第81話 拠点 5

「さて……」


 作業台の上には破損したショットガンと、細かく分解されたライフル。俺はそれぞれ手を触れてから『武器修復ウェポンリペア』を使用した。

 すると、目の前には新品同様のショットガンとライフル。分解されていようが、ある程度の部品が揃っていれば修復は可能のようだ。


「よし!」


 新たな武器を入手した事で、俺は思わず声を上げて喜ぶ。そして、それを見ていた早瀬さんが銃を眺めながら呟く。


「ライフルはウィンチェスターM70。これはよく狙撃で使われていた有名な銃だね。ショットガンは……ベレッタなのは分かるけど詳しくは分からないな」


 確かにライフルはどこかで見たような形状をしている。名前も聞いたことは有るが、それ以上の事は分からない。だが有名所なら性能はそれなりなのだろう。

 ショットガンは銃口が上下二連になっている。早瀬さんに聞いてみたが、今はこの形が一般的なんだそうだ。両方とも今までの拳銃に比べたら強力な武器で、更に用途が違うことで選択肢は広まった。


 ライフルによる遠距離攻撃、ショットガンの散弾による広範囲への攻撃。これで、領域の攻略もやりやすくなるだろう。

 俺は今すぐに能力を付与して試したい所だったが、その思いを何とか堪えた。





 こうして新たな武器を手に入れ、俺達は銃砲店を後にした。そして、一時的な拠点としているビルへと帰還する。

 だが……ビルの入り口に到着すると、俺達はある違和感に気づく。それは、入り口を塞いでいた机等が脇に退けられたままになっていた事。

 俺達ならある程度元に戻してから上に戻るのだが……まさか、俺達以外の人間か?


 俺はその可能性に気付くと、城悟達を手で静止する。


「……俺達以外の誰かが来た可能性が有る。俺が見てくるから待ってろ」


 俺は三人を入り口に残し、一人で階段を登って行く。手には魔石銃を持ち、いざとなれば躊躇するつもりは無い。

 階段に登るが、特に人の姿は無い。そして休んでいた部屋に聞き耳を立て様子を伺うが、中からは特に物音はしなかった。俺は扉を音がしないようにゆっくりと開け……室内へと入る。


 そこで俺が見た光景は——荷物が荒らされ、中の物がばら撒かれているものだった。だが中には誰も人は居らず、俺は周囲の安全を確認すると、そのまま荷物を確認する。


「やられたな……」


 荷物の中で予備の銃や食糧だけが無くなっていた。明らかに人がここに忍び込み、荷物を物色していったようだ。

 それはまあ良い。だが、ここには討伐班では無い早瀬や椿が残っていたと思うんだが……何処へ行ったんだ?


 ——まさか。


 俺は急いで入り口に戻り、三人に指示を出す。


「俺達の留守中に誰かが荷物を盗っていったようだ。それに……早瀬と椿の姿が無い。城悟と早瀬さんは武器を持って部屋で待機。爺さん、俺と周囲を探すぞ」


 俺の指示にそれぞれ頷く。早瀬さんは不安な表情を見せるが騒ぐことは無かった。


 そうして、周囲の魔物を蹴散らしながら俺と爺さんは走る。俺達がビルを離れてから一時間半程度、魔物の居る中でそこまで遠くに行っているとは思えない。

 他に生存者が居るとしたら何処だ?商業施設の周辺は魔物だらけで人が生きている可能性は低い。だとしたら——。


「爺さん、万代橋の方へ行くぞ!」


 万代橋周辺ならマンションも有るし、更に橋の向こうには住宅地も。

 せめて、何かしらの痕跡だけでも見つける事が出来れば……!クソッ!こういう時に孝の『現状把握』が有れば探すのが捗るのに!


 何の手掛かりも無いまま、俺達は橋へと到着する。


「灰間の小僧、これを見ろ」


 爺さんが地面を指差す。俺がそこに目を向けると、そこにはいくつかの魔石が放置されていた。魔石は橋の先にまで点々と残され、それは誰かが橋を渡った事を意味していた。

 勿論以前に魔物が倒された痕跡の可能性も有るが、橋に魔物が殆どいない時点で倒されたのはごく最近か?


 流石に孝や荻菜さん達はここまでは来ないだろう。それに魔石は出来るだけ回収しろと伝えてある。だとすれば、第三者がここに居たんじゃ無いだろうか。


 目を凝らして橋の先を見るが、人の姿は無い。俺は思い通りにいかない事に、その場で奥歯をギリっと噛み締めて立ち尽くす。そしてビルを襲った誰かに、静かに殺意を覚えるのだった。


 

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