第4話 恐怖と
「『
俺の右手にはエアガンの感触。だが問題はここから。
マガジンを抜いて中の弾を覗く。
そこには——
今迄の白いBB弾とは違う、灰色の弾。どうやら成功したようだ。
俺はマガジンから一つ取って指で摘んでみる。それはBB弾と同じ大きさで、丸く磨かれている。
「確かに模様は石だが、綺麗過ぎて石には見えないな」
それはさておき。問題はどれだけ威力が上がるか。
俺は銃口を家の壁に向けて、放つ。
反動音はエアガンと変わらない、だが。壁に当たった弾は、BB弾とは違い壁を破っていった。
当たった箇所を覗き込めば——そこには壁、外壁を貫通した跡。弾と同じ小さな穴が開いていた。
この威力ならいける。俺はそう確信した。
♦︎
石弾のエアガンと軽量化した鉄パイプ。その二つを持って俺は外に出ようとしていた。
目的はこの間とは逆の家からの食糧調達と、作成した武器をゴブリンに試す事。
玄関前に立つとやはり緊張する。遠くから攻撃出来るとはいえ住宅地では死角は多い。傷を追う可能性は低いわけでは無い。
ただ、やはり強力な武器を持つというのは心強い。そしてこの前のように慌てたりはしない、大丈夫だ。
外へ出て自宅が接している道路。どうやらゴブリンは居ないようだ。俺は隣の家の敷地へと足を踏み入れる。そして今度はちゃんと確認しながら掃き出し窓のある裏へと回り込む。
すると——目的としていた、窓が大きく割れていた。
外から割られており破片は中に。その割れた箇所は大きく、ゴブリンなら出入り出来そうな程の大きさ。
ここ数日は窓が割れるような大きな音なんてなかった。なら、騒動の起きた数日か?
ここは避けるかとも考えたが、興味本位でカーテンを少しだけずらして中を覗き込んでみる。
——他の窓が締め切られているからか、暗くて良く見えない。もっと大きくカーテンずらす、と。
「うわっ!」
窓から近いところに見えたもの。
それは、壁や床にどす黒い何かの跡。そこから視線を動かすと……近くに人が仰向けになっている姿が有った。
外からの光が差し込み、その顔の部分がはっきりと見えてしまう。
その顔は、目が見開かれ……何かに怯えるような表情をしていた。
そして俺は
俺は慌ててその場から逃げ出し、気がつけば自宅へと逃げ帰っていた。慌てて玄関の鍵を閉め、その場に座り込んで恐怖に震える。
体の震えが止まらない。まだ、あの表情が目に焼き付いている。
多くの人が死んだ事はネットで調べて知っていた。でも、情報を文字や動画見るのと、実際に見るのとでは、違う。
人の死、しかも見知った人が死んでいたという事実。それを目の当たりにした俺は、先ほどまでの余裕なんて全て無くなってしまった。
♦︎
翌日。未だに俺はあの光景を引き摺っていた。けれど、恐怖は薄れ、震えは無くなっていた。
悪夢を見るほどに散々考えさせられた俺は、こう考えた。
俺は、絶対にあんな風に死にたくない。そして生きる為なら、たとえどんな卑怯でも汚い手でも使ってやる——と。
俺の何かが欠落した瞬間だった。
「とにかく安心出来るだけの武器で身を固める」
俺は少しでも安心出来るように武器を作っていた。
石弾のエアガンをまた作り、そして両手で持って遠距離から撃ちまくる。更に念には念を入れて予備のエアガンを一つ。
更に次の日。
昨日の夜で食糧は尽きた。俺は生きるために今日中に外に出なければならない。
短めで衝撃を付与した鉄パイプを作り、腰に挿す。
そうすると、俺の姿は両手にエアガンを持ち、ズボンの腰部分にも予備のエアガンが挿してある。おまけに両脇には紐で括り付けた、長さの異なる鉄パイプ二本。
石弾のエアガンが有るのに過剰だとは分かっている。だが、俺は魔物が怖いし死にたくない。
僅かでも安心出来るのなら、誰かに笑われたって構わない。
俺は深呼吸して、玄関を出る。
家は今回でトラウマになったので、今後は出来るだけ避ける事とする。
となれば、俺が目指すのは最寄りのコンビニ。
本来なら徒歩三分の道。
だが奇襲が無いよう、気を配りながらゆっくりと道の中心を歩く。途中血の跡はあったが、出来るだけ見ないように、気にしないように俺は歩いた。今は、敵にだけ集中しなければ。
——銃を構えながら、大袈裟に大回りに角を曲がる。だがゴブリンは居ない。
この辺に人が居なくて移動したのか?いや、余計な事を考えるのは今は無しだ。
更に歩くと、コンビニの駐車場が見えてきた。
そこで目に入ったのは、乗り捨てられ雑に置かれた車。それに、血の跡。
ゴブリンを倒した時のように黒ずんだ跡も有る事から、食糧を求めて人が来たのは何となく察せた。けれど、今は人の姿も、ゴブリンの姿も無いようだ。
俺はそのままコンビニの壁に背をつけ、中へ耳を澄ます。
——コンビニの中からは何かを漁る物音が聞こえる。何か居るのは間違いない。
果たしてそれは人か、魔物か。俺はエアガンを握りしめ、入り口へと向かっていった。
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