第72話 惨状の中で 2

 俺達が立つ場所の、駅前の広場に降りる階段に次々と魔物が群がり始めた。

 俺達はすぐに銃による迎撃を開始した。階段上に居る時点で地形的に有利なのだが、あまりに数が多すぎて撃ち漏らし、近くまで寄って来る魔物が出始めた。

 そこで爺さんが先頭に立ち、抜けてきた犬を刀で斬り伏せる。


「抜けてきた奴は儂が仕留める!お主らは数を減らす事に集中しろ!」


 魔物の数は百どころでは無い。よくもまあこれだけ集まったもんだ。魔物が押し寄せる波のように見えるぞ。


 俺は『連射』を付与した魔石銃と、『武器修復』を駆使して銃弾を横薙ぎに放つ。だが死体が盾になり後続は少しずつ前に出てこようとする。

 エアガンの限界か。俺はやりようが有るが、仲間達を見ていると魔石の交換で多くの時間を取られているように思える。


 だが、辛うじて階段の中間を過ぎた辺りで魔物の波は途切れ、戦いに終わりが見え始めた。そして——最後の犬が倒れ、消失して魔石へと変わる。


「こ、怖かった……」


 その場にへたり込む早瀬達。


「ほら、何とかなっただろ?銃を考えた奴は凄いな」


 荻菜さんがそれに呆れた様子で返す。


「……流石に死ぬかと思ったわ。暁門君みたいにすぐに弾を補充出来る訳じゃ無いし、こっちは交換の時必死なのよ」


「マガジンを交換した方が早いんだろうが……魔石銃だとそれが出来ないんだよな」


 とは言っても、魔石が入る収納の蓋を開け、指で魔石を取り出し、新たに魔石を押し込むだけなんだが……。

 やはりそろそろ別な武器が欲しい所だな。サブマシンガン、ショットガン辺りに、今回は手榴弾でも有れば楽だったかもな。


 だが都合良く銃器を配備された機動隊がいる訳でも無い。むしろそんな連中がここに居れば、ここまでの惨状にはなっていないだろう。


 そして城悟と孝は背中を合わせて、荒い息をしながら座り込んでいる。二人とも仲違いしたってのに、完全に元に戻ってるな……。


 俺は皆に顔を向け口を開く。


「皆疲れてるみたいだし、このまま飯にでもするか?」


 俺はそう言った後に気付く。……おい、この惨状を眺めながら食うのか?


「流石に食欲ねえよ……」

「神経を疑うわ……」

「灰間さん、周り見て言って下さいよ……」


 ああ、俺もすぐに気付いたさ。それでもここで食えって言われれば食える自信は有るが。

 周囲からの冷たい目線を感じながら、俺は目指す方向へと目を向ける。この様子だと目的地に着くのにまだまだ時間が掛かりそうだ。何処かで一泊した方が良いかもしれないな。




♦︎



 その後俺達は領域外へと出て近くのビジネスホテルに入り、一泊する事にした。だがその中もロビーや廊下にまで魔物が入り込んでいた。どうやら完全に安心出来る場所は無いようだ。

 その後食事を取り、状態のまともな三部屋に分かれて休む事になった。俺と同じ部屋には城悟と孝。そして俺達三人は寝る前に話していた。


「なあ、人って一ヶ月程度で白骨化するもんなのか?」


 城悟は昼間見た骨だらけの状態に疑問に思ったようだ。それに孝が答える。


「夏場なら腐敗が進むから有り得るんだろうが……今の気温だとどうなんだろうな」


 そこで俺は警察署に向かう途中に見た光景を思い出す。


「恐らく、魔物が肉を食ってるんだろう。前にそんな光景を見たぞ」


「魔物も腹が減るのか?」


 城悟は首を傾げていると、孝が話す。


「仮に食事が必要なら、魔物が餓死してもおかしく無いんじゃないか?腹が減って弱った魔物、そんなもの見たことあるか?」


「……無いよなあ」


「俺も騒動が起きた初期では見た事が無かったんだ。だから不思議に思ったんだよ」


「後付け設定だったりしてな。まあ、無いか」


 城悟の言葉に思う所があり、俺は考える。


 人の死体が腐敗し、それで疫病が発生するなんて話は有った。

 そして、もしマスターとやらがそれを望んで無いとしたら……?確かめようは無いが、意外と城悟の言葉は的を得ているのかもしれないな。


 その後は他愛も無い話をしてから、見張りも兼ねて交代で眠る。

 だが、これといった事は起きないまま俺達は朝を迎え、各々のが朝食を終えてから支度をし、客室前の廊下に集まった。


「さて、さっさと目的地に着き、今日中に攻略用の拠点を見繕うぞ」


 俺の言葉に、まばらに返事が返ってくる。俺としてはもう少し纏まって欲しいんだがな……。

 俺は溜息を吐いて、やる気が無さそうに話を続ける。


「安全第一だ、怪我するなよ。それじゃ行くぞ」



 そうして、魔物の溢れる駅の北口での二日目。俺達は目的地へと向かい歩き始めた。

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