第70話 支配順位
気が付けば、俺はまた真っ暗な空間に立っていた。俺の意識の中に来るのは何度目だろうか。
「ご主人様ああぁあー!!」
居なかった筈のトリセツが急に姿を現し、そのまま俺の胸へと飛びついて来る。そしてトリセツはそのまま頭を擦り付け始めた。
「おい止めろ!何してやがる!」
俺は力任せにトリセツの頭を引き剥がす。こいつの服、また変わってるぞ?何で今度は浴衣なんだよ。
「だって、あの女の誘いを断ったのはこのわたしを選んだからですよね!?この万能サポート、あなたのトリセツちゃんを!」
久々に聞いたなその言い方。万能とは聞いた覚えは無いが。
「いや、お前の事なんて全く頭に過らなかったぞ?それに、俺の中ではお前は敵だぞ」
トリセツは過剰な程に驚き、その場にへたり込む。
「な、何でですか!確かに指示は受けていますが、わたしご主人様の役に立ってるじゃないですか!! 防衛塔だってそうですし、『
「防衛塔は魔石の使い過ぎで使ってないし、『兵器操作』については、お前は移動の補助だけって言ってただろうが。 結局有効に使えたのは俺が思い付いたからだ。お前はサポートとして役に立って居ない」
トリセツはハンカチを口で噛み、悔しがる様子を見せる。どうやら俺に言い返す事が出来ないようで、反応で誤魔化しているようだ。
「はぁ……それより、何で今日なんだ?昨日無かったからてっきり今回は無いもんだと思ったぞ」
「ま、まさか、わたしに会いたかったんですか!?それなら毎日でも是非会いにいきます!」
「いや、絶対に止めてくれ。寝てる筈なのにお前が出てくると非常に疲れる」
俺は真顔でそう答える。
「ま、真顔で言われると、流石に悲しい……っとそうでした。昨日は少し呼ばれてまして」
一瞬、悲しそうな顔をしたトリセツが、ころっと表情を変えて普段の顔に戻る。
俺はそれに少しイラッとするが、時間が惜しいので口には出さない。
そして、突然トリセツの目から光が消え、淡々と話し始める。
「これは領域を一つでも支配している全ての方への連絡事項です。領域を支配された方も増え、そこでマスターが次の段階へと移行する事を決断致しました」
トリセツは話を続ける。
「それは、現在の支配ランキングの公開です。ですが、ランキングは自身が属する勢力のものしか確認する事ができず、他勢力の順位は公表出来ません。これは、公平を期する為なのでご了承下さい」
支配の順位付けとは言っていたが……こいつら、ランキングなんてものをつけ始めたのか。
「それともう一つ。今回のランキング期間はは丸一年。来年、四月一日のランキングにて順位を決定致します。 それと、一位にはマスターから報酬が頂けます。その報酬はマスターが実現可能なものであれば、何を望んでも構いませんが、一つに限ります。例としては、世界から魔物を消し去る事も可能との事です」
……マスターとやらが実現可能なもの?少し曖昧だが、世界を元に戻す事は可能という事か。
俺がそんな事を思うと、トリセツが心を読んだかのように返事を返された。
「全てを元に戻す事は、能力を超える為不可能です。あくまで、魔物を消す事だけです」
言っている意味が分からず、俺は質問する。
「魔物が消えるのであれば元に戻ってるんじゃないのか?一体何が違うんだ?」
「これ以上は答えかねます。マスターの許可が下りていません」
チッ……肝心な所は言わないのか。
そこでトリセツの目に光が戻り、雰囲気が変わる。
「……という訳です。だからご主人様頑張りましょうね!」
「いまいち腑に落ちなくて、頑張る気になれないんだが……」
「もし、今のこの世界が好きなら、他の事を望めば良いんですよ?魔物をご主人様の意のままにするとか、世界を滅ぼすとか」
「そんな事望む訳が無いが……だが、そうだな。俺がやりたい事は有るぞ」
トリセツが首を傾げる。
「それはなんですか?」
「そのマスターとやらに会って問い詰める。それに、そいつのせいでこれだけ苦労してるんだ……ついでに一発ぶん殴ってやる」
俺の答えにトリセツはフッと笑う。
「ご主人様……それじゃ二つですよ?」
「ついでだと言ってるだろうが。これ位のおまけ位は付けてもらわないとな」
「流石に、ぶん殴るとか言った人は居ないみたいですねー。マスターも苦笑してるようですよ」
「……そうか、お前はそいつと繋がってるんだったな。それなら、俺は絶対にお前の前に現れるからな、と伝えろ」
トリセツはそのまま考える様子を見せるが、暫くしてから溜息を吐く。
「四月一日を楽しみにしているよ、灰間 暁門君……だそうです」
「そうか。それなら少しやる気が出てきたな……トリセツ、お前の望み通りランキングとやらの一位を目指してやる」
「流石ご主人様!まずは役所を片っ端から支配しちゃって下さい!海外勢に出遅れた分、そこで頑張らないと難しいですよ!」
……それは言って良いのかよ。という事は、役所はポイントが高いのか?どうせすぐに確保するつもりだったし、構わないが。
「それで、今の俺のランキングは何位なんだ?」
「えーと……現在ニポイントで……日本では七位、世界だと六百三位ですね。未所属扱いになってるので、次までに名前を考えといてくださいねー」
「……」
俺は予想外の順位で言葉が出なかった。
「……ご主人様、どうしました?」
報酬は世界で一位なんだよな?六百以上の集団が上に居るのか?
「ええ、勿論です。ご主人様、世界で一位目指して頑張りましょうね!」
そう言って、満面の笑みを浮かべるトリセツ。
……こいつ、大変なのを分かって言ってるのか?それに、心の中を読むんじゃねぇ。
だが、言った以上やってやる。それにマスターとやらに聞きたい事が有るのは本当だ。世界一位という随分と大きな目標だが、俺の力ならやれる気がする。
「ご主人様かっこいい!惚れ直しました!『兵器作成』なら絶対にやれますよ!キャー!サイン下さい!世界一位の灰間さんよー!」
「適当な持ち上げ方するんじゃねえ!おい、マスターとやら!このポンコツサポートを替えろ!」
「えー?無理ですよぅ。そんな機能は有りませんねぇ……」
「それ……お前の言葉だろ。俺はマスターとやらに聞いているんだが」
「あ、今忙しいみたいですね。繋がりません。なのであなたのトリセツと一緒に、頑張りましょうねっ!」
「はぁ……」
俺は肩を落とし溜息を吐く。
「あ、時間ですね。それじゃ、また会いましょうね!ご主人様!」
そう言って、満面の笑みで消えていくトリセツ。俺はそれを呆れながらただ眺めていた。
そして体が目覚めるのか、意識が覚醒しようとしていくのを感じる。
まあ——やるだけやってみるか。
俺はそう思いながら、意識の中の黒い空間を後にした。
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