて残したのに別行動するなんて馬鹿だった……」
椿は泣きそうな表情で俯く。それを見た俺には椿が嘘を言っているようには思えなかった。恐らくだが、強そうな椿は諦め、早瀬だけ連れ去ったのだろう。
……そいつらの目的は分からないが。
そんな事が出来るとしたら、『ホープ』によるものには違いない。椿の言うように瞬時に移動できる能力者だとすれば、相当厄介な相手となる。
もっとも俺達に危害を与えてくるとは限らないが、食糧を奪われた事、早瀬を連れ去った時点で敵対する可能性は高い。
だが……瞬間移動したなら、何故橋に魔石が残されていたんだ?他の奴が倒した可能性は有るが、どこか引っかかる。移動では無く、何か移動に関係した別の能力では無いのだろうか。
俺達はそれから話し合いを続けた。全員で早瀬を無理に探しても見つかる可能性は低く、更に食糧が奪われた事で備蓄が無くなってしまった。今日は我慢するにしても、明日には商業施設を攻略しなければならないだろう。
そこで、孝の班で早瀬の捜索。荻菜さんの班はビルからあまり離れない距離で魔物の討伐。そして、俺と爺さんで商業施設を攻略する……そう指示を出した。
「ねえ、私は?」
椿が俺に質問する。
「あのボスとやり合うんだぞ?怖がって動けないようじゃ、はっきり言って足手纏いだ。だから攻略は俺と爺さんでやる」
椿は戦力にはなるが、ボスに怯える可能性が有る。不安要素になり得るのなら、初めから居ない方が良い。少しきつい言い方かもしれないが、絶対に失敗出来ないからな。
「……もう大丈夫だから。私も攻略に連れて行って。必ず、役に立つから……私のせいで碧ちゃんが連れ去られたんだ……少しでも何かさせて……!」
椿は真剣な表情で俺と目を合わせる。
責任を感じているのは分かるし、それを挽回したいのも分かる。だが、今回の責任は俺が銃砲店に浮かれていたせいだ。もう少し考えて、拠点の防衛に人を残しておくべきだった。
「責任は人の配置を決めた俺に有る。だから椿のせいじゃ無い。それに、それで焦られて怪我でもされたらもっと状況は悪くなる」
俺の言葉に椿は考えるように黙り込む。
「分かったなら今回は……「もし私が怯えるようなら、見捨てても良い」
「……は?」
「焦っている訳じゃない。でも決めたんだ。もし、断られてもついて行く」
やる気が有るのは結構なんだが……。いや、これは言っても無駄か……今言い争っても仕方がないし俺が折れよう。
「……もし怯えて動けなくなったら、本当に見捨てるからな」
椿は表情を明るくし、ぎこちなく笑う。
「勿論それで良い!でも、絶対に役に立つから!」
俺は額に手を当てて溜息を吐く。
「荻菜さん、悪いが明日はビルに敵が来ないか見張ってくれ」
「ええ、良いわ。でも、暁門君は随分と振り回されるのが好きなようね。今度、私も断ってみようか?」
荻菜さんはニヤニヤしながら返事をする。勘弁してくれ。こうして嫌味で返すのは、あの日の仕返しか?……まあ良い。
今は安全な拠点と食糧を確保して、早瀬と奪っていった奴らの事はそれからだ。だが、俺達に手を出した事……絶対に後悔させてやる。
そんな俺の胸のうちは明かさないまま、話し合いを終えた。そして、残った僅かな食糧を分け合い……俺達は眠りについた。
♦︎
翌日の早朝から、各班に分かれて行動を開始。攻略組は昨日の通り、俺、爺さん、椿の三人だ。
俺達は渦の前に立ち、持ち物を確認していく。
……まあ、荷物を抱えているのは俺だけなんだが。
俺の装備は雑魚用の魔石銃、『連射』の拳銃、それにショットガンにライフル。それぞれ二丁ずつ持っているのでリュックがパンパンだ。もし次に能力が発展するのなら、収納系の能力をぜひ頼みたい。
「……それで戦えるのか?」
俺の格好を見て椿が呟く。椿の格好は金属のついた手袋を両手につけて、腰には予備装備の拳銃。服装は相変わらずジャージだ。
「四階までは爺さんと椿に任せる。それに、持ってくれたって良いんだぞ?」
「そ、それは……ほら、動けなくなると悪いし……それに、一応女の子だし?暁門、頑張ってくれ」
……いつの間に俺を名前で呼ぶようになったんだ。まあ、俺もそう呼んでるし文句は言えないのだが。それに椿の見た目じゃ女の子と呼ぶには……。
俺は何かを察した椿に睨みつけられ、考えるのを中断した。
「まあ、そう言う事で雑魚は任せる。椿も昨日あれだけ言い切ったんだし、期待してるからな」
「……私の失態を挽回出来るように頑張るから。それで、早く碧ちゃんを探しに行こう」
「早瀬は必ず無事に連れ戻すから、そこまで気にやむな。今はボスとの戦いに切り替えろ」
俺はそう声を掛けて、渦の中へと入っていく。目標は四階にいる赤い狼の獣人の姿のボス。
今回は時間を掛けていられない、すぐに終わらせてやる。
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