第6話 夢
——翌日。夜は死体を見たせいか悪夢を見た。お陰で寝起きは最悪だった。あの光景は暫く忘れられそうに無い。
俺は避難所となっている警察署へと向かう事を決めた。第一目標はあくまで警察が使う本物の銃を触る事。
避難所に関しては状況を見て、すぐに去ろうと考えている。ただ数日は居座る可能性が高く、自宅とは暫くのお別れだ。
「『威力』と『石弾』を付与した『銃』を」
また同じ銃の作成。これは消費した弾の補充だ。コンビニに行っただけで15発も石弾を使っていた。
これから節約も考えないとダメだが、近接武器はまだ自信が無い。
新品の銃を二丁。以前使っていたものはマガジンだけ抜いて家に放置。準備はこんなものか?
後は作成回数が復活する明日の朝に出発だな。
そこで、地面に落ちている紙が目に入る。
「あれ?メモが三枚?って事はまさか」
俺はすぐにメモを食い入るよに眺める。兵器取扱説明書は要らない……とこれだ。
ーーーーーー
能力取扱説明書
パンパカパーン!ご主人様、能力が成長しましたよ!おめでとうございます!わたし、トリセツちゃんです!忘れて無いですよね?
ーーーーーー
「あ、あぁ……そう言えば」
ーーーーーー
忘れてるとか酷くないですか!?わたしを便利で都合の良い女だと思ってません!?悩んでるご主人にアドバイスしたのに!ひどいです!
ーーーーーー
「あーそう言えば、石弾なら作れるってアドバイスくれたな。それより、ホープについての補足は無いのか?」
ーーーーーー
ありがとうくらい言ってもバチは当たりませんよー。ほれほれ、さあ!とまあ冗談はさておき!いや、本気ですけど置いといて!
今更タイプとか特性についての説明なんていります?ご主人様の察しがとても良いので、説明省きましたよ!決して文字数とか、忘れてた訳では無いですよ!本当に!
ーーーーーー
「……忘れてたんだな」
ーーーーーー
さ、さて、ご主人に言いわす……じゃないお得な情報です!実はご主人様の作り出した兵器には、安全装置が付いています!ご主人様が自分の兵器を奪われて殺されるような事を防げるんです!
ーーーーーー
「おい。誤魔化すな!それに言い忘れって言いかけてるじゃねえか!」
ーーーーーー
安全装置についてー。もし、ご主人の武器でご主人様を狙った場合、なんと!武器が爆発します!爆発、おほー!
銃なら弾が発射される前に爆発するので安心ですよー。これ、トリセツちゃんが考えたんです!ほめてほめて!
そして、あ、今回文字数少なっ!それと今回成長した事で出来る事なんですが作れる兵器のランクが上昇しましたそれと魔石を使って
ーーーーーー
「おい!また文字切れかよ!しかも最後駆け足過ぎるだろ!それに、魔石ってなんだよ!何に使うんだよ!謎を逆に増やすんじゃねえよ!」
メモに怒鳴っても追加のメモが来るわけは無く、結局俺は胸にモヤモヤしたものを抱えることになったのだった。
そして、今日はこのまま明日までやる事が無い。ラジオをつけるも、何も聞こえずザーッという音だけが響いた。ラジオの電波も駄目になったのか?
そこで消費を抑える為に今まで電源を切っていたスマホの電源を入れる。画面はついたが電池のマークは既に赤く光っている。
俺は写真のフォルダを開く。あまり写真は多くはなく、あっても友人達との写真がほとんど。そこで気がついた。
「……家族の写真、一枚も無いんだな」
思春期の男なのだから普通なのかもしれないが、それに少し寂しく感じてしまった。
「アルバムでも漁るか。いつの写真か分からないが」
アルバムの中から五年も前の家族写真を見つけ、大事にリュックへとしまう。俺は心の中で家族を探す為の写真だ、と言い訳をする。勿論そんな言い訳なんて無駄だとは分かっていた。
けれど言い訳する事で、会いたい気持ちが誤魔化せた気がした。
「……もっと強くなったら、絶対に探しに行くから、待っててくれよ」
自宅で一人、そうポツリと呟いた。
♦︎
——その日の夜。俺は夢を見た。
昨日見た悪夢では無い。
気がついたらハッキリとした意識の中で、戦いが繰り広げられる光景を眺めていた。
戦っているのは様々な武器を駆使しながら魔物や人を屠っていく、今よりもかなり目つきの悪い、俺。
夢の中の俺は、漫画に出てきたようなパワードスーツに身を包み、ライフルのようなレーザーガンを両手に持ち、周囲には小さなドローンが10体以上飛び回っている。
レーザーガンの太い光線が敵をなぎ払い、残った敵をドローンの光線が撃ち抜く。
その光景は、子供の頃に見た人型ロボットの戦いそのままだった。
「凄いな……」
俺は暫くその戦いに目を奪われていた。行われているのは完全に一方的な虐殺。そしてそれを行なっているのは夢の中の俺。
——いや、俺だけじゃ無いな。俺に巻き込まれないよう、距離を取って戦っている人々も居る。立ち位置を見るに連携が取れているし、仲間なのだろう。
正直羨ましかった。今の俺には仲間なんて居ない。いつかこんな風に信頼出来る仲間が出来るんだろうか。
けれど、仲間の装備に比べると俺のこれでもかという重装備が目立つ。元々俺を中心に戦う戦略なのか?いや……これは違う?
夢の中の俺も臆病なのだとしたら、戦いが怖くて装備に頼らなければならないんだと思う。その結果が異常なまでの重装備なんじゃ無いだろうか。
もしもこの夢が未来なら、俺の根本は変わらないのだろう。どれだけ強くなろうが、怖いものは怖い。圧倒的な強さの夢の中の俺でもそれは変わらないんじゃないか?まあ、憶測でしかないのだが。
それと、相手となっている数百の魔物と人。その動きは雑で、とても意識があるようには思えない。人も魔物も顔は血色が悪く、青白い。
「ゾンビ、か?」
夢の中の俺はゾンビを操る敵と戦っている?だとすれば、操っている本体はどこに——
「……居た」
視線を移すと、ゾンビ達の群れの奥、そこに戦いを眺めながら冷酷な笑みを浮かべている女性。
まさか、相手は人なのか。何故人同士で戦っているんだ?
俺の疑問なんて関係なく、夢の中の俺とその仲間達がゾンビ達を消し去っていく。だが劣勢でもゾンビを操っていると思われる女性の表情は崩れない。そしてふと俺はその女性の顔を見て既視感を覚える。
「この女の人、どこかで見たような……」
女性の顔には、口元にホクロがあった。その特徴を見ただけで俺の記憶と繋がった。
「まさか……
何で夢の中の俺と沙生さんが戦っている?沙生さんを倒す理由なんて無いはずだ。俺なら一緒に——
そこで夢の中の俺がゾンビをほぼ倒し終え、沙生さんの前へと到達する。そして、夢の中のおれが次に行った行動は、沙生さんに銃を向けること。
「おい!何でだよ、やめろよ!俺だとしたら沙生さんに好意は有っても殺す理由なんて無いはずだろ!?」
夢の中の俺が沙生さんに話しかけているが、それは俺には聞こえない。沙生さんはその言葉を受けて、優しく微笑む。そして何かを受け入れるかのように両手を広げた。
「おい、やめてくれ。やめろ、なんで……っ!」
俺は止めようともがくがその場を動くことができない。沙生さんに手を伸ばしてみても、その距離は遠い。
夢の中の俺は目を伏せて、何かを呟く。すると右手に持っていた銃が塵となり、代わりに巨大な光線が発射されていく。
その光は目の前全てを消失させながら進み、微笑んでいる沙生さんへと——
そこで、夢の中の光景は終わり、俺の視界が暗転する。
……夢の中の俺が最後に呟いた言葉。それが聞こえたような気がした。この夢はそれを伝えたかったのか?
だとしたら、もっと違う光景にして欲しかった。初恋の人が俺自身に殺される夢なんて見たくなかった。最悪な光景だ。
夢の中の俺が最後に呟いた言葉、それは——『
♦︎
目を開けると、そこはいつもの自分の部屋。頭を置いていた枕が濡れているのは涙か?
まるで現実のような夢で、起きた今もまだハッキリと光景を覚えている。
夢の中の俺が使っていた装備に仲間達。そして、変わっていた沙生さんの姿とその最期。
これは夢でしか無い。もしもあれが未来の俺ならこんな事にはならない筈だ。決して……夢のようにはならない。
そして、夢は何故『
妙に現実感の有る夢、それを見た俺の胸の中には……大きな蟠りだけが残ってしまった。
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