第14話 暗い空間
——気がつけば俺は真っ黒な場所に居た。
そして、そこには俺以外に人の姿が有った。
金髪でリボンをした、目がキラキラと輝いている小学生くらいの女の子。それに、何故かメイド服を着ている。
俺は女の子に目を向けると、女の子は俺に気が付き、近寄ってくる。
その女の子は目に涙を浮かべて、開口一番に文句を言ってきた。
『何で、何であんな無茶をしたんですか!』
「君は……誰だ?」
『わたしです!ご主人様のトリセツです!』
「……ちゃんを付けないんだな。というかお前、そんな姿をしてたのか。いや、それよりも取扱説明書に姿がいるか?」
『今はそんな事どうでも良いんですよ!ご主人様、一歩間違えば死んでたんですよ!?それ、分かってます!?』
「その言い方なら、俺はまだ生きてるんだな……死ぬってのは、『
『それと何故教えていない『
「……夢で見たんだよ。妙に現実感の有る夢で、そこでは俺と沙生さんが戦っていた」
『沙生……あのご主人様を誘惑してる女狐ですか。やはり、早めに手を打たないといけませんね……と、それよりも。夢についてはわたしにも分かりません。でも何者かの思惑が働いている可能性が有ります。今後は!絶対に!私に相談してください!』
「沙生さんは優しくて美人で、弟想いの良い人だぞ?」
『チッ、完全に女狐に包絡されてますね。やはりご主人様は女性のそう言った所を重視するんですか』
「そう言った所?」
『胸ですよ、むーねー!女狐と話していた時に、何度もチラチラと見てたじゃ無いですか!きーっ!』
「な……!何を言ってんだ!俺はそんな事無いぞ!というかお前、全部見えてんのかよ!」
『わたしとご主人様は一心同体です!だから全部みえてますし、悪い虫が寄ってくるのを排除するのも大事なわたしの役目です!』
「止めろよ!お前はちゃんと取扱説明書だけやってろ!余計な事をすんじゃねえ!見るのも禁止だ!」
『ぜーったい嫌です!命令でも拒否します!』
トリセツは腰に手を当てて頬を膨らませる。
俺はその態度に呆れるしか無かった。
『でも……本当にご主人様が無事で良かったです。もしも拳銃に弾が一発でも入っていれば、反動で両腕が吹っ飛んでましたよ?』
「……今後は『
『ご、ご主人がわたしにデレた!やった!これで計画へ一歩前進!』
「真面目に言ってんのに茶化すなよ!もういい!それよりも、俺の腕は戻るのか?まさかこのままなんてことは……」
『それについては心配無用です!ギリギリでしたが、数日もすれば動くようになります』
「それなら良かった。なあ、トリセツ。俺が強くなるにはどうしたら良いんだ?このままじゃ、俺はすぐに死ぬ。そんな気がする」
『『兵器作成』はとにかく作るしか有りません。あれに近道も抜け道も無いです。ですが、能力が成長した事によって、魔石を使う事で条件を緩和したり、特性を増やす事が出来るようになりました』
「魔石はどうやって手に入れる?」
『え……ゴブリンを倒した時にたまに落ちてましたよ?小指の先位の小さな黒い石ですが、気付きませんでした?』
「いや、全く気付かなかった。……て事はゴブリンを倒す事で強力な武器が作れるって事か」
『そうです。でも……あれ?メモで言ったと思ったんですが、言ってませんでした?』
「……そんな事一言も書いて無かったぞ。お前、忘れてただろ」
『あっははー。まさか!このトリセツちゃんがそんな凡ミスをするとでも!?』
「メモの内容がいつも無計画で、文字数足りなくなってんのは誰だ?」
『う……そ、それは愛嬌という事で!』
「今の俺には愛嬌があるよりも、情報をちゃんと教えてくれるサポートが欲しいな」
俺はトリセツを軽く睨むと、トリセツは目を逸らした。
『いーやー!ご主人様が怖い!今度から気を付けます!わたしを見捨てないで!』
「はあ……交換出来ないから困ってるんだろうが。それより、現時点の情報で伝え忘れている事は無いか?」
『え、えーと。ま、魔物を倒す事で身体能力が上がる事については……説明しましたっけ?』
トリセツは恐る恐る、といった感じで俺に聞いてくる。
「おい……そんな事聞いてないぞ。それ、一番最初に言っておくべき、かなり重要な事だよな?」
トリセツは顎が外れそうな程口を開き、唖然とする。
『こ、こほん。では説明しますね』
「おい、忘れてた事を無かった事にするんじゃねえ!」
『あーあー!聞こえなーい!』
「おい!」
俺の言葉を無視し、まるで割り込む隙を与えないように、トリセツはかなりの早口で説明を始める。
『魔物を倒す事で人間は身体能力が向上します、ですがその差はほんの僅かで体感するには何十匹も倒してからになるでしょう。でも着実に動きは早く、力強く、体も丈夫になります。それこそ『
思い当たる節はある。スーパーへ向かうときも体が軽く感じたし、ゴブリン達の動きも以前より見えていた気がする。
トリセツがまだ『全弾解放』を教えなかったのは、俺の体が強くなるのを待っていた、って事か。
『こ、これでちゃんと説明しましたよ!あ、そろそろ時間だ!非常に残念ですがわたしはこれで失礼しますね!では、あ・な・た・の、トリセツちゃんでしたー!逃げろー!』
トリセツはそのまま逃げるようにフッと姿を消した。
「あ、おい!逃げるな!魔石の使い方の説明が中途半端だぞ!おい!トリセツ!戻ってこい!」
くっ……あいつ、怒られるのが嫌で逃げやがった。
——次に会った時は覚えてろよ。頭を鷲掴みにしてでも、絶対に反省させてやるからな。
その場に胡座をかいて座り、ため息を吐く。
「……で、俺はどうやってここから出れば良いんだ?」
俺は現実の俺が目を覚ますまで、一人寂しく黒い空間に取り残される事になるのだった。
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