第67話 対立する者達 18
休憩室に入りそこにソファーを見つけ、俺はそこへと横になる。戦いよりも最後の一悶着の方が疲れた気がするぞ……?
考えるのをやめ目を閉じようとした。だが、そこで休憩室の扉が開き、そちらへと目を向ける。
すると、休憩室へと入って来たのは荻菜さんだった。彼女は少し申し訳なさそうにしながら、俺へと近づいて来て俺の頭付近に立つ。
「暁門君、その……悪かったわ。少しやり過ぎたわ」
「……少しどころじゃ無い。俺への評価が駄々下がりだ。服を脱げと強制する鬼畜野郎に成り下がったぞ」
俺は寝ながら荻菜さんへと文句を言う。先程のお返しだ、これくらいなら許されるだろう。
「本当にごめんね。ねえ、少し話をしてもいいかしら?」
「会話なら、明日にしてくれ。今はそんな気分じゃない」
「ふうん……友達や柳さんにはあれだけ話すのに、私や碧ちゃんには素っ気ないのね」
「城悟や孝は昔からの友人。爺さんは一応師匠みたいなもんだからな」
「本当にそれだけ?」
「……何が言いたい」
俺は明らかに不機嫌な声で返す。
「暁門君、女性と距離を取ってるんじゃない?私の勘だと……誰か、好きな人でも引きずってるとか?」
……女の勘ってやつか?随分と的を得て来るもんだな。
「もしそうだとして、それがどうした?荻菜さんには関係が無い事だろう」
「否定はしないのね。ねえ……暁門君……」
荻菜さんが屈んで、俺の頭の上に顔を覗かせた。そして、長い髪を片手で抑える仕草をする。そして俺は荻菜さんと目が合う。彼女は、街でも見かけない程の美人で、スタイルも優れている。そんな女性を魅力的に思わない訳がない。
そんな荻菜さんとの顔が近いことに、俺は少し戸惑いそうになるが、無表情を貫く。
「その
その言葉に、俺の胸の鼓動が速くなるのを感じる。これは……誘ってるのか?
それと同時に荻菜さんからふわりと漂う甘い香り。その香りのせいで、俺の理性が壊されて行くような感覚を覚える。
「あなたが望むのなら良いわ。ほら……暁門君がいつものように私に命令すれば、私はそれを拒否出来ないわ」
そう言われ、自然と荻菜さんの体へと視線が動く。そして意識すればする程に、荻菜さんの魅力を感じてしまう。
俺は他の者と比べ、強い力を持っている。そんな俺を女性の方から誘って来てるんだ、少しくらい好きにしたって——。
普段なら絶対にしない考えが、この状況では浮かぶ。
そして、荻菜さんは俺の手を取り、自身の体へと引き寄せていく……。
「ほら……」
俺の手が、荻菜さんの体に触れようとしたその時——そこで、荻菜さんから漂っていた甘い香りが途切れる。
俺はハッと我に返り、すぐさま荻菜さんに掴まれた手を振り解く。
荻菜さんはそれに驚き、目を丸くする。
「流石に冗談が過ぎるぞ。今日の事は忘れる。だから、すぐに出て行ってくれ」
俺は体を起こしながらそう言い捨てる。
荻菜さんは俺の言葉に、フッと笑い、降参したかのように両手を上げる。
「……まさか、私が拒否されるなんて。こんな事は初めてね」
「悪いが……俺はまだ、気持ちの通いあった恋愛が好きな子供なんでね。打算的な関係は断らせてもらう」
荻菜さんは目を細める。
「ふーん……随分と強情なのね。後で後悔しても遅いわよ?」
「その時はその時だ。これから一生彼女が出来なくても、潔く諦めるさ」
「……それだけ想われてる
今は、か。
「きっとこれから先、もっと増えるわよ?暁門君の力なら、どんな手を使ってでも手に入れたいもの」
「……忠告には感謝しとく」
荻菜さんは右手の人差し指を唇に当て、話を続ける。
「いつか、どんな手を使ってでも、あなたの一番は貰うから覚えておいて」
……一番?それはどんな意味なんだ?
「はあ……これじゃ飲み直しね。それじゃ」
そう言って荻菜さんは部屋から出て行った。俺はそれを見届けてから、またソファに寝転がり直す。
……危ない所だった。一歩間違えば、俺も黒薙と同様のクソ野郎になっていた。
今回拒否したのは、何も沙生さんへの思いだけでは無い。警察署での一件で、俺は黒薙に嫌悪感を感じた。だが、俺の考えがそれと同じ事だと気づき、ギリギリの所で踏み留まった。
俺も男で、今回の件が惜しくないと言えば嘘になる。むしろ、そんな男なんて居ないだろう。
だが、荻菜さんの行動は黒薙の側にいた金髪の女子高生と同じなのだと思う。俺はその行動に恋愛感情等無く、打算的な感情を感じた。
それに……あの甘い香り。あの匂いを嗅いでから、正常な思考が出来なくなったように思う。まさか、とは思うが……これから注意した方が良いかもしれない。
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