第5話 外の世界
入り口からコンビニの中の様子を伺う。まだ何かを漁るような物音はまだ続いているが、音の発生源は入り口からでは見えない場所のようだ。
もしもそれが人なら良いが魔物だった場合、狭いコンビニの中での戦闘は避けたい。そこで俺は中へと声を掛けてみることにした。
「おい、中に居るのは人か?」
俺の声が聞こえたのか物音が止まるが、返事は無い。
「人なら返事をしてくれ、じゃないと誤って攻撃してしまう」
——これでも返事が無いという事は。
俺は入口に向けて二丁の銃を構えたまま外へと後ずさる。
そして暫くした後、棚の間から出てきたのは緑の体。ゴブリンだ。
「ギギャッ!」
ゴブリンは声をあげながら俺との距離を詰めようと迫る。
俺はすぐに銃を撃つ。一発目は外れた。
でも大丈夫だ、落ち着いている。
狙いは出鱈目だが俺は銃を連射する。二発目がゴブリンの肩へと当たり、三発目は脇腹に。
石弾の威力は思った以上で、ゴブリンの皮膚を貫き血が吹き出している。だが、倒れるまでは油断出来ない。
そして四発目。石弾はゴブリンの頭へと着弾し、ゴブリンはそのまま後ろへと倒れていく。
そのまま様子を見るが、ゴブリンは動く事はなかった。周囲の様子を伺うも、ゴブリンが集まってきた様子は無い。
俺はコンビニの中へと入ろうと、一歩店内に足を踏み入れる、が。すぐに足を止めた。
……待て。何で一匹だと決めつけてるんだ。
俺は一歩後ずさる。——すると。
「ギャッ!」
突然、一匹のゴブリンが棚の上から俺に飛びかかろうと跳躍してきた。
「——ッ!そこまで考える知能が有るのか!」
俺は両手の銃をとにかく乱射する。たとえデタラメに撃っても近ければ当たる。
ゴブリンの至る所に石弾が当たり血が噴き出す。けれどゴブリンの手が届きそうな距離。考える前に体が動き、俺は後ろへと跳躍した。
ゴブリンは地面に崩れるように着地。身構えたがそのまま動く事はなかった。
「だ、大丈夫だよな?」
怖いので倒した二匹の頭をもう一度撃っておく。俺は臆病なんじゃない、慎重なんだ。
その後、声を掛けたり店内を見回すもゴブリンの姿は無かった。コンビニは無事制圧出来たようだ。
そして、店内には二つの人の死体。一つの死体には特に変なところは無かったのだが、もう一つ、棚の間にあったゴブリンの居たと思われる辺りの死体に違和感があった。
……死体の腹が食われている?
ゴブリンの行動は、人を殺す事を目的として動いていた。ただ殺した後に何かをするわけでは無く、人を食べる事も無いとの情報だった。
けれど、これは明らかに……。
「うぷっ……もうダメだ、限界。早く食糧を探そう……」
死体なんてもの、そんなにすぐ慣れるわけが無い。正直かなり吐きそうだ。
♦︎
俺は何度も吐き気を催しながら、食糧や飲み物をかき集めリュックに詰めた。だが思った以上に食糧は少ない。カップ麺や缶詰数個だけ。これは、ここに食糧を取りに来ている人がいるって事だろう。
もっとも騒動発生から10日以上。パンや弁当なんて異臭を放っていたし、無事な食べ物の方が少ないのだが。
「……すぐにスーパーにいく必要が有りそうだ」
俺は肩を落としながら、コンビニの外へと出ようとする。
「おい」
突然入り口の方から声がして俺は身を硬らせ、おそるおそる棚から顔を出して覗く。
コンビニの入り口近くに立っていたのは金髪と坊主頭の青年二人組。金髪の青年はこちらを睨みつけ、坊主頭の青年は周囲を確認している。
……あまり、友好的じゃ無さそうだな。
俺は離れたまま金髪の青年に声をかける。歳はあまり変わらなさそうだが、制服着てるしし俺の方が上だろう。
「君達も生き残り?もしかして、ここの食糧を持って行ってたのは君達かな?」
「そうだ。だからこのコンビニの食糧は俺らのもんだ、だから今集めた食糧を全部渡せ」
おい、ちょっと待て。おかしいだろ!
「いや、君このコンビニのオーナー?」
「んなわけねぇだろ。さっさと寄越せよ」
俺が必死になってゴブリン倒したのにそれはねぇだろ。少しイライラしてきた。
「じゃあ渡す訳が無い。俺も食糧が必要だ」
「ハッ!テメェも殺されたいのか?そこで死んでるやつみたいに、よ」
その言葉に、俺は声を詰まらせてしまった。
「君が、この人を殺した?」
俺はまだ彼の言葉が信じられていない。
だが金髪の青年は笑い、こう話した。
「ああ、俺が食糧を渡せって言っても聞かなかったからな。家族の食糧がどうのこうの、うるせえんだよ。そんなの俺が知るかっての」
金髪の青年は腰から何かを取り出して右手に持つ。その手には、包丁。
「食糧を渡せば見逃してやるよ。ゴブリン達がきちまうだろ。ほら、さっさと寄越せ」
殺す必要があったのか?食糧を奪うだけでよかったんじゃ無いか?まだ少しだけど残ってただろ?分け合えば良かったじゃねぇか。
——それとも、この考えはただの偽善で俺の考えがおかしいのか?
「おい、何黙ってやがる!早くしろ!」
生きてるのはこんな奴らばかりなのだろうか?だとしたら、もう世界も終わりだな。
「なあ」
俺は金髪の青年に声をかける。
「ああ?」
「助け合うって考えは無いのか?」
俺の言葉に金髪の青年は額に青筋を浮かべる。
「こんな状況で何言ってんだ?自分が生きる為なら、何したって良いだろうが!」
ああ、コイツも俺と同じか?けど、何か一緒にされるのは癪だな。俺はまだここまで堕ちてはいない。
俺は額に手を当ててため息をつく。
「はあ……」
「おい、何ため息ついてんだよ!マジで苛つくわ、もういい。死ね!」
金髪の青年が包丁を構えて襲い掛かってくる。
多分、同族嫌悪だな。俺もだから。
俺は銃を地面に捨て、右手で鉄パイプを持つ。これは短めで衝撃を付与したものだ。
そして俺は包丁目掛け、鉄パイプを振るう。
金属同士がぶつかり合う音——そして、衝撃に負けた包丁が、コンビニ外へと大きく吹き飛んでいく。
「……は?」
あり得ない事態に唖然とする金髪の青年。俺は構わずにそのまま胴を突くと、金髪の青年は大きく吹き飛び入り口付近へと戻される。
「ゲホッ」
金髪の青年は血を吐きだす。それを見た坊主の青年が駆け寄り、叫ぶ。
「お、おい!大丈夫か!?てめぇ!何してるのか分かってんのか!」
「俺は自分の身を守っただけだろ。少なくともお前らよりはマシな理由だと思うんだが」
俺は捨てた銃を拾った後、長めの威力付与の鉄パイプへと持ち替える。そして鉄パイプを引き摺りながら二人へと近づいていく。
「や……やめ……」
まだ起き上がれない金髪の青年の顔が恐怖に歪む。
そして坊主の青年が包丁を両手で構え、立ち塞がろうとする。
——それを見て、俺は鉄パイプで地面を思い切り叩き付けた。
割れる地面、飛び散る破片。普通ならあり得ない程の威力だ。
「ヒィッ!」
それを見た坊主の青年は握っていた包丁を取り落とす。
俺は二人に届く所まで近づき、鉄パイプを振り上げる。
「「うわあぁぁっ!!」」
叫び声をあげて顔を隠す二人。
俺はそのまま鉄パイプを振り——下さなかった。そのまま二人を放置して脇を通過し、コンビニの外に出る。
……こんな事で手を染めるつもりは無いな。少なくとも今は、まだ。
俺はそのまま道中のゴブリンを二匹倒しながら家への帰路についた。
あれだけ騒いだんだ、コンビニに近くのゴブリンが寄ってきてもおかしくは無い。けれど、青年二人がどうなったかは俺が知る由もなかった。
家に戻り、一息ついた後に考える。
生き延びた皆が、助け合って生き残るのは無理なのだろうか?もし、集団で生き残るのであればどんな手段を使えば纏まれるんだろうか。だが、俺の中でその答えは出なかった。
でも、避難所を見てみるのは悪くないかもしれない。確か近くの警察署に逃げ延びた人々が居たはずだ。そこなら本物の銃を触るついでに、避難所の現状が知れるかもしれない。
——行ってみるか、警察署に。
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