15
「結局なんだったんだよ」
もはやこの家全体が遺品のような感覚だった。
ここに残されたものは何一つ俺のものでは無い、俺の家族ですらない人のものなのだから、俺がどうこうしようとは一切思わなかった。
母親が最後に見ていた弟の遺品が丁寧に母親の寝床のそばに置かれていた。
そこそこのダンボール箱に詰められたそれを一つ一つ眺めていく。
例の切り抜かれた卒業アルバム、ページをめくり弟のクラスページを見る、左ページに弟の写真が中央あたりに載せられている。
左ページ、中央よりやや下にくっきりと縦長の長方形の穴が空いていて、次のページ、つまり隣のクラスの生徒写真が覗いていた。
ヒサシはページをめくる。
その切り取られた部分に着目すると、どうやら1人の女子生徒の写真が無くなっていた。
名前は『市橋サラ』
「なんでこいつの写真が無いんだ」ヒサシは頭をひねる、が何も思い浮かばない。
「そういえばあの石原さちは誰だったんだ。あの女もイタズラがすぎるな、死んだ女の名前を語るなんてよ」
ヒサシは卒業アルバムをダンボールに戻し、さらにその下にあるバインダーを取りだした。
「作文か? 『君との思い出 田畑タケル 四面楚歌合作』なんだこれは」
ヒサシは綴じられた原稿用紙を適当にめくりバインダーの背表紙にたどり着いた。
「履歴書? 登場人物の略歴」と用紙の上部に書かれた文字を見る。
どうやらこのバインダーに綴じられていたのはタケルが書いたと思わしき小説のようなもので、この履歴書はその登場人物の経歴などを書き込むためのもののようだった。
律儀にも本物の履歴書のように顔写真も貼り付けられている。
ヒサシはその履歴書を1枚めくり、自分の目を疑った。
『石原サチ 16歳』紛れもなくその履歴書に貼られていた写真はヒサシがあの時あった石原サチ本人だった。
あどけなさの残る顔だが、この数年後に会ったと納得できるくらいの印象は持ち合わせていた。
連絡先や住所まで書き込まれている。
本当にこの住所や携帯の電話番号は正しいのか……
ヒサシは思い悩んだ末に、電話を掛けてみた。
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