第68話 対立する者達 19
いつの間にか眠っていたのか、窓を見ると外が明るくなっていた。だが昨日の事は詳細に覚えてるし、どこか腑に落ちない部分も有る。だが忘れると言った以上、この件で荻菜さんに話を振るつもりはない。
俺が休憩室を出ると、すぐ隣の部屋で早瀬と荻菜さんが机に突っ伏しながら眠っていた。休憩室にはもう一つソファーが有ったが、俺が昨日近づくなと言ったので誰も使わなかったのだろう。
悪い事をしたか……と思ったが、俺は昨日早瀬がした発言を思い出す。
いや、やっぱり自業自得だな。早瀬が酔って変な事を言うのが悪い。俺はそう思いながら、昨日の宴会を行っていた場所へと向かった。
そして俺が宴会会場跡地に着くと、その場は酷い有様だった。酒瓶や缶、それに食べた後の容器が至る所に散らばり、そんな場所で男達は床に寝転がって眠っていた。ただ、爺さんはあれだけ飲んでいたにも関わらず、その姿は無い。
昨日の罰として後で早瀬に片付けさせるか。……それより、城悟の奴は領域の事を考えたのか?俺には潰れて寝ているようにしか見えないが。
酒瓶を枕にして眠る城悟。俺はその酒瓶を足で蹴って抜く。すると、枕を失った頭がそのまま床に落ち、城悟は後頭部を打ち付ける。
「痛え!」
その痛みで飛び起き、後頭頭を摩る城悟。俺は呆れながら話しかける。
「おい城悟、随分と気持ちよさそうに寝ていたようだが、領域の事は考えたんだろうな?」
城悟は俺と目を合わせる。
「何かと思ったら暁門のせいかよ……領域の事については、孝にも意見聞きながらちゃんと決めたぞ」
どうやら騒いでただけでは無かったようだ。それに俺は安堵する。
「なら、どうするか教えてくれ」
「おう。オレは——」
そうして、俺は城悟の方針を聞いていく。俺は任せると言った以上、それを否定したりせず相槌をうつ。
「——って方向で行こうと思う。な、なあ……これで良いと思うか?」
「俺に意見を聞いても仕方がない。これは城悟が避難所を後腐れなく去る為にする事だ。だから、お前が納得出来るかどうかだろ」
「分かっちゃいるんだがよ……」
城悟の表情は暗い。だが、その答えは俺の方針と似たようなものだった。
信頼出来る者二人を領域の権限を渡して管理してもらい、女子供はほぼ無条件、男は軽く話した上で働く気が有れば領域内に入れるかを判断する。
領域内での行動に問題が有れば忠告。更に忠告が三回蓄積した時点で領域を追放処分とされる。
魔石集めに関しては、希望者の除き男達で平等に交代制とする。
……子供は分かるが、城悟は女性に優しいんだな。何処かの俺の方針とは少し違うようだ。
管理する者達は、城悟や孝が一月以上も避難所に一緒に居たんだし、問題無いだろう。だが、結局は管理する者に魔が指せば、領域の運営なんて簡単に崩壊する。
俺がその人を見てから決めるが、今のうちに脅しておくのも効果は有りなんだが……。
そして——城悟と孝、それと孝の仲間達は説得の為に避難所へと向かった。中には二日酔いのやつも居たが、大丈夫か?流石に死なれるのは困るぞ?
城悟達に俺が付いて行かなかったのは、色々と問題行動もしたのも有り、反感を買う恐れが有ったからだ。
俺としては嫌なら学校に残れで良いと言ったんだが、城悟も孝もそれに苦笑いしていた。
それと昨日の誤解については、あの後爺さんと荻菜さんによるフォローが有ったそうで俺への誤解は解けた。
『灰間の小僧は威張っとるが、そんな命令を出すだけの度胸は無い。いざ言おうとしても、尻込みするのが目に見えとるのう』
……と爺さん。そもそもそんな命令しないからな?俺はそこまで飢えてないぞ。
城悟や孝が避難所へ向かった後、俺はレジの台に座り宴会の片付けをしている早瀬を見ていた。
早瀬が起きてすぐ彼女は俺に対して謝罪。そして平謝りしてくる彼女に、俺は怒る気も失せてしまった。そうして——片付けだけ指示を出し、今に至る。
「ふん、ふふーん」
鼻歌混じりにゴミを片付けている早瀬を見ながら、俺は考える。
俺と会う前、早瀬がどのように生きていたかは聞いた事がない。
だが『ホープ』に目覚めている以上、死を感じるような状況に陥った筈なんだが……それを微塵も感じさせない態度は演じているのか?もし素なので有れば、早瀬の精神力は鉄壁なんだろうが。
俺は早瀬が掃除している場を離れ、渦の外へと出る。外は五月の晴れ日で、気温が高くて暑く感じた。
これ程世界が大変な事態になっていても、所詮それは人間の問題。そんな事は地球には全く関係が無いのだろう。
それが少し寂しく感じるのは、人間である俺の勝手な思いなのかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます