青堀神社
第71話 惨状の中で 1
篠崎さん達に領域を引き継いだ翌日、俺達は領域を離れ新潟駅へと向かい始めていた。
駅へと近づく程に人の骨は増え、異臭が漂う場所も有った。そして、それに比例するかのように魔物の数も増えていく。
駅前のタワーマンションの周り、そこでは十匹以上の魔物が群れとなっており俺達はそれを倒し終わる。
そこで俺は考えてしまう。流石にまともな武器も無しにこの数は対応出来ない筈だ。だとしたら、このマンションに暮らす人々は——。
俺はそこまで考えて頭を振る。全ての人なんて救えはしない。俺は英雄なんかじゃ無い。
「暁門……どうした?」
孝が心配し、声をかけてくる。
「いや……何でもない。このマンションにいつか住みたかったな、と思っただけだ」
「そう思っていたとは思えないが……まあ良い。それと暁門。駅に近づいて行っているようだが、どうやって駅の反対側へ行くつもりだ?」
駅のダンジョン化した領域は広範囲で、それは建物の無い線路にまで及んでいた。領域の切れ目を探すのはかなり遠回りとなってしまう。
「そうだな……跨線橋まで行くのは面倒だ。このまま線路を跨いで領域を突っ切るぞ」
俺の発言に、周囲は驚いて声を上げる。
「ええ……危険過ぎませんか?領域の外なのにこれだけ魔物が居るんですよ?」
早瀬はおどおとしながらそう言った。
「強力な武器を持った奴らが、これだけ集まってて何を怖がってるんだよ。駅の中に入れば強い魔物は居そうだが、外にいるゴブリンや犬なんて何十来ようが対応出来るだろ」
俺がそう言うと、同意してるのは爺さんだけのようだった。お前ら……もっと自信持てよ。
「それに、孝の『現状把握』が有るだろ。物陰からの奇襲なんて受けようが無い」
探索に関しては孝の能力はかなり優秀だ。そのおかげで移動速度は格段に早くなっていて、今まで危険な場面は一度も無かった。
「取り敢えず、連絡通路に行ってみよう。そこなら距離は最短だし、運が良ければ渦の範囲外かもしれないしな」
俺の言葉に周囲は渋々頷く。まあ、その連絡通路も明らかに領域内では有るんだが、通路なら魔物が密集していようが対応は簡単だ。
そうして——俺達は駅の領域内に入り、魔物を倒しながら連絡通路へと登る階段前へと到着する。
「……渦は無いな。このまま行くぞ」
俺を先頭に階段を登り、そのまま踊り場へ。そこにも数匹のゴブリンが居たが、俺はそれらを魔石銃で全て撃ち抜く。
踊り場の角を曲がれば、北口までは一直線。俺は角から顔を覗かせ、通路の先へと視線を向ける。
通路には、魔物が敷き詰められたかのように群れているのが遠目に見えた。だが……俺が想像していたよりは少ないかもしれない。
「これなら問題無い。横に広がって前に撃ちながら進むぞ」
そうして、俺達は絶えず銃を撃ち続けながら通路を進む。倒した数は百は超えていた。そして、横に伸びた乗り場へと向かう通路には渦が有った。どうやら乗り場と切符売り場辺りはダンジョン化していると思って良さそうだ。
渦を横目に俺達は進み、そして……俺達はやっと北口へと抜ける事に成功する。
だが——外に出ると、目の前に広がる光景に俺達は言葉を失った。
横転し、窓の割れた市営バス。駅の建物に頭から突っ込んでいるタクシー、それに正面からぶつかっている自家用車。地面には誰かの荷物が散乱し、その周囲には荒らされている骨と化した多くの死体。誰もが我先にと逃げようとしていたのだと察せる光景だった。
魔物が現れた時は昼前だった筈だ。学生は休みで、繁華街となる北口の駅前は多くの人々が行き交っていたのだろう……。
そして、それに加えて夥しい数の魔物達。そいつらの内の一匹が俺達の存在に気付くと、声を上げて叫ぶ。
……呑気に眺めてる場合じゃ無いな。
皆が動けないでいる中、俺は一歩前に出て両手の魔石銃を魔物の群れへと発砲する。
「おい、今は魔物を蹴散らすぞ。感傷に浸るのは後にしろ」
北口へと抜けた俺達を待っていたのは悲惨な光景だった。かつて人が行き交っていた駅前も、今では人が生きているのは絶望的な魔物の巣窟。
これが一体どこまで広がっているのか——。
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