第73話 惨状の中で 3
目的地へと目指す俺達の前に、多くの魔物が立ちはだかる。
南口の魔物も確かに多かったが、こちら側の数は異常だ。十メートル進めば魔物が俺達を見つけて襲いかかって来るような状況で、進む速度が思った以上に遅い。目的地まで数百メートルの筈なのに一時間半以上も掛かってしまっている。
その原因だと思われるのは、ダンジョン化した建物の多さだろう。至る所でダンジョン化した建物が見られ、その領域が道にまで侵食している。
これを見ると……放置された領域はその範囲を広げていき、魔物が溢れ出すという考えは合っているのかもしれない。
そして戦いが続いているせいで、皆の疲労が溜まっている。俺や爺さんでさえ、疲れを感じ始めていた。
「なあ……どこかで休もうぜ……」
城悟は疲れきり、暗い表情で俺に話し掛ける。
「これだとどこの建物も魔物が入り込んでるぞ。目的地はすぐだ。そこに行った方が早い」
正直休ませてやりたいが、建物に入って休むにも中の安全を確保しなければならない。けれど皆の様子を見るに、集中力が切れている状況でこのまま進むのもな……。
「……仕方ない。お前達はここで待機してろ。俺が道中の魔物を減らしてくる」
そうして俺は単独で目的地へと向かい、道中の魔物を蹴散らしながら、一人で目的地の上へと到着した。
俺が目的地としたのは、商業施設の密集する区域にあるバスセンターの二階。そこは屋外で開けた場所になっており、かつてはイベント等が多く催されていた。そして今も何かのイベントを行う準備か仮設テントが並んでいる。
本当は余計なものが無い方が見渡せる分良かったんだが……。視界が悪すぎて一時的に休むのにも向かないし、ダンジョン化した建物と多くの通路が繋がり魔物も多い。
「しかも、よりによってここのホテルまでダンジョン化してるのかよ……」
ここバスセンターに隣接するホテルが有るのだが、俺の思惑と違いそこもダンジョン化していた。そのホテルを領域を攻略する上での拠点に考えていたのだが……。
この場所は四方をダンジョン化した建物に囲まれている。攻略さえ出来れば理想的な配置なのかもしれないが、流石にこの疲れた状況での攻略はしたくは無い。
「となると……」
俺は向かいに見える細長いビルに目を向ける。
入り口は狭く、魔物の侵入を防ぎ易い構造だ。悪くは無い、ホテルを確保するまで、そこを拠点にする事にしよう。
そうして俺はそのビルへと向かう。
——ビルの入り口に着くと、入り口は乱雑に椅子や机が積まれて塞がれていた。
……中に人が居るのか?
障害物にゴブリンや犬が入り込む隙間が無い事から、これを積んだ人物は魔物に殺されてはいないだろう。だが、食糧が無くて餓死した可能性も有るので、生存しているとは限らない。
俺は魔物に注意しながら障害物を退かす。そして人一人が入れるスペースを作り、俺はそのままビルの中へと足を踏み入れていく。
そうして中を詮索し始めた——その時。
「な……っ!」
二階の階段上から女性の驚く声が聞こえ、俺はそのまま目を向ける。
「魔物かと思ったら、あんた生存者!?」
階段の上から覗いていたのは、髪の毛が赤みがかった茶髪の気の強そうな女性。どうやら中の人物が生存していたようだ。
「……見ての通り生存者だ。君もか?」
俺が口調に気をつけながらそう返すと、女性が階段を降りてきて姿を見せる。その姿は長身の細身でジャージを着ているが、捲っている事で見えている腕は女性にしては筋肉が有るように見えた。
そして女性は何故か俺を睨み付け、口を開く。
「これは運が良いわ。持っている食糧を全て渡して」
その女性の上からの物言いに俺は首を傾げる。そして俺は返事をする。
「おいおい……いきなりなんだ?そんな風に言われて渡す訳が無いだろうが」
「良いから今すぐ渡してここから出て行って。じゃないと力づくでいくわ」
女性の言い方から察するに、相当戦いに自信が有るように思える。まあ、そうでなければこの環境で生き残ってはいないだろう。
もし腕が立つなら味方に引き入れるのも有りか?俺は女性に睨まれながらそんな風に考えていた。
……少し煽ってみるか。女性は何故か焦っているように見えるし、簡単に乗ってくるだろう。
そうして——俺はフッと笑い、女性へと声を掛けた。
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