第7話 警察署の避難民 1
変な夢のせいで気分が上がらないまま、俺は警察署へと向かう準備を終えた。普段なら徒歩三十分程度の道でしかないのだが、状況が状況だ。大変な行程になるのは間違いない。
俺は玄関を閉めて鍵をかける。自宅というのはやはり特別なんだろう。外に出るのが少し嫌に感じる。けれど決めたのは俺自身だ。
「……行ってきます」
次に戻ったときには、家族の誰かが戻ってきていますように——
♦︎
家を出発してから暫く。
俺は周囲の確認を怠らずに、ゆっくりと歩き続けていた。五匹のゴブリンと遭遇したが単体だったしここまでは順調。そしてもうすぐ警察署との中間辺りで、もうすぐスーパーが見えるはずだ。
様子を見てゴブリンの数が少なければ、食料をとりに行くのも悪くない、と考えていた。
スーパーはホームセンターと同じ建物内となっている。もしここが無事なら、道具も併せて色々と揃えることが出来る。
俺は建物の影からスーパーの様子を伺う。すると、そこには思いもよらない惨状が広がっていた。
2、300台は止めれる駐車場。そこに、ゴブリンの村が出来上がっていたのだ。至る所に人の死体が乱雑に積まれ、それを貪っているゴブリンも居た。
そんなゴブリン達の数は計り知れない。百匹どころではない気がする。
そして俺はスーパーの見た目にも異変がある事に気付く。以前は赤と白をベースにしていた建物が、黒と紫色に変化している。その雰囲気は異常で、見ているだけで肌がピリピリと痺れる。
あそこには絶対に近づいちゃ駄目だ。そう本能が警笛を鳴らす。
俺はすぐに様子を見るのをやめ、逆側へと走って逃げ出してていった。
「あれは何だったんだ……?」
ゴブリンの群れに関しても、スーパーの建物の雰囲気に関しても異常だ。
小説にある内容でイメージするのなら、ダンジョンか?まさか普通のスーパーがダンジョン化して、そのせいでゴブリンを引き寄せている?
そうだとしたら、街中に溢れていたゴブリンの数が減っているのも頷ける。
だが、集まったゴブリン達はどうなる?人間を狩る為に出てくるのか?それにダンジョン化したのだとしたら、きっかけは何だ?その範囲は広がっていくのか?
今考えても答えは出ない。だが、あれを放っておくのがまずいのは分かる。
——もっと強くならなければ。
俺はそう考えながら警察署への道を急ぎ、角を曲がれば警察署の通りという所までたどり着いた。
途中のコンビニに寄ったが食べ物は腐っているものを除き、全てなくなっていた。もしかしたら避難している人達が回収したのかもしれない。
角を曲がり、通りにゴブリンが居るかを確認する。すると、二匹のゴブリンが警察署の方向へと向かっているのが見えた。
俺は銃を準備しつつ背後から近寄っていく。
いや、待てよ?
俺は銃を全てリュックへと仕舞い、鉄パイプを手に持つ。出来れば俺の『
「出来たら接近戦で戦いたくは無い。警察署の人達が倒してくれれば良いんだが」
俺は物陰に隠れながらゴブリンを追う。ゴブリン達はそろそろ警察署前。もしそこに人が居るなら反応するか?
次の瞬間、俺の予想通りにゴブリン達が騒ぎ始め、警察署へと駆け込もうとする。だが二匹とも門の所で何かに貫かれ、その場に倒れ込んでいく。
人が居るのは確定か。それに加えて最低限の戦力は有るみたいだな。
俺はゴブリンが消えたのを見届け、警察署へと向かった。
そして、警察署の門前に到着する。警察署には横にずらせる門が有り、門以外は柵に囲まれている構造になっている。ただ、この事態に備えてなのか、門や柵には有刺鉄線が巻かれていた。
敷地内には二人の男性。一人は警察の制服で、もう一人はワイシャツにスラックス。どちらも30~40歳に見える。
手には鉄の棒を鋭く削った槍。どうやらこれでゴブリンを貫いたようだ。
俺は門の前まで来ると、二人に話しかけた。
「あ、あの、すみません。ここに避難所が有ると知って、魔物から逃げ回りながら何とか辿り着いたんです。良ければ保護していただけませんか?」
俺の言葉に対して、二人は全く逆な反応を見せた。
「良くここまで辿り着いたね。本当に無事でよかった。今門を開けるから、すぐに入りなさい」
そう言ったのは警察の制服を着た男性。
「……チッ。また使えなさそうな奴が増えた。ただ飯食らいはもういらねぇってのによ」
眉間に皺を寄せ、悪態をついてきたのがワイシャツの男性。いきなり喧嘩腰は無いだろ。これ、早速帰りたくなって来たぞ……。
門を開けてもらって中に入ると、警察の制服を着た男性が話しかける。
「悪いけど私達は警備中でね。ここを離れる訳にいかないから、中に入って誰かに声をかけてもらえるかな?」
「分かりました。ありがとうございます」
俺はそう言って立ち去ろうとすると……。
「……チッ」
後ろからまたワイシャツの男性の舌打ちが聞こえ、俺はこれからの避難所生活に不安を感じるのだった。
警察署内へと入ると、複数の人の姿が見えた。警察の人には見えないので恐らく避難民なのだろう。
その中でも女子高生と思われる三人。そこに緊張感は全く無く、それぞれが笑いながら会話をしている。
「だからさー、この騒ぎが終わったら服買いにいこうよー」
「イイねー今あそこの店セール中でしょ?なら親から金たからないと」
「わたしバイトできなくて金欠だからパスー。おごってー!」
……会話を聞いていて目眩がした。コイツら外の惨状を知らないのか?
「でも、マジでヒマだよね。スマホも充電きれるし、外行ってる連中は漫画とか充電器持って来てくれないし」
「それさーホントあり得ないよね。避難者に暇つぶしくらいの準備しろっての!」
「まともに飯も取ってこれねえんだから、それ位持ってこいって!キャハハハ」
額に青筋が浮かぶのが分かる。正直、ぶん殴ってやりたい。それか警察署の外に投げ出して状況を嫌というほど理解させてやりてぇ……。
お前らに外に出て食料を取ってくることがどれだけ危険で怖いかが分かるのか?いつ殺されるかも分からないし、周囲には人の亡骸。その危険を犯して外に出てるってのに、こいつらは。
俺は気がついたら女子高生の集団へと向かって歩いていた。
もう避難所の状況は分かった。状況は思った以上にクソだ。こんな所に居るだけ時間の無駄。なら、こいつらに嫌味の一言でも言って、すぐに家に帰ってやる。
女子高生の集団の前に立ち止まると、俺は口を開く。
「おい、おま「あれ?暁門くん?」……えっ?」
突然背後から声をかけられたことに驚き、俺は情けない声をあげた。女子高生達は俺に対して訝しむ視線で見ている。
俺は女子高生達を気にせず、声のした背後へと振り返る。
そこには——。
俺よりも一つ年上の幼なじみで、初恋の相手。
そして——口元にホクロが有る、俺が夢の中で戦い、殺した相手。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます