第3話 検証

 飯を終えて俺は取扱説明書のメモを眺めていた。


 食糧が増えたと言っても節約して五日しか持たない。だから余裕をもって四日目には食糧を求めて外に出る必要があると考えている。

 それまでに魔物に対して出来る限りの対策を取りたい。その為には『兵器作成ウェポンクリエイト』で強い武器を作り出さなければならない。


「出来ればさっきみたいな接近戦は避けたい。遭遇したゴブリンが刃物でも持っていたら危険過ぎる」


 特に格闘技を習っていたわけでも無い普通の18歳だ。攻撃なんて見切れる訳がない。いつか大怪我するのがオチ。


「……となるとやっぱり銃みたいな遠距離武器。漫画や小説で良くあるのは……ボーガンとか弓か?」


 元々威力があるから、仮に『威力マイト』の特性を付与すればゴブリンの頭を貫通する位の威力になるかもしれない。


「でも、矢をセットしないとだから連射が出来ないんだよな……外したら即ゲームオーバーだな」


 正直、ゴブリンに遭遇して焦っている中で当てる自信が無い。

 幾つか持っておくか?でも持ち替えで近付かれそうだな。


「そうなると銃しか選択肢が無い」


 俺は作り出したエアガンを手に取る。『威力』と『衝撃』が付与された拳銃。

 戦いではBB弾にも関わらず、頭に衝撃を与えていたように思える。その威力は必死であまり見ていなかったが、ゴブリンが出血していたし目に当たればそれなりか?牽制にはかなり優秀だったのは間違いない。


 けれど、理想は本物の銃のように頭を打ち抜けば倒せるだけの威力。このエアガンと本物の拳銃……何が違う?俺はそれに頭を悩ませる事になった。

 



「『威力マイト』と『衝撃インパクト』を付与した『鉄パイプ』をよこせ」


 今日の二回目の『兵器作成ウェポンクリエイト』は鉄パイプ。それは何故か?

 まず、銃については案がでるまで保留。そこで万が一近付かれた時のための武器を考えた。


 ます思い付いたのがファンタジー特有の西洋の剣、触った事が無い。木刀、切れ味なんて無く、鈍器と似たような物だろう。刀なんて触った事も無ければ、そんな強い武器はまだ作れそうに無い。

 身近で殺傷力の高い物。悩んで思い付いたのが鉄パイプだった。


 俺の右手に金属の感触と重量感。右手に視線を落とすと、一メートル程の長さで割と厚さのある鉄パイプが有った。『兵器作成』は無事に成功したようだ。

 鉄パイプを右手に持って振ってみると、俺はその重さで体のバランスを崩してしまう。


「ダメだ……重い」


 俺は自分の腕力の無さを嘆いた。


 ……それは置いといて。どうせ予備武器なのだから片手で振れるだけの物が良い。コレを特性で短くするか?でも射程が減るし、特性をデメリットで埋めるのは損した気分だな。


「……そうか!」


 ふっ、妙案を思い付いたぞ。これは明日のお楽しみだな。俺は内心ワクワクしながらその日を終えた。



♦︎



 ——翌朝。


「よし、やるぞ!」


 悩む事もないほど簡単な事だった。重くて扱えないのなら、軽くすれば良いだけの話だ。


「『軽さライト』と『威力マイト』を付与した『鉄パイプ』!」


 昨日と同じ、金属の感触。だが、それは明らかに軽かった。

 そして、右手に持ち鉄パイプを振ってみると空を切る音が鳴る。


「成功だ!これなら充分扱える!」


 威力の方は検証しようが無いが、元々人に凶器となるような武器だ。ゴブリンにも充分な性能を発揮してくれるだろう。


 予備の武器に関しては順調にいった。

 ——だが、メインとなる銃を作るために俺は苦戦する事となる。



 二日目、二回目の作成。


「『威力』と『威力』を付与した『銃』をくれ」


 そう言うだけで俺の右手にはエアガンが作り出される。

 俺はヒラヒラと床に落ちたメモ用紙を拾って確認する。


ーーーーーー

兵器取扱説明書


武器タイプ/エアガン

特性/『威力』

弾/BB弾(最大30発)


補足/同じ特性の付与は出来ません。


本日の作成可能数(0/2)

ーーーーーー


「うーん、ダメか」


 一回目の挑戦は失敗に終わってしまった。


♦︎


 ——三日目。


 家の壁を検証台にして、エアガンの弾を発射する。

 もし両親が戻ったら怒られそうだが……俺の命に関わる事なので許して欲しい。


 一回目は『威力』に加えて『速度スピード』の特性を付与するも、弾速は上がったものの威力にはあまり変化が無いように思える。


 二回目。

 寝るまでに良い案が思い付かず、『命中ヒット』を付与してみた。

 すると標的としたゴミ箱からわざとズラして撃っても、僅かに弾がゴミ箱の方へと曲がっていった。


「これは……使えるな」


 いずれ本物の拳銃が作成出来る様になった時、真っ先に付与しようとそう思った。



♦︎



 ——目標としていた四日目の昼。


 俺は眉間に皺を寄せながらメモ用紙を眺めていた。


「銃の威力を決めるのは何だ?推進力か?」


 仮に火薬でBB弾を発射したらどうなるか……それでも結局弱そうだな。最悪弾がはじけ飛ぶ。

 となれば、火薬に耐える丈夫なBB弾じゃないとダメだ。プラスチックじゃ無くて、本物の銃みたいに金属なら——。


「ん?弾?金属?……そうか!」


 何でこんな簡単な事が分からなかったんだ!弾を金属にすれば良いだけじゃねえか!弾が硬ければそれだけ威力が上がる!


「『威力マイト』と『鉄弾アイアンバレット』を付与した『銃』を!」


 そうして作成されたエアガン。

 俺は心を踊らせながらエアガンを持ち、マガジンを抜いてみる。


 すると——



「……あれ?」



 マガジンに入っていたのはプラスチックのBB弾。失敗だった。

 俺はかなり落胆しながらメモの補足を見る。


ーーーーーー


補足/残念!能力の成長度が不足しており、『鉄弾アイアンバレット』はまだ付与出来ません。成長するまで頑張ってね!あ、石の弾なら出来るかも!


ーーーーーー


「おい、これ絶対トリセツだろ!補足もお前なのかよ!」


 トリセツのお陰で銃の威力を上げるための解決策は見つかった。

 けれど、俺はそれに納得がいかずに気分が晴れないのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る